会議室は突然に
「会議室は突然に」

<登場人物>
 編集長(女性向け雑誌の編集長・男)ちょっと優柔不断でお人好し
 玲 子(雑誌社の社員・女)冷静沈着に仕事をこなすクールな女性
 陽 子(雑誌社の社員・女)玲子先輩に憧れる張り切り屋
 美 樹(雑誌社の社員・女)貴のことを意識しているが言い出せない
 貴  (雑誌社の社員・男)お調子者で陽子のことが気になっている
 あゆみ(エッセイスト・女)のんびりとした雰囲気の女性作家
 浩 一(フリーのカメラマン・男)玲子と交際中らしい


  
  東京某所の雑居ビルの一室。雑誌出版社の会議室。
  シンプルな折りたたみ机とパイプ椅子が並んでいる。
  編集長が部屋の明かりをつけ、入室してくる。机や椅子を整頓したり、ホワイトボードを用意したり、せっせと会議の準備を始める。
  いつの間にか入口にあゆみが立っており、編集長の様子を眺めている。
  しかし、彼女に気付かない編集長。

あゆみ こんにちは。
編集長 (ビックリ)あ、あゆみさんじゃないですか?脅かさないでくださいよ。
あゆみ ごめんなさい。でも、あんまりにも熱心だったから・・・。最近の女性誌の編集長さんっていうのは、いろんな業務をなさるんですね〜?
編集長 あ、いや・・・、これはお恥ずかしいところを・・・。
あゆみ いくらお忙しいからって、なにも編集長さん自らこんな雑用をしなくてもいいんじゃありません?
編集長 いえ。少数精鋭のわが社ですから、現状で動ける人間が動く、というのがモットーでして、いつも忙しい時期には私の出番なんですよ。あ。お茶でも入れましょう。どうぞこちらへ。
あゆみ 結構ですよ。だって、お忙しいんでしょ?
編集長 え?いやいや。ぜんぜん忙しくなんかないですよ〜。ちょっと待っててください。すぐ入れてきますから。

  編集長、素早く部屋を出る。

あゆみ さっき「忙しい」って言ってましたのに・・・。(部屋の外へ向かって)あの〜、本当に無理なさらなくて結構ですから・・・。
編集長 (声)気にしないでくださいよ。たいした手間じゃありませんから。それに、こういうの、慣れてるんですよ。
あゆみ まあ。まさか、いつも部下にお茶くみをさせられていたりするんですか?

  冗談のつもりだったが編集長の返事がない。まさか図星?の間。

あゆみ あ、ええっと・・・、そうそう、お砂糖はスプーン2杯にしてくださいます?
編集長 (声)え?なんですか?
あゆみ お砂糖を2杯入れてくださーい!
編集長 (声)ああ、お砂糖ですか?入れちゃっていいんですね?
あゆみ ええ。お願いします。
編集長 (声)わかりました。

  しばらくしてお茶を運んでくる編集長。

編集長 お待たせしました。
あゆみ まあ。ありがとうございます。

  あゆみがお茶を飲む姿をニコニコと見つめる編集長。
  しかし、あゆみはお茶を手に取ったまま飲もうとしない。

編集長 どうしました、あゆみさん?
あゆみ あのぉ、これ、緑茶ですよね?
編集長 ええ。叔父が埼玉に住んでいまして、送ってくれた狭山茶です。
あゆみ お砂糖・・・入れちゃいました?
編集長 ええ・・・ああっ!これはうっかりしました。つい、言われるがままに・・・。
あゆみ いえ、私もてっきりコーヒーかお紅茶と早とちりしてしまって・・・。

  「これどうしよう」という間が開く。

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