マイ・パートナー

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初演日:0/0 作者:イチカワケイタ
   マイ・パートナー
 
 
  キャスト
 
 ヨシヒコ 男。ヤクザの息子。
 
 さくら 女。女子大生。
 
 
 想像人形A 不問。
B 不問。
 
 
 
 
 舞台、椅子が一つ。その椅子に、さくらが縛り付けられている。
 さくら、眠っている。……起きる。寝ぼけて周りを見回す。腕を伸ばそうとして、縛られている事に気付く。抜けようと試みるが、無理。なぜか笑顔。しかし、笑顔が徐々に消え、恐怖に顔が引きつる。
 
 さくら 「ちょっと……これ、何なのよ……」
 
 さくら、暴れる。痛がる。
 
 さくら 「ちょっと! 誰かー!」
 
 さくら、返事を待つ。しかし、無音。
 
 さくら 「……誘拐、されちゃったのかな……」
 
 さくら、俯く。首を横に振る。
 
 さくら 「誘拐って……何で……? うち、お金無いし……ど、どうしよう……」
 
 妄想に入る曲。
 人形A、登場。
 
 さくら 「ちょっと! これ解いてよ!」
 人形A 「お前は誘拐されたんだよ。大人しくしておけば、命までは奪わない」
 さくら 「そんな……」
 人形A 「そうだな……可愛い娘の命だ。一億円ほど要求しようか」
 さくら 「う、うちにそんなお金ありません!」
 人形A 「じゃあ、一千万円ほどにまけてやるよ」
 さくら 「そ、そんなお金も無いです……」
 人形A 「じゃあ、百万円」
 さくら 「厳しいです……」
 人形A 「じゃあ、五千円」
 さくら 「それもちょっと……」
 人形A 「お前の家には五千円もねえのか!?」
 さくら 「……多分あります。嘘です」
 人形A 「お前、状況がよくわかっていないみたいだな……」
 さくら 「す、すいません!」
 人形A 「まあいい……とにかく、逃げようなんて思うな。俺はお前を殺す事なんか何とも思わない。邪魔になったら、迷わず消すからな」
 さくら 「ううう……」
 
 人形A、退場。
 
 さくら 「みたいな事になるのかな……」
 
 少し沈黙。
 
 さくら 「……そうだ。何も、お金目当ての誘拐とは限らないじゃない! も、もしかしたら……」
 
 妄想に入る曲。
 人形B、登場。
 
 人形B 「ふひゃひゃひゃひゃひゃ! やったぞ! ついに俺は俺だけの女を手に入れたんだ!」
 さくら 「ちょっと! 変な事したらただじゃおかないからね!」
 人形B 「ただじゃおかないからね? ほーう。どうしようってんだ? こんな手足縛られた状態でよぉ?」
 さくら 「く……」
 人形B 「いいから大人しくしてろよ。今からいい事してやるからなぁぁぁ」
 
 人形B、さくらの肩に触れる。
 
 さくら 「いや――――っ!!!」
 人形B 「ご主人様と呼べええええ!」
 さくら 「嫌だよ!」
 人形B 「なかなか気が強いな。気に入ったぞ! ちょっと待ってろ。鞭とロウソクとってくる」
 さくら 「やだやだやだ!」
 
 さくら、足をばたつかせる。
 人形B、高笑いしながら退場。
 さくら、首を激しく横に振る。
 
 さくら 「やだやだやだ。こんなのやだ!」
 
 さくら、静止。溜息。
 
 さくら 「……待てよ。私、どうやって拉致されたんだっけ……えーと……大学から帰る途中にローソン寄って、それで……そうだ。何か急に隣で車が止まって、ドア開いて……何かよく覚えてないけど眠らされたんだ。そうだ」
 
 さくら、手足を動かそうとする。
 
 さくら 「……何か、プロの仕業っぽいな……だとしたら、私が何か、重要な存在である……とか?」
 
 妄想に入る曲。
 人形A、B、登場。
 人形B、さくらに近付き、ちょっかい出す。
 
 さくら 「……っ! やめてよ!」
 人形B 「ケッケッケッケッケッケ!」
 人形A 「傷付けたりするなよ。大事なお客様なんだ」
 人形B 「へっ。心配すんなよ。ちょっとからかってるだけだ」
 さくら 「あなたたち、何なの?」
 
 人形A、さくらに近付く。
 人形B、退く。
 
 人形A 「いいか、お嬢さん。あんたは、俺たちにとって重要な人間なんだ。だから、本当ならこんな事もしたくない(さくらの手枷足枷を触る)だがな、人間というものは汚いものでね……絶対に信用してはいけない。だから万全を喫して、あんたを拘束させてもらってる。」
 さくら 「……言いたい事がよくわからないわよ」
 人形B 「(さくらに詰め寄る)口で言ってわからねえなら体で教えて」
 人形A 「(Bを止める)落ち着け。そのうち嫌でも理解するさ」
 さくら 「だから、一体何なの? 私が重要な人間って……私ただの大学生よ? あなたたちみたいな黒い空気の人たちとは一切関わり」
 人形A 「ところがだ! あんたは昨日、とんでもないものを拾っちまったんだよ!」
 さくら 「……とんでもないもの?」
 人形B 「覚えてんだろ? あれだよあれ!」
 さくら 「もしかして……昨日の金庫?」
 A・B 「そうだ!」
 
 人形A、B、変な動きで退場。
 さくら、首を振る。
 
 さくら 「無いな。……第一、金庫なんか拾ってないもんな。……拾ってたとしても、どうしてそれを知ってるのよ」
 
 さくら、溜息。
 
 さくら 「……(顔を上げる)そうだ。もしかしたら……」
 
 妄想に入る曲。
 人形A、B、登場。
 
 人形A 「手荒な真似をして、申し訳ございません(礼。Bも)」
 さくら 「……これ、どういう事なの?」
 人形B 「とにかく、確実にあなたを確保しなければなりませんでしたので」
 さくら 「確保って……私が何をしたっていうのよ!」
 人形A 「……あなたに、お会いしたいと願っている人がいるのです」
 さくら 「……だ、誰よ?」
 人形B 「あなたの、お父様です」
 さくら 「…………え?」
 人形A 「あなたはご自分のお父様の事を覚えておいでですか?」
 さくら 「な、何となく……小さい頃に死んじゃったって聞かされてたけど……」
 人形B 「あなたのお父様は、亡くなってなどおりません。ちゃんと、生きております!」
 さくら 「そんな……じゃあ、どうして? どうしてお母さんは、死んだなんて嘘をついてるの?」
 人形A 「仕方なかったのです……残虐非道な悪の帝国軍、ボツリーヌスの手から逃れるために……」
 さくら 「ボツリーヌス?」
 人形B 「名前だけならば、聞いた事はあるでしょう?」
 さくら 「そんな……どうして、残虐非道な悪の帝国軍、ボツリーヌスがお父さんを?」
 人形A 「何故ならば……残虐非道な悪の帝国軍、ボツリーヌスにとって、あなたのお父様が最大唯一の標的だったからです!」
 さくら 「お父さんが……? じゃあ、じゃあ私のお父さんって一体何者なの?」
 人形B 「私の口から言っていいのかどうかわかりませんが……もはや隠し通す事はできません。あなたのお父様の正体は……オルタナマスクなのです!」
 さくら 「オルタナマスク……私の、お父さんが……」
 人形A 「今から二十年ほど前、当時世界を混乱に陥らせていた残虐非道な悪の帝国軍、ボツリーヌスに対し、たった一人で立ち向かっていった伝説の英雄、オルタナマスク! その素顔を知る者は誰もいない。風と共に現れ、雨と共に泣き、いつか全ての人々が太陽の下で笑える日を迎えるため、戦い続ける孤高の戦士!」
 人形B 「しかし今から十年前、オルタナマスクは残虐非道な悪の帝国軍、ボツリーヌスの頂点に位置するアルギニア提督に敗れ、姿を消した。すると人々は掌を返したように、オルタナマスクの事を非難し始めた」
 人形A 「正義に背を向けた、臆病者!」
 人形B 「一度の敗北で諦める、根性なし!」
 人形A 「世界を守る責任を放棄した、人でなし!」
 人形B 「ザコには強いがボスには勝てない!」
 人形A 「いちいちキメポーズを取るナルシスト!」
人形B 「何あのマスク? カッコいいとか思ってるわけ!?」
 人形A 「つーか、孤高の戦士っつってるけど、友達いねえだけだろ!?」
 A・B 「ぶへははははははは!」
 人形B 「……時代の流れとは、そして人間とは、恐ろしいものです」
 さくら 「……じゃあ、お父さんは?」
 人形A 「アルギニア提督との戦いに敗れたオルタナマスクは、以後ずっと、このシェルターの中で身を潜めておりました」
 さくら 「(見回す)シェルター……」
 人形B 「……時が満ちるのを、ずっと待っていたのです!」
 さくら 「時?」
 人形A 「そう。自分の力が、アルギニア提督を超えたと確信できる時を!」
 さくら 「……じゃあ」
 人形B 「そうです! オルタナマスクは明日、残虐なる悪の帝国軍、ボツリーヌスを撲滅するために、復活するのです!」
 人形A 「自分の命を、捨てる覚悟で……」
 さくら 「そ、そんな!」
 人形B 「その前に……死に向かう旅に発つ前に、自分の娘の育った姿を、一目見たいと……(涙を拭う。Aも)」
 さくら 「そんな……(泣き声)お父さん……」
 人形A 「……お見えになりました」
 さくら 「(顔を上げる)えっ?」
 人形B 「それでは、私たちは席を外させて頂きます」
 さくら 「あっ……」
 
 人形A、B、退場。
 さくら、さもオルタナマスクが来たかのように演技。
 
 さくら 「……オルタナマスク……ううん……お父さん!(一変)な―――――い! 絶対ない! ありえない!……(冷める)第一、私のお父さん普通に生きてるし。地元でクリーニング屋を営んでるし。夏休みに会ったし。……今年で四十七歳だし……はーあ」
 
 さくら、項垂れる。
 
 さくら 「……正常な思考ができなくなってるなぁ……まずいなぁ……」
 
 ヨシヒコ、登場。
 
 ヨシヒコ 「よっ! 目ぇ覚めた?」
 さくら  「(ぼーっとヨシヒコを見る)……あれ、また妄想?」
 ヨシヒコ 「は? ははは、面白い奴だな。やはり俺の眼に狂いは無かった……(遠い眼をして微笑)」
 さくら  「あ、あなたが、私を拉致したの?」
 ヨシヒコ 「そうだよ。正確には、拉致させたんだけどな」
 さくら  「(警戒態勢)……わ、私をどうする気?」
 ヨシヒコ 「どうするって言うか……」
 さくら  「私んち、十分な身代金なんて用意できないからね。あ、あと、変な事しようとしたら、噛み付いてやるからね! 金庫なんて拾ってないからね! お、オルタナマスクなんて聞いた事も無いから!」
 
 ヨシヒコ、笑う。
 さくら、不審そうな顔。
 
 ヨシヒコ 「何言ってんだよお前。おもしれーな。俺は別に、金が欲しくてお前をさらったわけじゃない。やらしい事する気も無いし……あと、金庫って何だ?」
 さくら  「……いや、よくわかんないけど……変なもの見たり聞いたりして、変な事に巻き込まれたりしちゃったりなんかしたり……」
 ヨシヒコ 「ははは。そんな事もねえよ。……あと、オルタナマスクって?」
 さくら  「(俯く)……何でもない」
 
 ヨシヒコ、笑う。
 
 さくら  「……じゃあ、何で私を誘拐したのよ。それに……あなた誰?」
 ヨシヒコ 「ああ、自己紹介まだだったな。俺はヨシヒコ。タニザキ組系列キノサキ組の組長の次男だ」
 さくら  「……組長って……や、ヤクザ!?」
 ヨシヒコ 「まあ、俗っぽく言うとな」
 さくら  「ヤク、ザ……」
 ヨシヒコ 「おいおい。そんなにビビるなよ。それに正確に言うと、俺自身はヤクザじゃないんだ。親父が組のトップってだけで。今のところは、ただのフリーターだよ」
 さくら  「何で……私を……?」
 ヨシヒコ 「それはな……」
 
 ヨシヒコ、急に落ち着かなくなる。頭をかいたり、手をポケットに入れたり出したり。
 
 ヨシヒコ 「お前、を……」
 さくら  「私、を……?」
 ヨシヒコ 「……いや、お前と……」
 さくら  「私と?」
 ヨシヒコ 「……コンビを組みたい」
 さくら  「………………え?」
 ヨシヒコ 「……これから、よろしく頼むな。相方」
 さくら  「……あの、どういう事? さっぱりわかんないんだけど」
 ヨシヒコ 「(微笑)……漫才師だよ。お笑いだよ!」
 さくら  「はあ!?」
 ヨシヒコ 「俺の、ガキの頃からの夢だったんだ。この国で、知らない人間がいないような、ビッグな芸人になるのがよぉ!」
 さくら  「えええぇ、で、でも、そんな、無理、無理だよ!」
 ヨシヒコ 「無理じゃあ、ねえよ」
 さくら  「だ、第一、何で私なの? 誰か男の人とやればいいじゃない!」

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