Oh! マイ ゴッド

(おー! まい ごっど)
初演日:2004/2 作者:川村武郎・田中幸子
   〈登場人物〉

    正太
    窮太郎
    ハルノウララ
    伊耶那岐
    伊耶那美
    バベル博士
    ワトソン
    小池梅之介



1

     溶明。

     おんぼろアパートの一室。(築四十年強)
     四畳半ぐらいの、狭くて汚い部屋。
     中央にコタツ。下手にテレビ。上手に玄関。
     二人のいかにもさえない男(一人は家主、二十代後半。もう一人は年齢不詳)が座って、みかんを食べている。
     おおみそか。
     紅白歌合戦を見ている。

男   ‥‥正ちゃん。
家主(正ちゃん) ん? 何だい、キューちゃん?
男   (キューちゃん) やっぱり‥‥今年は紅組だね。
正ちゃん   え? ‥‥白組だよ。
キューちゃん   えっ? どうして?
正ちゃん   そんなの、あたりまえじゃん。
キューちゃん   そんなことないよ、天童よしみがかわいかったから、紅組だよ。
正ちゃん   ううん、山本譲二とサブちゃんがかっこいいから、白組。
キューちゃん   正ちゃん、ちょっと耳と目と頭、腐ってんじゃないの?
正ちゃん   キューちゃんこそ、応援合戦のふんどし太鼓の時、トイレ行ってたじゃん。
キューちゃん   もう! 絶対、紅組!
正ちゃん   断然、白組!
キューちゃん   紅組ったら紅組!
正ちゃん   白組ったら白組なの!
キューちゃん   紅組、紅組、紅組、紅組、紅組!
正ちゃん   白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組!
キューちゃん   紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組!
正ちゃん   白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組!
キューちゃん   (立ち上がって叫ぶ)がんばれー! あーかーぐーみー!
正ちゃん   (立ち上がって絶叫)フレー! フレー! しーろーぐーみー!

隣人の声   こら、うるさい!

     沈黙。
     にらみ合う二人。
     テレビの音だけが流れている。

キューちゃん   ‥‥ハァ、ハァ‥‥正ちゃんも、けっこうしつこいね。
正ちゃん   ‥‥ハァ、ハァ‥‥キューちゃんこそ。

     しばしの沈黙。

キューちゃん   ‥‥何か、賭ける?
正ちゃん   ‥‥いいよ。
キューちゃん   ‥‥ほんとにいいんだね?
正ちゃん   ‥‥ああ、男に二言はない。
キューちゃん   ‥‥よし! じゃあ‥‥
正ちゃん   じゃあ?

     二人、室内を見回す。
     めぼしい物は何もない。
     二人顔を見合わす。

     二人と みかん。

     気まずい沈黙。
     やがて、二人、元の位置に戻り、みかんを食べ始める。

キューちゃん   ‥‥あんまり、意味なかったね。
正ちゃん   ‥‥うん。
キューちゃん   ‥‥ひょっとしたら、全く意味ないね。
正ちゃん   ああ、そうだね。
キューちゃん   やめよっか?
正ちゃん   うん。

     二人、テレビを見ながら、黙々とみかんを食べる。

キューちゃん   ‥‥正ちゃん。
正ちゃん   何だい、キューちゃん?
キューちゃん   ‥‥いや、別に。
正ちゃん   何だよ?
キューちゃん   ‥‥‥。
正ちゃん   おい、何だよ? ‥‥変なやつだな。
キューちゃん   ‥‥正ちゃん。‥‥今年も‥‥あれだね。
正ちゃん   え?
キューちゃん   やっぱり、二人ぼっちだね。
正ちゃん   え‥‥ああ。そうだね。
キューちゃん   初詣とか行かないの?
正ちゃん   うーん、めんどくさいしなあ。‥‥それに、キューちゃんと一緒に行くわけにはいかないだろ?
キューちゃん   ‥‥ああ、それはそうだけど。‥‥一緒に行く彼女とかいないの?
正ちゃん   あのね‥‥それはキューちゃんが一番よーくわかってるでしょ?
キューちゃん   あ。
正ちゃん   ね。
キューちゃん   う‥‥。
正ちゃん   ?
キューちゃん   ううう‥‥。
正ちゃん   ??
キューちゃん   うわーん!(泣く!)
正ちゃん   き、キューちゃん!
キューちゃん   わあーん、わあーん。
正ちゃん   おい、どうしたんだよ?
キューちゃん   みんな、みんな、ボクが悪いんだあー!
正ちゃん   え?
キューちゃん   ボクなんかがいるから、正ちゃんはダメなんだあー!
正ちゃん   キューちゃん!
キューちゃん   正ちゃん、うう‥‥、正ちゃん、ごめんよー。ごめんよー。わあーん。
正ちゃん   キューちゃん、そんなことは‥‥
キューちゃん   え‥‥そんなことは?
正ちゃん   そんなことは‥‥
キューちゃん   そんなことは?
正ちゃん   ‥‥ちょっと、あるかな?
キューちゃん   う‥‥。やっぱり、やっぱりそうなんだあ‥‥。うわーん。うわーん。うわーん。
正ちゃん   キューちゃん。‥‥そんなこと言われると、僕まで泣きたくなるじゃないか。
キューちゃん   うわーん。正ちゃんは悪くないよ。ボクが悪いんだよー。うわーん。
正ちゃん   えーん。えーん。そんなことないよー。僕は悪くないんだよー。えーん。

     二人、抱き合って泣き出す。

キューちゃん   うわーん。違うよー。全部、ボクが悪いんだー。うわーん。
正ちゃん   えーん、そんなことないよー。全部、キューちゃん   が悪いんだー。えーん。
キューちゃん   違うよー。ボクのせいだよー。
正ちゃん   そんなことないよー。キューちゃんのせいだよー。
キューちゃん   ボクのせいだよー。
正ちゃん   キューちゃんのせいだよー。

二人   ん?(一瞬の間。お互いに顔を見合わす。)

二人   わーん。(えーん。)

     二人、しばらく泣き続ける。

正ちゃん   あ!
キューちゃん   え?
正ちゃん   結果発表だ!
キューちゃん   野鳥の会だ!

     二人とも、そそくさと、定位置に戻る。

キューちゃん   紅組、紅組、紅組。
正ちゃん   白組、白組、白組、白組。
キューちゃん   紅組、紅組、紅組、紅組、紅組。
正ちゃん   白組、白組、白組、白組、白組、白組。
二人   あっ!

     一瞬の間。

二人   ひとーつ。ふたーつ。みーっつ。よーっつ。いつーつ。むーっつ。ななーつ。やーっつ。ここのつー。

     突然、暗転。

二人   あ!

     一時の沈黙。

キューちゃん   どう、どうしたの?
正ちゃん   停電だ。
キューちゃん   停電?
正ちゃん   うん、たぶん。
キューちゃん   ど、どうしよう?
正ちゃん   どうしようって‥‥。
キューちゃん   だって、紅組が‥‥。
正ちゃん   え?
キューちゃん   どっちが勝ったか、わかんないじゃない。
正ちゃん   ああ‥‥そうだね。
キューちゃん   もうちょっとだったのに‥‥。
正ちゃん   うん‥‥。‥‥でも、仕方ないよ。
キューちゃん   え?
正ちゃん   いつもこうなんだ。‥‥肝心な時には、いつもこうなっちゃうんだ。
キューちゃん   え‥‥。
正ちゃん   ま、そういう星の下に生まれたのさ。ハハハ‥‥。(寂しく笑う)
キューちゃん   そ、それって‥‥ひょっとして‥‥
正ちゃん   え?
キューちゃん   やっぱり、ボクのせい?
正ちゃん   いや‥‥だからさ‥‥
キューちゃん   そうなんだ。やっぱりボクがいるからダメなんだ。う、う、う、うあー‥‥
正ちゃん   わあー!
キューちゃん   え? どうしたの、正ちゃん?
正ちゃん   何か踏んだ。
キューちゃん   え?
正ちゃん   ‥‥なんか、グニャグニャする。
キューちゃん   え‥‥。
正ちゃん   ‥‥なんか、グチョグチョする。
キューちゃん   え‥‥。
正ちゃん   ‥‥ちょっと、なま暖かい。
キューちゃん   え‥‥。
正ちゃん   ‥‥プーンと臭いがする。
キューちゃん   し、正ちゃん‥‥それ、ひょっとして
正ちゃん   え‥‥もしかして。
キューちゃん   それって、もしかして、う・ん‥‥。
正ちゃん   みかんだ! ‥‥キューちゃん、僕、みかん踏んじゃったよ。
キューちゃん   あ、みかん。みかんね。‥‥なーんだ。
正ちゃん   なーんだ、って? ‥‥わあ、もうネチョネチョで気持ち悪いよー。‥‥えーと、確か、懐中電灯があったはずだけど‥‥。
キューちゃん   懐中電灯? 懐中電灯ね。‥‥それって、どこにあるの?
正ちゃん   えーっと、どこだっけなあ?
キューちゃん   ねぇ、どこ?
正ちゃん   冷蔵庫の上かなあ‥‥。
キューちゃん   冷蔵庫? ‥‥冷蔵庫、冷蔵庫‥‥暗くてわかんないよ。
正ちゃん   いや、待てよ。本棚の中だったかもしれない。
キューちゃん   もう! どっちなの?
正ちゃん   いや、机の上だったかもしれない。
キューちゃん   もう! 正ちゃん探してよ!
正ちゃん   ダメだよ。部屋中、ベトベトになっちゃうよ。
キューちゃん   もう!
正ちゃん   うーん‥‥。
キューちゃん   ‥‥‥。

     しばしの沈黙。

     ブザーの音。

二人   !

     再びブザーの音。

キューちゃん   ‥‥誰だろ?
正ちゃん   ‥‥さあ?

     またまたブザーの音。

正ちゃん   は、はーい。‥‥どなたですか?

     何も答えない。
     ブザーの音。
     怪奇音楽。

正ちゃん   ‥‥キ、キューちゃん、出てよ。
キューちゃん   え? 正ちゃんが出たら?
正ちゃん   だって、僕、足が‥‥。
キューちゃん   えー!

     さらにブザーの音。

正ちゃん   ほら!
キューちゃん   もう!

     キューちゃん、歩いて行き、ドアを開ける。
     顔の下から懐中電灯を点けた男が立っている。

二人    わ‥‥うわあー!(座り込む)

男   悔い改めなさい。

二人   え?

男   悔い改めなさい。

     男、背中から、「悔い改めなさい。」と書いたプラカードを取り出して、掲げる。

二人   へ?

男   神は見ておられます。

二人   へ?

     男、プラカードを裏返す。すると、そこには「神は見ておられます。」と書かれてある。

男   神は見ておられます。

正ちゃん   ‥‥あのう‥‥何のご用でしょうか?
男   あなたは、初詣に行こうとしていたでしょう?
正ちゃん   え? ‥‥いや、僕は、別に‥‥
男   いいえ、分かっています。あなたは初詣に行こうとしていた。これといった信仰心もなく、ただ因習という俗悪な習慣に基づいて、いかがわしい邪教に身をゆだねようとしていたのです。
正ちゃん   だから、僕は‥‥
男   悔い改めなさい。今からでも遅くはありません。全てを主はお見通しです。あなたの一挙手一投足、心の内までも神は見ておられるのです。そして、やがて訪れる審判の日にあなたに幸いのあらんがために。
正ちゃん   だから‥‥僕は、初詣には行きませんから。
男   神は見ておられます!
正ちゃん   だから‥‥もう!
キューちゃん   ‥‥小池さんじゃない?
正ちゃん   え?
キューちゃん   そうだよ。小池さんだよ!
正ちゃん   え‥‥ああ、そういえば。
キューちゃん   だろ?
正ちゃん   ああ‥‥なーんだ、そっかー。
男   何をごちゃごちゃ言っているのです。悔い改めるのですか?
正ちゃん   小池さん! 驚かさないで下さいよ。
男   え。
正ちゃん   小池さんなんでしょ? ね、小池さん。
男   わ、私は、そ、そんな者では‥‥。
正ちゃん   こーいけさん!
男   わー!

     男、走り去る。

正ちゃん   行っちゃった。
キューちゃん   うん。
正ちゃん   何だったんだろうね?
キューちゃん   さあ?

     電気がつく。

二人   ついた!

     テレビから除夜の鐘。
     二人、テレビを見る。

二人   あーあ。
キューちゃん   もう、終わってるよ。
正ちゃん   そうだね。
キューちゃん   ニュースでやらないかな?
正ちゃん   何を?
キューちゃん   紅白の結果。
正ちゃん   そんなの見たことある?
キューちゃん   うーん‥‥ない、かな?
正ちゃん   だろ?
キューちゃん   じゃあ、どうすんだよ? このまま一生わかんないわけ?
正ちゃん   かもね。
キューちゃん   いやだー! そんなのいやだよー! わあー!(地団駄踏んで叫ぶ)

     突然、暗転。

二人   あ!
正ちゃん   ‥‥まただ。
キューちゃん   うん。
正ちゃん   もう‥‥どうしよう?
キューちゃん   どうしようって‥‥真っ暗けで、どうしようもないよ。
正ちゃん   そうだけど‥‥。
二人   あ。‥‥かいちゅうでんとう。
キューちゃん   ‥‥正ちゃん、どうしてさっき探しておかなかったんだよ?
正ちゃん   そんなこと言ったって、キューちゃん   が、紅白で大騒ぎしてたじゃん。
キューちゃん   それは‥‥そうだけど。
正ちゃん   だろ?

     しばしの沈黙。

正ちゃん   ‥‥もう少ししたらつくんじゃない?
キューちゃん   かな?
正ちゃん   きっとつくよ。‥‥だから、あんまり動かない方がいい。
キューちゃん   え?
正ちゃん   むやみに動くと、エネルギーを消耗するだけだ。
キューちゃん   へ?
正ちゃん   だから、こういう時は、抱き合って、暖め合うんだ。
キューちゃん   え‥‥。
正ちゃん   さあ、キューちゃん。(手をさしのべる)
キューちゃん   え‥‥し、正ちゃん‥‥。
正ちゃん   さあ! 暖め合おう!
キューちゃん   それって‥‥なんか、違うんじゃ‥‥。
正ちゃん   さあ!
キューちゃん   ひ、ひー!

     ドアが開く。
     きらびやかな光。
     音楽。(薔薇は美しく散る)
     二人の男装の女性が、踊り、歌いながら室内に入ってく る。

二人の女性  草むらに名も知れず
        咲いている花ならば
        ただ風を受けながら
        そよいでいればいいけれど
        私はバラの運命に生まれた
        華やかに激しく生きろと生まれた
        バラはバラは気高く咲いて
        バラはバラは美しく散る

     電気がつく。

正ちゃん   ‥‥‥。‥‥あ、あなたたちは?
二人の女性   オスカール! アンドレー!
正ちゃん   ‥‥‥。ひ、ひょっとして‥‥。
二人の女性   あけましておめでとうございます。
正ちゃん    へ?
二人の女性   本年もよろしくお願い申し上げます。
正ちゃん   は、はあ‥‥。
伊耶那岐(アンドレ)   あ、申し遅れました。
伊耶那美(オスカル)   私たち、今日、二〇三号室に引っ越してきたんです。
伊耶那岐   伊耶 那岐と申します。
伊耶那美    伊耶 那美と申します。
伊耶那岐・伊耶那美   末永くごひいきのほどを。
正ちゃん   は、はあ‥‥。よろしく。
伊耶那岐   それで、これ。

     と、包みを取り出す。

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