或る親子
〜汚れた手で幸福は掴めるか
   或る親子〜汚れた手で幸福は掴めるか
 
 
  キャスト
 
 父
 娘 常にぬいぐるみを持っている。
 
 
 
  父、娘、舞台中央に立って、店を見ている。
 
 父 「よし。今日はこの店にするか」
 娘 「うん……」
 父 「こういうな、中くらいに大きい店が、狙い目なんだよ」
 娘 「うん……」
 父 「(覗く)客は誰も居ないみたいだな……よし、ちょうどいい。行くぞ」
 
  父、娘、店に入る。
 
 父 「醤油ラーメン一つと……コーンバターラーメン一つ!」
 
  父、娘、座る。
 
 父 「……いいか。練習通りやるんだぞ」
 娘 「……うん」
 父 「コーンだけ、先に全部食えよ」
 
  娘、頷く。
  ラーメンが来る。
  二人、食べ始める。
 
 娘 「……う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 父 「どうした!?」
 
  父、覗き込みながら何かを器に入れる。
 
 娘 「は、ハエが、ハエがっ!」
 父 「何だと!? おいコラ店長コラァ!」
 
  娘、顔を押さえて泣きはじめる。
  父、立ち上がり厨房を睨む。
 
 父 「この店では、コーンの代わりにハエを使うのかぁ? ふざけんじゃねえよ! (器を持つ)おい、見ろよ見ろよ見てみろよ! 一つや二つどころじゃねえぞ? まさしくコーンの代わりとでも言わんばかりにたっぷりと入れやがってよぉ! こんだけハエ食ったら命に関わるぞ? どおしてくれんだよぉ!」
 
  父、泣いている娘をいたわる仕草。
 
 父 「……おい……こいつぁ一生もんのトラウマだぞ? この子は……もう二度とラーメンが食えねえ身体になっちまったんだ! (感傷的に)好きな食べ物は? と聞かれたら、迷い無くラーメン、と答える、いい子だったのに……お祈りをする時も、(アーメンの動き)ラーメン、と唱える、お茶目な子だったのに……(娘に聞く)好きな食べ物は?」
 娘 「(泣き声だがはっきりと)ラーメン以外だったら何でもいい」
 父 「ほら見ろ! あぁ? どう責任とってくれるんだ? あ?」
 
  父、店内を見回す。
 
 父 「(語尾上げ口調)幸いな事に、今は他に客が居ないようだけれども、この事がバレたら、やばいんじゃないの? いいんだよ、俺は。これから選挙前の街頭演説並みに喋り回っても。それともあれか? 2ちゃんねるとかに書き込んでやろうか。日本で唯一ハエバターラーメンが食べられるお店っていう風に紹介してやろうか!」
 
  少し沈黙。
 
 父 「……まあ、俺だって鬼や悪魔じゃない。出来る事ならそういう事は避けたいんだよ。だから……(五本指を立てる)こんなもんで勘弁してやるよ……五百円じゃねえよ! 何で一生もんのトラウマ背負わされた代償がワンコインだよ。……五万だよ、五万。さっさと出せよ! (ウザ口調)いーんだよ、べ・つ・に。おたくのハエバターラーメンのお味の感想を、ご近所の皆様にお伝えしてもー。(娘に聞く)どんな味でしたか?」
 娘 「(泣くのをやめ、はっきりと)この世のものとは思えない異臭が鼻を抜けていきました」
 父 「こんな感じでさぁー!」
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