舎人先生の愛しきミステリ
舎人先生の愛しきミステリ
   
  【登場人物】
舎人(とねり) 人気ミステリー作家。通称「殺さないミステリー作家」。最近、スランプ気味。
   
小鳥遊(たかなし) 舎人の担当編集者。他にも売れっ子小説家を多数担当している。舎人が何とかスランプを脱却出来ないか、模索中。
   
椎名(しいな)舎人家の家政婦。元銀行員で、頭がキレる。いつもニコニコしているが、何か訳ありっぽい。
 
S.EやBGMなど、ご自由にどうぞ!
   
   
場面→舎人邸の書斎。上手側に作家の作業机。机の上には、パソコン、資料の本や、文房具など。壁には締切の期限が書かれてあるカレンダー。舞台中央に、テーブルと2脚の椅子(休憩用テーブル)。
   
開演
BGM 謎解きの雰囲気で
舎人、スポットライト。
舎人は作業机で原稿作業をしていて、パソコンに打ち込んだり、ペンで何かを書いている。しばらくして、ふと顔を上げ、驚いた顔をする。
 
舎人「おっと。なんだ、君、いたのか。勝手に書斎に入るなんて悪趣味だよ。ここが作家にとって聖域なのは、誰よりも分かっているだろう?まったく声をかけてくれたらいいものを。え?何回も呼んだって?コホン………それは失礼なことをしたね。」
 
舎人、立ち上がり、舞台の中央へ移動。
 
舎人「そうそう、原稿の締切が迫っていてね。いやあ、苦しいよ。なんたってスランプ中だからね。そして、口うるさい編集者が今日もやってくるんだよ。『殺さないミステリー作家』、それが僕のキャッチコピーなのに、あの娘と来たらどうにかしてそれを変えさせたいらしい。これだから素人は困るんだ。(ドアをノックする音)」
 
舎人、ドアの方を見る。口元に人差し指を当てる。
 
舎人「しっ!ーー噂をすれば、なんとやらだ。彼女が来たみたいだね。さあさあ、君はもう帰りなさい。僕より忙しいご身分だろう?また、今度、ゆっくり話そうか。」
 
BGMが小さくなる。
暗転
明転

舎人、作業机に足を乗せ、だらしない格好で雑誌を読んでいる。小鳥遊は休憩用テーブルに座り、その様子を見て眉間に皺を寄せている。
   
小鳥遊「舎人先生….。」
舎人「(顔を上げる)ん〜〜??」
小鳥遊「いい加減、本腰を入れてくださらないと…。締め切り、4日後ですよ?短編なら書ける!って言ったから、お願いしたのに。」
舎人「(雑誌を閉じる)あの時は、波に乗っていたからイケそうな気がしたんだよ〜。そうだ、小鳥遊くん。なんか面白い話してくれよ。そしたらパッと閃くかも。」
小鳥遊「甘えないでください。わたし、担当する作家さんが増えてめちゃくちゃ忙しいんです。舎人先生ひとりに、時間を割けないんですよ。」
舎人「…どうせ僕なんて旬が過ぎた作家さ。それに加えてスランプ中だ。生きてる価値なんてない。(椅子の上で体育座りする)」
小鳥遊「はあ…。どうして、そういう思考回路になるんです?」
舎人「君もどうせ僕を見捨てるんだろう。最近は飛ぶ鳥落とす勢いの新人ミステリー作家に熱を上げているって聞いているぞ。」
小鳥遊「……地下橋(ちかはし)先生のことですか?」
舎人「ああ、そんな名前だ。ちかはしだが、くちばしだが。雑誌で見たけど、すかした顔して気に食わないな。」
小鳥遊「舎人先生と違って、キッチリ締め切りを守ってくださる真面目な方です。お若いのに、しっかりされていますよ。」
舎人「だってそいつのストーリー、山ほど人が死ぬだけじゃん。そんな簡単な内容で良いなら、僕だって2日で書けるわ。いや、一日かな。」
小鳥遊「直木賞を獲った作家の言葉とは思えませんね。」
舎人「本当のことを言って何が悪い?書評サイトのレビューでも見てみなよ。ボロクソに言われてるから。」
小鳥遊「ーーねえ、先生。そろそろ『殺さないミステリー作家』っていう肩書き、やめませんか?そのせいで書けるものの幅が狭まっているというか、アイデアが枯渇してしまっているというか…。」
舎人「それだけは絶対に駄目だ!!」
   
舎人、大声を上げて立ち上がる。
   
小鳥遊「うるさっ!!」
舎人「僕はな、簡単に人を殺すミステリーなんて浅はかで大っ嫌いなんだよ!そんなの誰でも書けるだろ!」
   
舎人、舞台の真ん中へ移動。観客に向かって熱く語り出す。
   
舎人「もっと、巧みに、そう、緻密に練られた事件を描くんだ。そもそも僕は現実に起きそうなことしか興味がない。読者が置いてけぼりになるような世界観にはしたくないからね。」
1/8

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。

ホーム