道化師と仮面
登場人物
 道化師 売れない大道芸人。サーカス団のオーディションを受けたりもするもことごとく
     落ちている。
 仮面  道化師が帰り道で拾ったしゃべる不思議な仮面。
 
 
 (人通りの多い路上。1人の大道芸人が人を集めている)
  道化師:さぁさぁ紳士淑女の皆さま、ご機嫌いかがでしょう?皆様お忙しい?ほんの少しだけ、この私めにお時間いただけないでしょうか?これからご覧に入れますのは、マジック、ジャグリング、パントマイムとなんでもありのエンターテイメント!どうです?少し興味が湧きましたか?……そこのお兄さん。楽しいことはお好きですか?……おやおやそこのお嬢さん、退屈していませんか?私が楽しませてみせましょう。
  ほんのひととき、ほんの一瞬でいいんです。その忙しい足を止めて、ショーを見ていきませんか……!
   
 
 
  (道化師が自宅に帰ってくる。荷物を置いて袋の中を確認する。袋の中にはわずかなコインしか入っていない。)
  道化師:はぁ……。
  (荷物と一緒に落ちていた仮面を拾い、じっと見る。帰り道、道端で拾ったものだ。)
  仮面:お兄さん。随分と浮かない顔をしているね。人を笑わせる道化師がそんなんじゃ誰も笑ってくれないよ。
  道化師:……か、仮面がしゃべった?
  仮面:いいリアクションだ。俺は人間のそういう顔を見るのが大好きなんでね。
  道化師:ゆ、幽霊……?
  仮面:おいおい、俺をそんな下等な奴らと一緒にしないでくれるか?
  道化師:じゃ、じゃあ……お前は一体何者なんだ?
  仮面:俺か?そうだな……改めて何者なんだって言われると困るが……俺はお前たち人間のいうところの悪魔に近いかな。
  道化師:悪魔……?
  仮面:お前の望みを叶えてあげられる。お前の寿命と引き換えにな。お前たちのイメージする悪魔ってやつもこういうことするだろ?
  道化師:願いを叶えられるのか?
  仮面:あぁお安い御用だ。絶世の美女を嫁にしたいとか、世界一の大金持ちになりたいとか。俺にかかればこの世のどんな願いだって叶えてあげられる。さあて、お前の望みは何かな?
  道化師:僕の望みは……
  仮面:うんうん。
  道化師:……やっぱりいい。
  仮面:なんでだよ。
  道化師:お前にすがるほど、僕は落ちぶれてない。
  仮面:なんだそれ。俺から見ればお前は十分すぎるほどに落ちぶれているぞ。
  道化師:……失礼なやつだな。
  仮面:お前のその様子を見て落ちぶれてないって思うやつがいるのか?貧乏の典型みたいじゃないか。
  仮面:……お前さぁ、どうしてそんなに道化にこだわるわけ?
  道化師:え?
  仮面:サーカスのオーディションはことごとく落ちるし、道に立っても見向きもされない。お陰でこんな貧しい生活をしている。
  仮面:自分の才能がないことは薄々勘づいてるんだろ?これまでだって苦しいことの方が多かったはずだ。
  仮面:そんな道なのに、まだお前は諦めたくないのか?
  道化師:……小さい頃、僕のパントマイムに家族が、友達が笑ってくれたんだ。僕は要領悪くて鈍臭いやつだ。そんな僕でも人を笑わすことができた。あの快感は何にもかえがたい。たとえ才能がなくたって、願いが叶わなくたって、僕は道化を演じ続けるよ。
  仮面:そいつはいい覚悟だな。全く、とんだ茨の道を進んでいるんだな、お前は。
  道化師:何をするにも鈍臭い僕からしたら、世間の言うありきたりな生活を送るのだって難しいんだ。どうせ苦しいのであれば自分の好きなことをして苦しみたい。
  仮面:ふーん。そういうもんか。じゃあさ、俺がその快感をまた味わわせてやるよ。
  道化師:だからお前の力は借りないって言ってるだろ?
  仮面:だってこのままじゃ、いくら大声を上げたって誰もお前のことを見てくれないぞ。
  道化師:……
  仮面:そのままおっ死んじまってもいいのか?一度くらい、見てみたいだろ?てっぺんからの景色ってやつを。
  道化師:でも、お前に願いを叶えてもらったら、命を削られるんだろう?
  仮面:そうさ。でも命をかけるくらいの価値はある。だってもしかしたらお前はその眺めを見ることなく、
  仮面:この先長い寿命を生きていくことになるんだぜ?
  道化師:うーん……
  仮面:こんなチャンス、2度とあるもんじゃないぞ。
  道化師:お前がもう一度僕のところにくることはないの?
  仮面:当たり前だろう。一度断られたやつのところにいくほど俺たちの心は強くねえ。
  道化師:意外とやわなんだね。
  仮面:うるせぇ、ほっとけ。……俺らのことはいいんだ。さあどうする?
  道化師:……わかったよ。僕の願い、叶えてくれ。
  仮面:随分と上から物を言うんだな。
  道化師:……お願いします。
  仮面:よっしゃ。契約完了だ。
  
 
 
 
  (数ヶ月後。道化師の部屋。仮面が新聞を読みながら何かを食べている)
  仮面:(新聞の見出しを読む)「今最も熱いエンターテイナー」「100年に1度の逸材」「エンタメショーに引っ張りだこ……」ま、俺にかかればざっとこんなもんだぜ。短い命だったが、なかなか楽しめただろう?まぁ世の中の天才って奴らは大体早くに死んじまう。体の使いすぎでくたばっちまう奴らもいるが、その中には、俺らみたいな奴らと取引してるやつだっているわけさ。(咀嚼音)ふー。ごちそうさま。お前の魂もなかなかに美味だったぜ。
  (仮面、道化師の部屋から立ち去る)
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