知らない彼女
『知らない彼女』

宮本信也(みやもと しんや)
サイコパス宮本。サイコパスの名を欲しいがままにする男。

中村美雪(なかむら みゆき)
真面目。

【第1場】
  ●会社
  声のみ(音響)
同僚 「あれ?今日もお前弁当なの?ハンバーグうまそ~!」
宮本 「食べる?」
同僚 「サンキュー!」
宮本 「肉が手に入り過ぎたからこっちも助かるよ。今日の弁当でようやく食べきれるんだ」
同僚 「ふーん?あ、そうだ。今日の夜飲みに行かね?」
宮本 「悪い。今日は少し予定が…」
同僚 「えー?またかよ。最近お前ずっと予定入ってんな。まさか、彼女!?…なーんてそんな訳ないか」
宮本 「はは、悪いね。また誘ってくれよ」

  ●アパートの前の道路
  ♪SE喧騒音
  薄明りで明転

宮本 「今日も僕は彼女の家の前までやってきました。彼女とふとした事で口論となり、彼女が僕の前から姿を消してから、早いものでもうひと月経とうとしています。
未来永劫、彼女がこのアパートに戻ってくる事はありません。それなのにこうして、仕事終わりに彼女のアパートの前へ来る事が僕の日課となっていました。
こんな事になるのなら、あの日彼女の言う通りにすれば良かった…。叶うのならば、あの日に戻りたい…。彼女がいなくなったあの日から、僕は毎日後悔ばかりしています。どんなに会いたくても、もう彼女に会う事はできません…。
    それでも、僕は彼女のアパートの前で、もう電気のつく事のない彼女の部屋を見上げてしまうのでした」

  全明かり。

【第2場】

宮本 「…俺も馬鹿だな。あの部屋に、電気が灯る(ともる)事は2度とないって誰よりも自分が分かっているはずなのに…もう帰ろう」

  暫く切なげに客席方面上空を見つめた後(客席側が中村のアパートの方向)視線を戻し、
  上手から下手へと歩き出す。
  下手から上手へと中村が歩いていく。

宮本 「えっ!?」

  すれ違った後、宮本思わず振り返る。
  中村は過ぎ去ろうとする。

宮本 「み、美雪?!」

  中村、振り返る

中村 「え…?」
宮本 「お前、どうして!?いやいや、待て待てそんな馬鹿な…いや…でも、似ている…」
中村 「えっと…私の事、ご存知なんですか?」
宮本 「いや…そんな訳ない。他人の空似ってやつなんだきっと。この世に同じ顔の人間は3人いるっていうし…(震えながら一人でぶつぶつ言っている)」
中村 「あの…?」
宮本 「いえ、すみません。あなたがあまりにも自分の知人に似ていたもので…いや、でもやはり似ている…似すぎている…」
中村 「中村美雪、ですか?」
宮本 「え…?何故その名前を…?」
中村 「やはり、そうでしたか。先ほど、美雪と仰っていたのでそうなんじゃないかなって」
宮本 「あなたは…もしかして…美雪の血縁者、ですか…?」
中村 「いえ、私は中村美雪です」
宮本 「え!?そんな訳!そんな訳ない…だって…だって美雪は…」
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