いちばん悪い魔法


     「いちばんわるい魔法」


お母さん   クッキーが焼けたわよ。
恵美     クッキーが焼けたんじゃなくて、クッキーを出したんでしょ。
双葉     そうよ、お母さんの出来る魔法って、クッキーを出すだけなんだもの。
お母さん   憎まれ口をたたく娘は、食べてもらわなくて結構です。
友里     私、お母さんの焼くクッキー大好き、だって、お店で売っているクッキーよりもずっとおいしいもの。
恵美     友里、あんた、胡麻すろうってんじゃないでしょうね。そりゃ、私達だって、お母さんのクッキーはおいしいと思っているわよ。だからって、おやつのたんびにクッキー食べてたら飽きちゃうわよ。
双葉     たまには、違うもののも、食べたいなって思うわよ
お母さん   あんたたちには、食べてもらわなくて結構です。さあ、友里全部食べちゃっていいわよ。
友里     わーい、全部私んだ。
恵美     それは、ないわよ。食べないって、いっているわけじゃないでしょ。ちょっと、クッキーには、飽きたなってねえ、双葉。
双葉     そうよ、お姉ちゃんの言う通り。
おばあちゃん 何を騒いでいるんだね。また、わがまま言ってお母さんを困らせているんだろう。人間、辛抱が一番なんだから。
恵美     おばあちゃん、何をぼけているのよ。私達は人間じゃないでしょ。世界で、一番意地悪な、魔女の血をひく魔女の一家なんでしょ。
双葉     そうよ、おばあちゃん、いつも自分で言っているじゃない。うちは、由緒正しき、いじわるな魔女の家系だって。
友里     ねえ、ねえ、由緒正しきってどういうこと。
お母さん   ああいえばこう言う。私、育て方を間違えたんでしょうか。
おばあちゃん いや、今回はお前たちが正しいね。おばあちゃんが間違っていたよ。私たちは人間じゃない。これは確かだからね。うん、じゃあ、こう言い直そう。魔女は、人間よりも、もっと辛抱しなくちゃいかん。
恵美     なによ、それ。もっと、ひどいじゃないの。辛抱しなさい。修業しなさい。私達、一体いつになったら、意地悪な魔女として、思う存分大暴れすることが出来るの。
おばあちゃん そのためには、まず修業をして、基礎を固めることじゃ。
双葉     毎日、毎日、カエルの啼き真似なんて飽きちゃうよ。
友里     友里、少し、うまくなったよ。ゲコゲコ。
おばあちゃん おじょうず。おじょうず。
双葉     お前、本当に胡麻すりだな。
友里     友里は、胡麻すりなんかじゃないよ。
恵美     おばあちゃん、私はね、早く意地悪な魔女になって思いっきり意地悪がしてみたいのよ。
お母さん   あんたは、そう簡単に言うけれど魔法というのは、そんなに簡単に出来るようになるものじゃないのよ。ねえ、おばあちゃん。
双葉     私さあ、不思議に思っていたんだけど。うちって、とってもいじわるな魔女なんでしょ、どうして、お母さんは、いじわるな魔法が使えないの。母さんが使える魔法は空中から、クッキーをとり出すことだけ。ねえ、これのどこがいじわるな魔法なの。
お母さん   あの、それはね
おばあちゃん それはだね。
恵美     双葉ったら、馬鹿ねえ。分かりきったこと聞くから、お母さん返事に困っちゃったじゃないの。それはね、毎日、毎日、クッキーをおやつに出していたいけな姉妹をクッキー責めにして、苦しめるためなのよ。
双葉     なるほど。
友里     友里、お母さんのクッキー好きだよ。
双葉     友里、ここであんたがそう言うことを言いだすと、話がとってもややっこしくなるの。一人で全部食べちゃっていいから、おとなしくしていて。
恵美     私の分は残しておいてね。
双葉     お姉ちゃん、どうしてそう食物に弱いの。
お母さん   友里、こんなお姉ちゃん達放っておいて、あっちでクッキー食べようか。実はね、チョコレートも買ってあるのよ。
友里     わーい、チョコレート、チョコレート。(退場)
恵美     ひどい、私も食べるってば(退場)
双葉     お姉ちゃん、直した方がいいよ、本当に食物に弱い、その性格。私、思うんけど、そういう女の子って、大きくなってから、食事に誘われると、ホイホイ男の人についてっちゃう、頭の軽い女の子になっちゃうんじゃないの。(ふっと気が付くとおばあちゃんがにこにこ笑っているだけ)ねえ、私の分残っているんでしょうねえ。(退場)
おばあちゃん  まあ、けたたましい娘達だこと、早く意地悪な魔女になりたいですって。そのための修業もしないで。魔法ってのはね、一割の才能と、八割九部の努力、そして、たった一滴でも魔女の血をひいていることが必要なのよ。カエルの鳴声を練習させれば、毎日ゲコゲコやっているのは、カッコ悪いという。カエルをちゃんとイメージ出来なかったら、魔法をかけた相手を立派なカエルにする事なんて出来はしないんだからね。私の、ひいおばあちゃんが魔法をかけるのに失敗したばかりに、前脚が四本後脚が六本化物みたいなカエルにしてしまったことがあってね。こんなカエルにされたら、カエルにされたほうがびっくりして、脂汗をたらして当たり前だよ。こういう失敗に限って、末代まで語りつがれるようになるんだから。とはいうものの、初心者ほど早く使ってみたいと思うのは、仕方ないのかね。まあ、そろそろ魔法というものがどういうものなのか、分かってもいい頃かもしれないね。

椅子のうえに、本を一冊置いて退場。三人の姉妹がクキーとチョコレートを食べ終わって登場。

友里     お姉ちゃん達、ひどい。クッキーは友里が全部食べていいって言ったじゃない。
恵美     私は、そんな事言ってないわよ。私の分は残しておいてって、言ったわよ。食べちゃっていいって言ったのは、双葉よ。
双葉     チョコレートとクッキーの組合せなら、食べ飽きたクッキーもおいしく感じられるの。だいたいね、一人で全部食べたら、豚になっちゃうわよ。友里、嫌でしょ。豚になるのは。
友里     友里、豚さん好きだもの。豚さんの真似だって得意だよ。ブウブウ、ブウブウ。
恵美     友里はいいわよ、頭が平和で。あーあ、退屈だわ。早く意地悪な魔法を覚えて、思いっきりいたずらがしてみたい。
双葉     私は、意地悪な魔法でなくてもいいから、宿題を全部やってくれる魔法を覚えたいわ。
恵美     あんた、それ早く覚えなさいよ。
双葉     お姉ちゃんも、出来たらいいなって思うでしょ。
恵美     別に私はそんな魔法覚えなくたっていいわよ。双葉が覚えてくれたら、双葉が私の分の宿題もやってくれればいいんだから。
双葉     お姉ちゃん、どうして、楽することばっかり考えるの。
恵美     私は意地悪な魔法か、とびっきり美人になれる魔法がいいな。すっごい美人になって、素敵な人とめぐりあって、燃えるような恋をするの。
双葉     すっごい美人、素敵な人、燃えるような恋。全然具体性がないじゃないその。すっごい美人って、どういう美人なのよ。
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