つむじ
つむじ

(キャスト)
草薙 草太(くさなぎ そうた)…十四才、中学生。気弱で、学校に溶け込めないでいる。
つむじ  ……天狗の娘。まだ飛べない。自分がおちこぼれだと悩んでいる。
神崎 真言(かんざき まこと)…二六才女性。敏腕フリーライター。気が強い。
馬場 高志(ばば たかし)…二三才男性。カメラマン。真言の後輩で真言に頭が上がらない。


(序章)
     舞台端に草太。草太にスポット。

草太  「僕の名前は草薙草太。中学二年生。
     趣味はゲーム。友達は、あんまりいない。
     みんなと話すのは、あんまり得意じゃないんだ。
     誰かと話そうとすると、緊張しちゃって、うまく話せなくなる。
     だから、みんなと遊ぶより、家で一人でゲームをしている方が楽なんだ。
     それなのにこの夏休み、僕はおばあちゃんの家があるこの村に連れて来られた。
     おばあちゃんの家はすっごく田舎で、いまどきテレビゲームも、クーラーさえもない。
     おばあちゃんは、村の子達と外で遊んできなさい、なんて言うけど、
     クラスのみんなにもなじめない僕が、
     初めて会った村の子供たちなんかと仲良くなれるわけがない。
     だから僕はいつも、おばあちゃんの家の裏にある山で一人で遊んでいた。
     山の中は、大きな木がたくさんある、森になっていた。
     そこではいつも、青々と茂る葉が穏やかな風に吹かれてそよそよと揺れていて、
     外の焼けつくような暑さが嘘のように、とても静かで、涼しかったんだ」

     スポット消える。
     同時に舞台の反対側に明かり。
     つむじが立っている。

つむじ 「あたしの名前はつむじ。こう見えても、あたし、人間じゃない。
     風を自由に操って、空を飛び回る、天狗っていう生き物……の、子供。
     あたしはまだまだ未熟で、空を飛ぶことができないんだ。
     一族の長で、誰よりもうまく風を操るお父様はもちろん、
     あたしより二つ上の兄様も、あたしの幼馴染の男の子たちも、
     あたし以外の一族の者たちはみんな、それは上手に空を翔ける。
     翼で風をとらえて飛ぶ鳥たちとは違って、あたしたち天狗は、風に「乗る」。
     その姿は本当に美しく、自由で、あたしにはそれがうらやましくてたまらなかった。
     どうしてあたしだけ、飛べないのだろう。
     きっとあたしは、おちこぼれなんだ。
     そんなふうに考えたら、急に、みんなと一緒にいるのが恥ずかしくなって、
     あたしは集落を抜け出した。
     無我夢中で走って、ふと気がついたら、あたしは集落からずっと離れた森の中にいた。
     夢中で走ってきたから、自分がどうやってそこまで辿り着いたのかも覚えていない。
     集落までの帰り道も分からなかった。
     どうしよう、あたし迷子になっちゃった」

     舞台の両側に明かりがつく。

二人  『そんなある日、』

草太  「僕は、」

つむじ 「あたしは、」

二人  『あの子に出会った』

     オープニングテーマ、かかる。
     暗転。
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