世中一筆描き

(よちゅうひとふでがき)
初演日:2004/8 作者:ながみねひとみ
『世中一筆描き』〜よちゅうひとふでがき〜
作・ながみねひとみ

歓楽♂ …下町暮らしのなんでも屋。幼少のころの記憶がなく、
     絵師になりすまして城にもぐりこんでいる。
十兵衛♂…血を見るとおびえてしまう武士。
国良♂ …信長に忠誠を誓う武士、血の気が多く口うるさい。桃葉が好き。
栄♀  …城の使用人を仕切る貫禄のある女性。武士もたじたじ。
桃葉♀ …十兵衛のことを気にかけるおとなしい性格でもごもご話す。
明久尼♀…国良と恋人中だった城の旧使用人、今は男言葉を使う不良尼。

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それぞれの時間をかけ、それぞれの思いの入っている作品です。
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連絡をしましょう!



















    水の音、沈んでいく若い男

歓楽  ただよった。それは覚えている。俺はただ漂っていた。
影1  なぜ漂っていた?
歓楽  わからない。
影2  では、なぜ水の中に?
歓楽  わからない。
影3  では、お前は一体誰だ?
歓楽  わからない。
影4  俺はお前をしっている。
歓楽  教えてくれ俺は誰だ?
影5  お前は…。

    水の音、深くなって
    場面転換【城内】

国良  はぁ…。今日も平和な一日だった。
十兵衛 そうですね。平和でした。国良さんの頭の中はもっと平和ですけど。
国良  どういう意味だ?十兵衛。
十兵衛 いえいえ、なんでもありません。
国良  あ〜。どっかで戦でもやってねぇかなぁ。腕がなまる。
十兵衛 夜の城下に行けば夜盗がたくさん居ますよ。
国良  狩って来るかなぁ。
十兵衛 やめてくださいよ。物騒だなぁ。
国良  なんでだよ。いいじゃねぇか。たまにはお前もどうだよ。
十兵衛 国良さんがそういうことをすると、俺が怒られるんですよ。
国良  怒られるのはいつもお前だからな。
十兵衛 そうですよ。知ってるでしょ?
国良  ったく…たいそうなお役目だよ。
十兵衛 そうですか?
国良  …俺はお前のその面が好きだよ。
十兵衛 なんです?急に!
国良  …なんでもねぇよ。崩すなよ…その面…。
十兵衛 国良さん…。
国良  …あんまり見るなよ…照れくさいからっ!
十兵衛 ごめんなさい!
国良  はぁ?
十兵衛 いや、うれしいです!俺、うれしいんですけど。国良さんの気持ちに
    答えられません!はいっ!俺はやっぱり普通の女子が…。
国良  ・・・心配して損した。
十兵衛 心配してください。もっと親身になって。どうぞ心配してください!
国良  お前ともう口きかない。
十兵衛 そんなぁ。意地悪いわないでくださいよ!
国良  今度、言ったら斬るからな。
十兵衛 国良さん相手だったら俺、絶対、死んじゃいますよ!
国良  そういや、あの上様が招いた客人は大丈夫なのか?
十兵衛 え?ああ。歓楽様ですか?ご無事ですよ。
国良  そうか、それにしてもマヌケな客人だ。
十兵衛 ダメですよ。そんな失礼なこといったら!
国良  かまうもんか。お堀に落ちておぼれかけてるところを助けられる
    なんて。
十兵衛 仕方ないじゃないですか。足場の悪いなか長旅で
    お疲れだったんですよ。
国良  あんな紙っぺらに絵を描いたのを見て心が休まるだかなんだか
    しらねぇが俺はみとめんぞ。
十兵衛 上様はあのお方に城の絵を書いていただくつもりなんですよ。
国良  ガキに何を描かせてもただの落書きだよ。上様もどうかしてるよ。

    歓楽、入ってきて。

歓楽  言われたものだな。
十兵衛 歓楽様!もう体の具合はよろしいんですか?
歓楽  ええ、おかげさまで。
国良  お出ましか。ふ〜ん。よくよくみてもやっぱり大したことねぇな。
歓楽  失礼な方だな・・・。
国良  刀も持ったことない人間にいわれたかないね。
歓楽  あなたはそんなに偉いんですか?
国良  ああ、そうだよ。世の中動かしてるのはこの刀なんだよ。
歓楽  まったく、くだらない話です。年月がすぎればさびて使えなく
    なる刀なんぞに頼っても何にもなりませんよ。
国良  なんだと?
歓楽  …何か?(十兵衛に)
十兵衛 いや…驚きました。噂では物静かな方だと思っていたんですか…。
歓楽  噂は噂です。現実はこんなものなんですよ。噂ばかりに耳を傾けても
    しかたないでしょう?
十兵衛 確かに。
国良  どんな絵がかけるか楽しみだな。
歓楽  芸術がわからない人間には見せてもしかたない。
国良  このガキ…。
十兵衛 ま、まぁ。いいじゃないですかぁ!
歓楽  大変ですね。使えない同士を持つと。
国良  斬っていいか?十兵衛。斬っていいか?
十兵衛 だ、だめです!国良さん!落ち着いてください。刀は大事なときに!
歓楽  武士は血の気の多いと聞いていたがここまでとは…。
十兵衛 でしたらあまり刺激をなさらないほうが…。
歓楽  では、これを。

    紙を差し出す。

国良  …(倒れる)
十兵衛 国良さん!鼻血が!?
歓楽  おや、案外、純な方なんですね。
十兵衛 歓楽さま…これは?
歓楽  ボクの力量とやらを知りたいらしいので描いてみたんです。
十兵衛 と、閉じてください!?
歓楽  ダメですか?喜ぶと思ったのに。
十兵衛 なんでこんなものを!
歓楽  絵で本立ちをするのにはいくらか金が必要です。
    そのためには、このような絵も書かなくてはなりません。
    世の中そんなにうまくできているものではない。
    どんな人間にも意外な面があるということです。
十兵衛 …しかし。
歓楽  残念だ…。(しまおうとする)
十兵衛 (手をとめる)すみません。ですぎた真似を。
歓楽  十兵衛さん………いける口ですね。
十兵衛 バレましたか・・・。
国良  ばはっ!ごほごほっ!
十兵衛 自分の鼻血でむせてる…。
国良  うるさい!なんてものかいてんだよ!それが芸術か?
歓楽  鼻血ふいたらどうですか?
国良  やっぱり、斬っていいか!十兵衛、俺、こいつ斬るわ!
十兵衛 わぁ!落ち着いてくださぁい!

    歓楽の後ろ側から栄がやってくる。
    刀を抜こうとする国良と目が合う。

栄   国良さま。
国良  はひ・・・。
栄え  そのようなものを城内で使うおつもりですか?
国良  ・・・いいえ。
栄   でしたらお納めください。
国良  で、ですよねぇ〜。もう、やだぁ〜。みんなぁ。
    もぉ。ケンカとか。やだぁ、もぉ〜。
栄   歓楽さま、城内を歩き回るならそうおっしゃってから
    お部屋をでていただけませんか?
歓楽  これは、申し訳ない。・・・どなたですか?
十兵衛 この城の女の使用人達を仕切っている栄さんです。
栄   歓楽さま、今日からあなた様は何ヶ月かここにお過ごしになられます。
国良  何?パッパッと描いてさっさといなくなるんじゃねぇのかよ?
栄   …。
国良  すんません。
栄   桃葉。

    桃葉でてくる。

栄   桃葉です。この城に滞在なさっている間、歓楽さまの身の回りの
    お世話をさせていただきます。なにかありましたら
    すぐに桃葉にお申し付けください。よろしいですね。
歓楽  そうですか。それは助かりますよ。
桃葉  よろしくお願いいたします。
歓楽  はい、こちらこそ。かわいらしい方ですね。
桃葉  そ、そんなぁ…。
国良  ちょっとまったぁ!
栄   なにか?
国良  なんで、よりによって桃葉なんだよ。
栄   いっている意味が理解できませんが?
十兵衛 まぁ、国良さん。
栄   個人的な感情で私どもは動いておりませんので。
国良  このババァ。
栄   ・・・。
国良  何もいってません。
栄   じゃあ、桃葉、あとはよろしくね。
桃葉  わかりました…。栄さん。

    栄、去る。

国良  おい、桃葉、なんで引き受けたんだよ。
桃葉  大事なお客人ですから…。
国良  んじゃ、なんでいつも俺の食事の支度とか断るんだよ。
桃葉  (国良を無視して)十兵衛様…。
十兵衛 何?
桃葉  お食事をすでに用意しておりますので。
国良  俺のは?
桃葉  それは栄さんに聞いてください。
国良  なんで俺だけぇ!
歓楽  驚くほど彼女の眼中に入ってませんよ。
国良  斬るぞ!
十兵衛 わかった、ありがとね。桃葉。栄さんのことだから国良さんの分も
    もう用意してありますよ。ね!だから、ほら、いきましょう。
国良  なんで、なんでだ、くそぉ!なんでお前ばっかり!
十兵衛 俺にやつあたりしないでくださいよ!

    そういいながら、国良、十兵衛、桃葉、去る。

歓楽  ふぅ…こんなもんか。

    場面転換【城下町】

歓楽  腕利きのなんでも屋いりませんかぁ。ねずみ退治、害虫退治、
    なんでもござれぇ。記憶はねぇが、力量は天下一品〜。
明久尼 記憶はないが力量は天下一品ね。
歓楽  なんだ、またか明久尼か…。俺は仏の道には興味ないぞ。
明久尼 私もない。
歓楽  この不良尼。
明久尼 私にぴったりの言葉だな。
歓楽  何しにきた?
明久尼 葬式はいらんかね?
歓楽  罰当たり!商売の邪魔だ、あっちいってろ。
明久尼 とかいいつつ、仕事がないんだろうに?何日そうやって声を
    張り上げてるんだ?
歓楽  黙れ。

    歓楽の近くに子供が一人現る。

歓楽  なんだ、ガキ?あっち行ってろ。
明久尼 こら、やめろ、かわいそうに。
    なんだ、トキヨじゃないか?どうした?
歓楽  このガキ口が聞けないのか?
明久尼 そういう子供も世の中にたくさんいる、お前のように
    太い神経をもっておらんのだ。なに?これを…?
歓楽  なんだってぇ?
明久尼 コレをお前にだそうだ。
歓楽  …なんだ?これ。
明久尼 誰からもらったんだ?トキヨ、女の人…そうか。

    歓楽、袋を受け取り中に入っていた手紙を読む。

歓楽  …これは。
明久尼 なんだ?
歓楽  明久尼、俺はしばらく留守にする。こりゃ、すげぇ大仕事だ。

    歓楽去る。

明久尼 お、おい!

    追いかける明久尼。時間経過【夜・城の前】

歓楽  牛の刻…門の前にこられたし…。(手紙を読んで)金は後払いでも
    なかなかおいしい仕事だ…。絵師に成りすまして…絵を適当に描いて
    おさらば…。なるほどね…。

    男の叫び声、堀に落ちる水音。

歓楽  …!なんだ?誰かいるのか?…うぁっ!

    暗転、水に落ちる音。
    場面転換【再び・城内】歓楽の独り言。

歓楽  なんでも屋をやってて良かった。絵の心得はなぜか幼少のころから
    備わっていたし。それにこの手紙によれば城に招く絵師には
    誰もあったことがない。ってことは俺でも十分通用するって寸法だ…。
桃葉  歓楽さま…。
歓楽  なんですか?
桃葉  ……上様がお呼びです。
歓楽  そうですか…。
国良  おい、いるか、ガキ。おっ、桃葉いたのか。
桃葉  私は歓楽さまの世話係りですから。
国良  そうか…そうだったなぁ〜。

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