Serenade

小夜曲

(セレナーデ)
初演日:2001/3 作者:霧雨 鳳馬









Serenade











城島優 男  22歳

君島礼 女  22歳

城島優二 男  20歳

城島君花 女  45歳位

浅井 男  35歳位











   明かりがつくと礼が立っている。舞台奥にはベッドとサイドテーブルがある。テーブルの上には空の花瓶が。

礼   忘れる…。忘れられる…。それは悲しいけれども必要な事。辛い事、悲しい事、忘れたい事…。抱えて生きていくには重すぎる事。それらを忘れる事は必要な事。
    でも、大切な人の事や大切な思い出。それを忘れたり忘れられたりする事は只、悲しいだけ。私は、それが嫌だから忘れないように、忘れられないように歌を歌う。大切な人のために。大切な思い出のために…。

   歌い出す礼。広がっていく明かり。歌い終える礼。ベッドに近づく。いとおしげに
枕を撫でる。優二が入ってくる。

礼   あ、優二君。
優二  …。
礼   おば様は?
優二  親戚と話している。
礼   そう。
優二  歌っていたのは礼さん?
礼   うん。
優二  兄貴が好きだった歌だ。
礼   うん…。

   ベッドから離れる礼。ベッドを眺める優二。

優二  いないんだな…。
礼   えっ?
優二  兄貴…。
礼   …そうだね。

   沈黙。

優二  ねぇ、礼さん。
礼   ん?何?
優二  礼さんは泣いたの?
礼   えっ?
優二  昨日さ、見ちゃったんだよ。夜中に母さんがわんわん泣いているところ。兄貴の服を握り締めてさ。わんわん、わんわん。ただでさえ小さな母さんの体が一層小さく見えたんだ・・・。母さんが泣くところなんてはじめて見たよ。…父さんの時も俺の知らないところで泣いたのかな…って思った。
礼   そう…。
優二  それで礼さんも…泣いたのかなって。
礼   …泣いたのかな、私?
優二  えっ?
礼   泣いたのかもしれない、泣かなかったのかもしれない…。
優二  何だよ、それ。
礼   私ね、彼がいなくなってからやけにあの歌の事を考えるようになったの。
優二  さっき歌っていた歌?
礼   そう。彼が好きだった歌…。それで気が付くと口に出して歌っているの。ヘンな私…。
優二  ヘンじゃないよ。きっと。
礼   ありがとう。…彼ね、いつもあの歌を口ずさんでいた。色んな事を忘れていっても、いつも、いつも…。私のことを忘れちゃった後でもね。(微笑む)
優二  (礼から視線を外しながら)薄情者だな、兄貴は。
礼   えっ?
優二  礼さんの事を忘れるなんて。
礼   仕方ないよ。
優二  仕方なくなんか無いよ!だって自分の彼女の事じゃないか!
礼   優二君…。それでも、仕方ないんだよ…。

   沈黙。

優二  礼さんは平気なの…?兄貴に忘れられても。
礼   …。平気なんかじゃないよ。
優二  なら…。
礼   だから私は歌を歌うの。
優二  えっ?
礼   彼が忘れなかった、あの人が好きだった、あの人の歌を…。
優二  礼さん…。
礼   私は歌いながら泣いているのかも。
優二  えっ?
礼   だから泣いたのかもしれないし泣かなかったのかもしれない…。
優二  …。
礼   あの歌を歌うとあの人は喜んだの。だから何度も歌ったわ。二人で一緒に。楽しかった…。嬉しかった…。悲しかった…。辛かった…。
優二  兄貴はやっぱり薄情者だ…。

   優二、出ていく。残された礼。

礼   歌いながら泣いている、私。…優、聞いていてくれる…?

   歌いだす礼。それに重なるように聞こえてくる優の歌声。歌声の中暗転。明かりがつくと優と礼がいる。礼は手に花束を持っている。優は歌っている。

礼   歌ってる場合じゃないでしょう。もう。
優   いいじゃん別に。
礼   ここ、病院だよ。
優   体はピンピンしてるぜ。
礼   でも…。
優   それに、只の検査だよ、心配すんなって。
礼   もー。だいたい、バイクに乗るときは気を付けてって言ってたでしょう。
優   仕方ないだろう、猫が飛び出してきたんだから。
礼   それで自分がコケてちゃ世話ないでしょう。
優   だって礼、猫好きだろ。
礼   えっ?
優   確かに黙ってりゃバレ無いかもしれないけど、そういうの嫌だし。
礼   もう…バカ。

   ノック音。浅井が入ってくる。

浅井  失礼します。城島優さんですか?(礼に)
優   いえ、オレですけれど…。
浅井  ああ、これは失礼。私担当の浅井と申します。
優   ああ、どうも。
浅井  一応入院という形を取りますが、まぁ二三日で退院できるでしょう。只の検査ですから。
優   ほら、先生だって只の検査だって言ってるだろ。
礼   うー…。
浅井  お友達ですか?
優   ええ、そんなもんですよ。
浅井  大丈夫ですよ。心配しなくても。
礼   別に心配なんか…。
優   照れるなって。
礼   照れてなんか無いわよ!

   ふざけあう二人。微笑んでいる浅井。

浅井  まあ、その分なら心配ないでしょう。元気なようですし。それに事故の後自分の足で病院まで来たって人も珍しいですからね。
優   はぁ…。
礼   お願いします、先生。
浅井  別に何をするわけじゃないですよ。只の検査ですから。それじゃあ明日になったら始めますから、今日のところはそこでゆっくりしてて下さい。あんまり騒がないようにね。それでは。

   浅井退場。一礼する二人。

優   心配すんなって。
礼   別にしてないってば。
優   心配そうな顔してたぜ。
礼   バカ。…私お花を花瓶に移してくるね。
優   別にいいよ。入院っても二三日だし。
礼   その間に枯れちゃうじゃない。

   礼、花束と花瓶を持って退場しようとする。

優   なあ、礼。
礼   なに?
優   今日って何日だったっけ?
礼   二十七日だけど、それが?
優   いや、ただ何日だったかなーって思ってさ。
礼   (微笑みながら)ヘンなの。

   退場する礼。残った優。辺りをうろうろと。ベッドに触ったり色々と。不意に立ち止まり。

優   あれ?今日って何日だったっけ?

   暗転。明けると礼がいる。ベッドを直したり。とそこに君花がやってくる。手には大きなバッグ。

君花  あら、礼ちゃん。来てたの?
礼   あっ、おば様。
君花  ごめんなさいね。いつもいつも優が迷惑かけちゃって。
礼   いえ、いいんですよ。私が好きでやってる事ですし。
君花  あら、優の事がそんなに好き?
礼   おば様!
君花  ごめんなさいね。…それにしても本当、優にはもったいない良い子だわ。
礼   そんな事無いですよ。
君花  きっとあの子も喜んでると思うわ。あんまり小さいときに構ってあげられなかったのよ。丁度旦那がね…。
礼   …。
君花  ごめんなさい、ヘンな話しちゃって。
礼   いえ…。
君花  これからも優の事をお願いね。
礼   私のほうこそ、よろしくお願いします。
君花  いえいえ。…それにしても遅いわね、優。
礼   そうですね。
君花  簡単な検査だって言ってたのにね。


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