ギウダ

「ギウダ」

森島 永年 作
第一幕「水底のエルドラド」



 水脈占いの男が占い棒に引っ張られるように、舞台の上に飛び出してくる。それは、まるで空を翔んでいるようだ。

忠浩     どこへ俺を連れて行くんだよ。こんな方に水があるわけがないだろ…そんなに引っ張るなって、分かったよ。こうなったらどこまでも行ってやろうじゃないか。

 水脈占いのダウンジング棒に引っ張られて忠浩が消えると、それに合わせたかのように、色とりどりの振り子がゆれだす。その間を鉄輪、振り子、椅子などのさまざまなダウンジングの道具を持った人間たちがさまよい歩く。もう一度忠浩登場。

忠浩     ええ、ちょうど水脈占いをやっていたときだったんです。アルバイト程度ですが、水脈占いをやっていましてね、この 水のたっぷりある日本じゃ、殆ど必要とされない職業です。たまにある仕事といえば、地下レーダーに反応しない古い水道管探しとか、井戸を掘ったけれど出なかったから、ポイントを捜し当ててくれというような話で、これだって、年にいくつもあるわけじゃない。 殆ど趣味みたいなもんです。今日は珍しく、井戸掘りをするからというんで、水脈占いをやっていましてね、ぐるっと一回りしたところで、いきなり手に持った棒が水も何にもありゃしない方向へ、私を引っ張り始めた。・・・おい、そんなに引っ張るんじゃないったら。おい・・・

 いきなり、王子が飛び出した。あっという間に忠浩の背中。

王子     おっさん、人の獲物を横取りするつもりかい。

忠浩     獲物だって。

王子     同業者なんだろ。先に目を付けたのはこっちなんだから、さっさと手を引くのがマナーってもんじゃないのかい。

忠浩     なんのことやらさっぱりわからんが、とにかく止めてくれ。棒に、引っ張られているんだ。

王子     この棒は、三千年林のハシバミの若枝で作ったね。

忠浩     ああ。

王子     あの枝で作った占い棒は、水には導いてくれないことも知らないのか。

忠浩     うあああ。

王子     大げさな声を出すんじゃない。もうすぐ、この枝も目的の所へ辿り着くだろう。

忠浩     人の背中にいるから、好き勝手なことぬかしやがって、こっちはもうかれこれ一時間は走り回っているんだぞ。

王子     安心していい後たった一時間走れば、目的地だ。それに走っているのはお前だけじゃない。

忠浩     誰が走っているっていうんだ。

王子     ほら、私のつばめたち。

 空をつばめがまったかと思うと、顔がいいだけのつばめたちが忠浩と王子を囲む用にして怒涛のごとく走り去った。 忠浩がダウンジング棒に導かれて退場すると、また振り子の群れが動きだすが、それを見ている暇もなく、もう一人の男がトランクを下げて歩いてくる。どうやらつけてくる後の男が気掛かりだ。

山田     あの、私になにか御用ですか。

眠      カンボジアはいかがでしたか。暑かったですか。

山田     ええ、まあ。

眠      国際問題とはいえ、大変ですね。

山田     自分たちは命令で行っているだけですから。………向こうへ行っても工事をしているだけですし。

眠      ポルポト派とは逢いましたか。

山田     自分たちは道路を直していただけで、前線には出なかったんですよ。

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