死神は最後に天国にいく(大人ver.)

  ベンチの端と端に男1と男2が座っている。
  男1はボサボサの髪の毛に服装もボロ切れを纏っただけのような貧相な格好。
  男2はスーツなどの上品な格好。
  男1が男2をチラチラ見つめていたが、しばらくして声をかける。


男1 「あのー、この公園治安悪いんで、考えごとしたいなら場所変えた方がいいですよ? 夜中の二時ですし」
男2 「じゃあ、あんたはなんでこんなところにいるんだ?」
男1 「俺はここが家だから……って、タメ語かよ。お前、歳いくつ?」
男2 「……(少し考えて)、三十」
男1 「十五歳も年下だったのか、見えねぇ」
男2 「あんたこそ家に帰れば? 今は丑三つ時って言って、お化けが出る時間だからさ」
男1 「俺に家なんてねーよ。この公園を拠点としてる、いわゆるホームレスだ」
男2 「知ってる。見てくれからしてそんな感じだし」
男1 「わかってて近づいたのか……なにが目的だ? あんたみたいな立派そうなやつが……もしかして、俺みたいな社会の底辺を笑いに来たのか?」
男2 「そんなことして何のメリットがあるんだよ。社会の底辺か……あんたがそうなら、俺はどん底だな」
男1 「どん底?」
男2 「あんたより下にいるってことだ。性格はあんたの方が悪そうだけどな」
男1 「性格が悪いってのは間違ってないな。根っからの悪だ、俺は。そのせいでこんな人生送ってる」
男2 「仕事が合わないのを会社のせいにして辞めて、職がないのを不景気のせいにして、自分が不幸なのを恋人のせいにして、全てを捨てたって感じ」
男1 「……鋭いな」
男2 「見てたからな、ずっと」
男1 「みてた?」
男2 「もし人生をやり直せるなら、いつに戻りたい?」
男1 「いつ……」
男2 「財産が底をついて公園に住み着いた四十の夏、借金取りから逃げ出した三十五の秋、親と縁を切った二十五の冬、子どもなんか知らない堕ろせと彼女の腹を蹴って逃げ出した、十五の春」
男1 「十五の春って……まて、お前、どうしてそんなこと……」
男2 「ちょうど三十年前だな。あんたが俺の母さんを捨ててから、今日でちょうど三十年」
男1 「母さん? まさかお前、あいつの……」
男2 「あんたが学生時代に付き合ってた彼女。覚えてるよな?」
男1 「忘れるわけない……子ども出来たとか言われてカッとなって……その喧嘩の後すぐにあいつ転校して、それっきりになったけど」
男2 「喧嘩ってレベルじゃなかっただろ、あれ」
男1 「でもその時の、三十年も前の子どもって……俺に復讐でもしにきたのか?」
男2 「さっきも言ったけど、丑三つ時ってのはお化けが出るんだ。さて、今何時でしょう?」

  男1、時計を確認して項垂れる。

男1 「午前二時十五分……」
男2 「幽霊でもこの世に留まってたら老けていくみたいでさ。だから俺、人間としての年齢は0歳なのに見た目はこんななんだ」
男1 「人間としての年齢は0歳?」
男2 「母親の腹の中で死んだんだよ。生まれ落ちることすら出来なかった」
男1 「俺のせいで……ははっ、この公園には長く居付いてるが、幽霊を見たのは初めてだ」
男2 「自分の息子を幽霊呼ばわりとはひどいな。というか、やけに素直だな。本気で俺が幽霊だと思ってんの?」
男1 「お前がここに来た時、足音が聞こえなかったんだ。膝から下がないようにも見えたけどまさかと思って……今は普通に足あるし」
男2 「他の人にはぼやっとしか見えていない。足までくっきり見えてるのは、あんたが俺の父親だから」
男1 「……どうして俺の前に現れた? 今さら、三十年も経って」
男2 「市立病院にいる」
男1 「市立病院?」
男2 「俺の母さん、つまりあんたの元彼女がそこにいる。今日、あの世へ行くんだ」
男1 「あの世って、まさか死ぬのか? あいつが?」
男2 「母さんはあんたに会いたがってる」
男1 「嘘だ。だって俺、あいつに……」
男2 「あんたのこと本気で好きだったんだよ、母さんは」
男1 「こんなろくでもない男なのに」
男2 「惚れちまったもんは仕方ないだろ。俺には理解できないけど、人間として過ごしたことないから」
男1 「……悲しいこと言うなよ」
男2 「同情するなら母さんに会いに行ってくれ。最期くらい、かっこいいところ見せろよ」
男1 「そうか……そうだな……死んだらもう二度と、会えないもんな」

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