羽根の記憶・ロングバージョン

(はねのきおく)
初演日:0/0 作者:秋元ゆうすけ
   題名:羽根の記憶・ロングバージョン
   劇団:らんちめにゅう
   作者:秋元ゆうすけ(らんちめにゅう)
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羽根の記憶(ロングバージョン)


登場人物

セイル
  マリノート王国の皇太子殿下。
  幼いうちに母親を亡くしている。
  周囲の人間に頼りすぎる所がある。

サラ
  翼を持つ者、翼人の生き残り。
  戦博打の剣士として見世物小屋に入れられていた。
  羽根を隠す為に籠を背負って逃げ出す。

ダン
  マリノート王国の宰相閣下(さいしょうかっか)。
  セイルの世話役でもある。
  かつてはマリノート軍の隊長としても活躍していた。

ノルト
  マリノート王国の国王陛下。国民からの信頼は厚い。

ロール
  マリノート王国のメイド。
  本編では、アイキャッチ、朗読者として登場。

男たち 清掃員 女 メル 兵士たち
  選任の役者を立てる必要は別にないので、一人二役で出場。




  本編


          1

    暗闇にロールが映し出される。
    音楽

ロール 人の歴史には、常に戦いがありました。人は戦う事で、何を得られたのでしょう
    か?幸せ?喜び?…いいえ。得られた物は、悲しい想いだけ。そしてそれは、す
    ぐに忘れ去られていく…。

    人々が争う様子を少しだけ見せる。

ロール 歴史、それは過去の出来事であり、事実を示します。そしてそれは、過去だけで
    済まされる事ではなく、今現在に繋がる物です。こんな過去があるから、今があ
    る。それが良い歴史だったのか、悪い歴史だったのか、それは分からない。私た
    ちが手に入れられたのは今この時だけ。

    サラが映し出される。

サラ  遠い昔、今で言う“ヒト”には、様々な種類があった。犬や猫、鳥と同じ様に。
    私は、この世に生きた、最後の翼人、羽根を持つ者だった。今から私が話す事、
    それは、人間にとっては極些細な出来事。
ロール あなたは、信じないかもしれない。作り話だと、笑うかもしれない。
サラ  でも、これは、確かな記憶。
ロール 歴史には残らなかった、本当の歴史。
サラ  あなたたちの歴史。そして、私たちの歴史。これは、あなたたち人間が起こした
    数多くの争いの中の一つ、その結末でしかない。

    暗転



    音楽
    タイトル、キャスト、などを投影しながら、本編各シーンを細切れにして少しづ
    つ照明を当てる。


    終了後

ロール それが良い歴史だったのか、悪い歴史だったのか、それは分からない。




          2

    音楽
    セイルとダンが入ってくる。
    市場を行き交う人達とお辞儀をする。

セイル 結構、いるんだなぁ。市場ってのは面白いもんだ。
ダン  何を言ってるんですか。一昨日だって来たじゃありませんか。
セイル まぁ、そうなんだけどさ。
ダン  はぁぁ…。この街が好きなの分かりますが、あなたに付き合わされる私の気持ち
    も考えて下さいよ。それに、あなたは自分の立場をきちんと分かっておられるの
    ですか?あなたはこの国の……

    ダンの話が途中でサラ(籠を背負っている)が入ってきて、
    セイルとダンの間に入り込む。
    音楽OFF 

ダン  ……なんだ? お前は。(腰の刀に手を掛けながら)
サラ  …お金、お金ちょうだい。
ダン  物乞い、か?
サラ  ……。
セイル おいおい、ダン、そう怖い顔をするなよ。君は金が欲しいのか?
サラ  …お恵みを……。
セイル ほら、ダン。金が欲しいだけなんだよ。そう硬くなるな。
ダン  あのですね、お言葉を返すようで申し訳ないのですが、私はあなた様にもし何か
    あったらと……。
セイル はぁ、分かった分かった。もう良いから。で? 君の名前は?
サラ  ……。
セイル 名前は?
サラ  ……サラ。
セイル サラか。君は運が良い。なんてったって、僕に物乞いをしてきたんだからね。
ダン  ……金を、渡すのですか?
セイル あぁ、そうだよ。別に良いじゃないか、少しくらい。
ダン  あげるのは構いませんが、あとあと私に「貸してくれ」なんて言ってきても私は
    知りませんよ。
セイル うっ……。
サラ  ねぇ、くれるの? くれないの?
セイル ん? 君はお金が欲しいんだよね?
サラ  出来れば。無いなら他の物でも良い。
セイル お金はちょっと難しいんだ、今の会話からも分かるように。その代わり、君には
    もっとすごい物をあげよう。
ダン  …何をするつもりです?
セイル さ、僕に付いておいで。

    セイルはサラの手を引き、出て行く。

ダン  待ってくださいっ、何をするつもりですかっ。

    二人を急いで追いかける。




          3

    セイル、ダン、サラが入ってくる。
    音楽

サラ  どうして? 何で……、ココは、何?
セイル 僕の家だよ。
ダン  この方は、偉大なるマリノート王国の、偉大なるノルト国王陛下のご子息、
    セイル皇太子殿下だ。
セイル うん、そう。
サラ  ……そう、って言われても…。
ダン  ほら、困っているではないですか。それに、いくら殿下でも部外者を城に
    入れたりしたら、陛下もお怒りになります。どうするんですか?
セイル 大丈夫だよ、なんとかなるもんさ。ね?
サラ  …ね? って言われても……。
ダン  で? この娘をどうするつもりで連れてきたのです?
セイル ん。ここで暮らしてもらおうと思って。
ダン  ……。
セイル ……。
サラ  ……。(困った様に二人を見回す)
セイル ん? どしたの?
サラ  …どしたの? って聞かれても……。
ダン  殿下っ!!
セイル ん?
ダン  あなた、正気ですか? この娘とは今日初めて出会ったのでしょう?
    そんな身の保証の出来ない者を置いておけるわけがないでしょう。
    何を考えているのですかっ!!
セイル だって、仕方ないだろう。この娘は僕に助けを求めてきたんだ。
    でも、僕にはこの子を助けられるだけの経済的余裕が無かった。
    だからせめて身分と人並みの暮らしをあげようと思って……。
ノルト(声だけ) お〜い、セイルや。入っても良いかな?

    音楽OFF

ダン  ……うわーっ、どっ、どうするんですか、陛下ですよっ!! 殿下っ!!
サラ  私、隠れる? 隠れた方が良い? どうしよう…。

    サラ、ダン おろおろと慌て、隠れる場所を探して歩き回る。

セイル 父上、おはようございます。

    セイル 勢い良く扉を開けて、ノルトを部屋に入れる。
    サラ、ダン セイルの行動に面食らい、不自然な格好で固まる。

ノルト ん? 随分可愛い娘を連れ込んでおるな。これか? ん? (小指を立てて)
セイル そうじゃありませんよ。今日知り合ったばかりですから。
ノルト ほう〜、お前にナンパの趣味があったとは知らんかったな。
セイル はっはっは、違いますよ。でもまぁ、否定は出来ないかな。
ノルト ん? 何だ? そんなに硬くなって?

    サラ、ダン ようやく普通の立ち姿勢に戻る。

ダン  あの、怒らないのですか?
ノルト ん? 何故ゆえに?
ダン  何故ゆえに?って…。
サラ  …あの、国王様。私、部外者なんですけど、ここに、あの、入って……。
ダン  ほら、この娘の言う通り。部外者の侵入に対して、何も無しですか?
ノルト あぁ、なるほど。そういう事ね。
ダン  うんうん。
ノルト 皇太子殿下のセイルが連れて来たんだ、問題は無かろう。むしろ問題なのは……。
ダン  ……ん? なんです?
ノルト お前がいながら、なぜ部外者を入れたか、だな。
ダン  ……うそ。
ノルト 管理不足、厳重注意。
ダン  うそーーっ。(ふらふら)
ノルト で?
セイル はい。この娘を、ここに置いてあげようかと。
サラ  ちょっと待って、駄目だよ、そんなの。
ノルト おぬし、家族は?
サラ  いえ、あの、いません。
ノルト そうか。なら、問題なかろう?
サラ  え?
セイル ありがとうございます。
ノルト そうと決まれば、さあさあ、くつろいで。
サラ  あ、あの……。
セイル そういえば、その籠、降ろそうよ。
サラ  あの、これは…。
ノルト おい、ダン。この娘の籠を降ろしてあげなさい。
ダン  ……はい。
サラ  あの、これは、あっ、待って!!

    ダン サラの籠を取り上げる。隠していた背中の羽根があらわになる。
    音楽OFF
    サラ うつむき、困る。

セイル ……羽根、だ。
ノルト おぬし、翼人か。
ダン  なっ、何故っ?
セイル 翼人? 父上、このサラの事、知っているのですか?
ノルト まだ、存在していたのか。
サラ  あ、あの……。
ダン  陛下、いかがいたしましょう?
サラ  あの、ごめんなさい、私、やっぱり帰りますからっ!!

    走りかけたサラを、ノルトが腕を掴んで引きとめる。

ノルト 君は、家族は?
サラ  知りません。私、物心ついた時から見世物小屋にいましたから。
ノルト …そうか。
サラ  今日、逃げ出してきたところで、殿下と出会ったんです。
セイル 羽根、すごい。
ノルト いいか、君の一族は、君の種は、もういない。君はここから出たらいけない。
サラ  なぜです?
ノルト 誰かに知れれば、君は異端として扱われる事になる。
セイル そっ、そうだよ。ここにいなきゃ。
サラ  ……私を、化け物扱いしないのですか?
セイル なぜ?
サラ  私はずっと、化け物として扱われてきた。好奇の目で見られてきた。
セイル ……誰もそんな事しないよ、ここではね。
サラ  ありがとう、ありがとう……。(泣き崩れる)
ノルト ダン、この娘に新しい洋服を出してあげなさい。
ダン  はい、わかりました。

    サラ、ダン 部屋を出ていく。
    音楽

ノルト ……さて、セイル。
セイル はい。
ノルト いいか、よく聞きなさい。翼人は、羽根を持つ者は、絶滅したのだ。
    もうあの娘が最後の翼人だ。お前が、支えになってやりなさい。
セイル はい。
ノルト それと、一つ約束して欲しい。サラを書物庫に近づけてはならない。
セイル なぜです?
ノルト あそこには、国の重要書類や、極秘の歴史書などが保管してある。
    ここに住まわせるといっても、サラは部外者には変わらない。分かるな?
セイル はい。わかりました。
ノルト うむ。じゃあ、私は行くぞ。仲良くな。
セイル はい。

    サラ 着替えを終えて、戻ってくる。

セイル おぉ、綺麗になったね。
サラ  …なんか、落ち着かないよ。ヒラヒラしてて。
セイル じきに馴染むさ。
サラ  …ぁ、あの、殿下。
セイル サラ、殿下なんて呼び方はやめてくれよ。君と僕は友達だ。セイルで良い。
サラ  あ、はい。じゃあ、セイル、私は本当にここにいても良いのですか?
セイル うん。父上もそう言ってただろ? 良いんだよ、サラはここで暮らすんだ。
サラ  …ありがとう。
セイル それよりもさ、羽根を見せてくれないかい?
サラ  うん。はい。
セイル …すごい。本物なんだよね。飛べるの?
サラ  試してみたけど駄目だった。右の羽根、半分しか無いから。
セイル 産まれつき?
サラ  いえ、違います。見世物小屋で、逃げられないようにって……。
セイル そう。ごめん。(羽根を撫でながら)
サラ  うぅん、大丈夫だから。
セイル …そうだ、美味しい紅茶があるんだ。飲むかい?
サラ  え?良いの?
セイル さ、おいで。僕がいれてあげるよ。

    サラ、セイル 掃ける。
    音楽OFF
    ダン入場。歩いているところをノルトが呼びとめる。

ノルト おい、ダンや。
ダン  はっ、いかがしましたか。
ノルト ちと、相談なのだが……。
ダン  翼人の歴史にかかわる事を一切漏らすな、ですか?
ノルト ふふふっ、さすがだな。
ダン  しかし、本当に良いのですか? あの娘をこの城において。
ノルト …分からん。分からんが……。
ダン  責任を感じておられるのですね。
ノルト それは……、うむ、そうだな。
ダン  しかたない事です。何もあなたが悪いわけではありませんよ。
ノルト ……うむ。

    ノルト、ダン はける。

    スポットライトでロールが照らし出される。
    音楽

ロール こんにちは。私は、このマリノート王国のメイドをしています、ロールと申しま
    す。ここマリノート王国は、皆さんの住む国からはずっと遠く、そしてずっと昔
    の国です。この国は砂漠に囲まれていて、何の作物を育てることの出来ない、土
    の死んだ国です。そんな国が、今はこんなに豊かなり、人で賑わい、笑顔があふ
    れる国になったのは、つい最近の事。十数年前の事。……戦争、侵略戦争。




          4

     セイル、サラ 入場。
    音楽

セイル 大体こんな感じかな。
サラ  ふ〜ん。やっぱり広いんですね、お城って。
セイル でも、僕たちが普段から使ってる部屋はそんなに無いんだ。倉庫なんかがやたら
    と多いんだよ。
サラ  ふ〜ん。ねぇ、セイル。私はこれから何をすれば良いの?
セイル ん〜? 何かしたい?
サラ  そりゃそうだよ。こんな私を助けてくれた、セイルや、この国の人達の為に、
    私は何かしなきゃ。
セイル う〜ん、そうだなぁ。
サラ  メイドさんとかは?
セイル う〜ん。ちょっと相談してみようか。

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