瞼をおろさないで
瞼(まぶた)をおろさないで

明海(あけみ)
宏(ひろ)嵩(たか)


深夜、明海のスマートフォンに着信が入る。
SE   着信音
SE   着信音、切れる
SE   着信音
明海   電話に出る。
明海   「もしもし。」
宏嵩   「もしもし? ごめん。寝てた? 」
明海   「『寝てた? 』って聞くなら、こんな時間に掛けてこないでよ。」
宏嵩   「でも、寝起きの声じゃないし、起きてたんでしょ? 」
明海   「(ため息)……起きてたけど。」
宏嵩   「何してたの? 」
明海   「別に。……眠れなかっただけ。」
宏嵩   「ちょうど良かった。じゃあ、ちょっとおしゃべりしよ。」
明海   「わざわざこの時間に暇電!? なんかあったと思ったから出たのに……。私眠いからもう切るよ。」
宏嵩   「待って待って、お願い! 」
明海   「何? 」
宏嵩   「眠れないんでしょ? だったら付き合ってくれてもいいじゃん。」
明海   「眠れないだけで、私は眠りたいの。おやすみ。」
宏嵩   「だから待ってってば! 」
明海   「もう何? 」
宏嵩   「この歳になってはずいんだけど……。」
明海   「……。」
宏嵩   「……。」
明海   「はずいんだけど何? 」
宏嵩   「……怖い夢見たんだよ。」
明海   「それで眠れないの? 」
宏嵩   「いや、めっちゃリアルな夢で、俺最初ガチだと思ってまじビビった! 」
明海   「うるさい。どんな夢だったの? 」
宏嵩   「……。」
明海   「……悪い夢は、人に話すと正夢にならないらしいよ。」
宏嵩   「……いや、内容は覚えてないんだけど。」
明海   「はあ!? 覚えてないのにそんなビビってるの? 」
宏嵩   「覚えてないけどさあ。本当寝汗も引くほどかいてて、心臓バクバクして眠れないんだって。」
明海   「……なんか最近嫌なことでもあった? 」
宏嵩   「いや、全然。」
明海   「とか言って、自分でも気づかないうちにあんた溜め込むでしょ。それが夢に出てきたんじゃない? 」
宏嵩   「え、俺溜め込んでる? 」
明海   「態度とかには出ないけど、仕事でキツくなると全然御飯食べれなくなるじゃん。」
宏嵩   「あー……。確かに。」
明海   「今は? ちゃんとごはん食べれてるの? 」
宏嵩   「うん。食べてるよ。明海は? 新しい職場、もう慣れた? 」
明海   「うん。みんないい人だし。忙しいけど楽しいよ。」
宏嵩   「本当は寂しんじゃないの? 俺がいなくて。(ふざけて)」
明海   「(笑いながら)なわけ。」
宏嵩   「素直になれって(笑う)。職場移ってから、飲み誘っても全然来てくれないじゃん。みんな会いたがってたよ。」
明海   「ごめん。」
宏嵩   「また近々飲みいきゃあしょ! 」
明海   「うん。そうだね。みんなに会いたいや。」
宏嵩   「よかった。安心した。」
明海   「何が? 」
宏嵩   「本当はさ、明海にもう会えなくなる夢見た。」
明海   「……なにそれ(軽く笑う)」
宏嵩   「すぐそこに明海が居るんだけど、どんなに呼んでも振り向いてくれなくて、遠くに行っちゃうわけ。で、なんとなくなんだけど、もう二度と会えないんだって気がして。……ただの夢だけどさ。起きてもなんか胸騒ぎがして、電話した。」
明海   「……ありがと。」
宏嵩   「でも、元気そうで安心した。ごめんね。夜中に電話掛けて。」
明海   「ううん。……。(すすり泣く声)」
宏嵩   「明海? どうした? 」
明海   「……人に話すと正夢にならないって本当なんだね。」

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