B・HAPPY

(びー・はっぴー)
初演日:2005/8 作者:若頭ぐっち(橋口 征司)
B・HAPPY

     作  橋口 征司


  ☆登場人物

  ユカリ 母(幽霊)
  タカシ 父 
  アカネ 長女
  ミカ  次女
  ナツミ 父の恋人


     ☆


     真っ暗な舞台にユカリが浮かび上がる。誰かと交渉している様子。

ユカリ …この日が、私が死んでちょうど十年目ですね…そう、この日。この日じゃないと
    ダメなんです。一回だけでいいから。ね、お願い♪(何か色っぽいポーズ)
    …ダメ?ケチ。(独り言)ちぇっ。色仕掛けは効かないか…いえいえ、
    何でもないです。お願いしますよ。…頭固いな〜もう。一回だけって言ってるじゃ
    ないですか。あーそーですかわかりましたよ。こうなったら地縛霊になって、
    手当たり次第崇って心霊スポット増やしてやるんだから。
    (態度変えて)…え、本当ですか?ありがとうございますぅ〜。信じるものは
    救われるってね。はい。もう二度と言いませんから。え?私の姿は家族にしか
    見えない?もちろん、大丈夫ですよ。(真剣に)…そう、約束を果たすために…

     ユカリが消え、照明が付くとそこはリビングルーム。ソファでコーヒーを飲み
     新聞を読んでいるアカネ。テーブルには写真立て。タカシがネクタイを
     締めながら登場。

タカシ なんだアカネ、学校に行かなくていいのか?
アカネ うん。今日は高校の創立記念日だから。
タカシ そうか…そうだったな。
アカネ それより父さん、今日は大事な日でしょ?
タカシ ああ、うん…て、何で知ってるの?

     ミカ、慌てながら登場。

ミカ  わ〜っ遅刻、遅刻するっ!なんで早く起こしてくれないのよ!
アカネ 何回も起こしたっつーの。てか目覚ましかけてんでしょ?
ミカ  知らないよ。いつの間にか誰かが勝手に止めてんの!お姉ちゃんでしょ?
アカネ んなわけないっしょ。
タカシ ああミカ、丁度よかった。ちょっと話がある。
ミカ  えぇ〜?今忙しいのに。帰ってからにしてよ。
タカシ いや、ちょっとでいいからさ。
アカネ そうそう。今日は大事な日なんだから。
ミカ  なんだよぅ〜?
タカシ えと、な。お前たち、彼氏とかいるのか?
二人  はぁ?
タカシ いや、ちょっと参考までにさ。好きな人くらいいるんだろ?
アカネ …父さんどうかしたの?急に変なこと聞いて。
ミカ  そりゃぁお年頃なんだから、カレシの一人やふたりいるでしょ。
タカシ なに!?ミカはまだ中学二年生だろ?彼氏の一人やふたりって…そんなの、
    父さん許しません。
ミカ  なんだよ、自分で話振っといて。もう学校行くよ!
タカシ ああ、いや、その…ごめんごめん。実はな、え〜っと、何だ、あの〜
アカネ 言いたいことがあるならはっきり言えばいいじゃない。母さんのことでしょ?
タカシ うん…そのことなんだけど…父さんにもな、その…好きな人がいてさ。
ミカ  はぁ?
タカシ お母さん欲しくないか?。
アカネ !(コーヒーを新聞に吐き出し)げほっおぅえっ!…何それ。
ミカ  汚いな〜もう。(父に)意味がわかんない。
タカシ だからな、父さん再婚しようかな、って思ってるんだ。実はさ、お前達に紹介
    したいヒトがいてさ…今晩連れて来ようかな、って思ってるんだけど…
ミカ  へ?なんでそんな大事なこと急に決めんのよ。
タカシ いや、ずいぶん前に決めてたんだけど、なかなか言い出せなくてさ…
アカネ …父さん、今日が何の日か知ってて言ってるの?
タカシ だから、大事な決断をした日だよ。
アカネ 今日は母さんの、十年目の命日なんだよ。ひょっとして忘れてない?
タカシ …(思い出した様に)う、おうっ、も、もちろん。
ミカ  モモチロン?
タカシ もちろん、思い出した…じゃない、憶えてるさ。
アカネ 忘れてたね。
ミカ  すっぽりね。
タカシ …そうか〜今日はそうだったな…あ、でも、こういう大事なことは母さんにも報告
    しなきゃならないから、ちょうどいいか…な。十年目の区切りだし…どうしよう?
アカネ 私に聞かないでよ。
ミカ  好きにすれば〜?あたし今日、部活で遅くなるから。
アカネ ミカ、母さんの命日って言ってるのに。部活とか言って、どうせデートでしょ?
タカシ デート!?
ミカ  んな訳ないし。お姉ちゃんだって今日オトコ遊びに行くって言ってたじゃん。
    「和田くん」と。
タカシ わだくんと男あそび!?
アカネ 変な言い方しないでよ!和田くんは、一緒に遊びに行く同じクラスの男の子。
ミカ  お気に入りのね。
アカネ ミカ!
タカシ …一対一か?
アカネ え?
タカシ まさか男友達とふたりっきりで『でぇと』じゃないだろうな。
アカネ …違うよ。三対三でカラオケとか行くんだよ。
タカシ カラオケ「とか」?カラオケ以外に何する気だ!(独り言のように)母さんが
    死んで十年、男手ひとつで娘たちをここまで育ててきたんだ。愛する娘と書いて
    マナムスメ。大事な娘に傷でもつけてみろ…ぶちのめす。てか再起不能に
    なるまで殺す。
ミカ  混乱して訳わかんなくなってるよ。んじゃお姉ちゃん、あたし学校行って来るから
    後よろしく!(走って退場)
アカネ あ、ミカ…早く帰って来なさいよ!…もう。(ブツブツ言ってる父に)父さん、
    ミカ行っちゃったよ。父さん、父さんっ!
タカシ …ん?お!?何だよ、父さんをひとりにするなよ。(時計を見て)ああ、もうこんな
    時間か。父さんも仕事行かなきゃ。アカネ、七時頃には連れてくるから…
    新しい家族なんだから失礼の無いように。じゃあよろしくな。行ってきます!(退場)
アカネ え、よろしくって…何をどうすればいいって言うのよ。もう…(写真立てに向かって)
    母さん、今の聞いたら何て言うかな。やっぱり悲しいよね?自分のこと忘れられてる
    みたいでさ…(時計を見て)あ、私もそろそろ支度して出なきゃ。(カップを下げ)
    じゃあ母さん、行ってきます。

     アカネ退場。時間が流れ夕方に。ユカリ登場。

ユカリ (室内を見渡し)…懐かしい。ちっとも変わってないな。十年か…そうそうこの傷、
    アカネが付けたんだっけ…テレビは買い換えたんだね。ミカがよくいたずらしてたな…

     しばらく部屋を見回している時に、アカネが携帯メールを打ちながら帰宅。

アカネ ただいま〜。あ〜疲れた。のど痛い…
ユカリ お帰りなさい。楽しかった?
アカネ あ〜母さんただいま。ちょっと歌いすぎちゃった。
ユカリ そう。

     ユカリとアカネ目が合う。初めてユカリがいることに気付き焦るアカネ。

アカネ かっかっかぁ〜かあ〜…
ユカリ 何よ。水戸黄門?
アカネ …あんた、だれ?
ユカリ あら。わからないの?無理もないか〜まだ…
アカネ ストップ!(独り言)わかった、このヒトが父さんの言ってた再婚相手か〜。
    母さんにそっくりだからびっくりした。父さんも一緒に帰ってきてんのかな。
ユカリ どうしたの?
アカネ えっと、父はどこですか?
ユカリ まだ帰ってないわよ。会社じゃない?
アカネ そうですか。(独り言)なによこの女、もうタメグチ?あ、そういうキャラで
    仲良くなろうって作戦か。子供と思ってナメてるわね。
ユカリ また独り言?小さい頃から変わってないのね。
アカネ 失礼ですけど、お名前は?
ユカリ 忘れたの?
アカネ 父がちゃんと教えてくれなかったもので。
ユカリ …ユカリ。
アカネ ユカリ…さん?(独り言)名前まで母さんと同じじゃん。どういうこと?父さんの
    イタズラ?
ユカリ 母親の名前を忘れるなんて。母さん悲しいな。
アカネ すみません。父がだらしなくて。…え?母親の名前?(独り言)何よ、もう再婚した
    気になってるの?図々しい。
ユカリ アカネ、本当に母さんのことわからないの?
アカネ え?
ユカリ 寂しいなぁ。でも無理ないか…母さんが死んだの、あなたがまだ七歳の時だった
    もんね。でもほら、お陰で歳取ってないでしょ?永遠の二十九歳よ。
アカネ 母さんが死んだのは三十一の時ですが。
ユカリ …ごめん。サバ読んだ。三十路より二十代の方がいいし。
アカネ その微妙な見栄の張り方…母さんっぽいかも。ほんとに?それじゃあ、私の足に
    アザがあるの、知ってる?
ユカリ 右足でしょ。ナイキのマークみたいな。
アカネ ブーメランかと思ってたけどナイキか…それじゃあ、ミカの名前の由来は?
ユカリ 産まれた時、黄色っぽかったから。みかんのミカ。
アカネ え、マジでそうなの?知らなかった。
ユカリ ちなみにあなたの名前は。
アカネ いや、いい。何となくわかった。
ユカリ 赤かったからねぇ。
アカネ くっ…やっぱり安直。じゃあさ、この机の傷は?
ユカリ それは母さん知らないわよ。
アカネ え〜知らないんだ〜?…そうだよね。去年父さんがキレて殴った傷だもんね。
    父さんも右手の骨にヒビ入っちゃったし。
ユカリ そんなことあったの。相変わらず無茶するんだから。…でもこっちの傷は覚えてる
    わよ。あなたが五歳の時ね。ご飯食べたくない〜って炊飯器投げつけたのよね…
アカネ …あの時意識がモウロウとするまで殴られたっけ…思い出した…本物だ…本当に
    母さん…
ユカリ そうよアカネ。ただいま。
アカネ 母さん!(抱きつこうとして)…ってことは幽霊いい〜!(離れる)
ユカリ もう〜せっかくの感動の再会なのに〜。とり憑いたりしないから大丈夫よ。
    今日一日だけ戻ってきたの。十年目の記念で。
アカネ 何の記念よ。足は…あるんだね。触ってもいい?
ユカリ いいわよ。ほら。(アカネの手を取り頬に当てる)どう?

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