死から生へ
「死から生へ」
    作 菅原悠人

登場人物
 加藤歩

私は死んだ人の言葉を伝えることが出来た。

私はしがない契約社員、加藤歩24歳。毎日起きて会社に行って、起きて会社に行っての繰り返し。休みの日だって寝てるか、ただ本を読んでいるだけ。生きている気がしない。私は、なんのために生きているのか。
仕事終わり、いつもと同じ帰り道を歩いていると、6歳くらいの男の子が一人で立っていた。こんな夜遅くにどうしたんだろう?「どうしたの?お父さんとお母さんは?」男の子は何も言わずに私をじっと見ていた。「お家はどこ?帰れないの?」男の子は何も言わない。
不思議に思い、男の子をよく見ると「え?」体が少し透けていた。夜中だしそう見えるだけだよね。そう思い、男の子に触れようとすると、触れられなかった。その代わり、男の子の感情が私の中に入ってきた。「え!?」今のって何?「もしかして、死んでるの?」私の言葉を聞いて、男の子はゆっくりと頷いた。
恐かったけど、逃げる気にはならなかった。「何でここにいるの?」男の子は困ったような顔をした。「喋れない?」男の子は頷いた。「そっか、成仏できないの?」男の子は何も言わない。「お母さんのこと?」何でお母さんかは分からないけど、私の中に入って来たものを伝えると、男の子はゆっくりと頷いた。「協力しよっか?」男の子は驚いたか顔をしていた。でも、一番驚いたのは私自身だった。
男の子の家の前に着き、家のチャイムを軽く押した。夜遅いけど、仕方ないよね。男の子の不安そうな顔をしてる「私の手握ってもいいよ、握れないけどね」そう言うと男の子が手を重ねてきて、翔太君の感情が私の中に全部流れて来た。涙が出た。「辛かったね」涙が止まらなかった。「ごめんね、すぐ止まるから」私が泣いたって仕方ないのに。辛いのは翔太君とお母さんなのに。
家の中から翔太君のお母さんが出てきた。目の下にはクマが出来ていて、疲れ切った顔をしている。きっと、寝れていない。翔太君はお母さんに会えて、嬉しそうにも、悲しそうにも見えた。「翔太君、私の体使ってもいいよ」翔太君は「いいの?」と言った気がした。「いいよ」そう言った瞬間、翔太君が私の中に入ってきた。重力で体が押されてる感じ。この時だけ、私は翔太君になった。
   
「ママ。」

お母さんは驚いた顔をしている。それはそうだ、夜中に突然来て、お母さんなんて言ったらなにされるか。でも、これは翔太君とお母さんの為なんだ。

「ママ、もっと、一緒にいたかったな。」

翔太君、頑張って。

「バスの運転車になってパパとママとおばあちゃんとおじいちゃんとどこか行きたかったな。一緒に遊びたいよ。先にいなくなっちゃってごめんなさい」

翔太君。

「ママは悪くないから、僕がわるかったの。ごめんなさい。これからは、良い子にしてるから。だから、またね」
  
翔太君。

「お姉さん、ありがと。」

翔太君が消えた。お母さんは泣き崩れていた。私の声だったけど、伝わったのだろうか。私は、もう何も出来ない。翔太君はもういない。何て声をかけたらいいか分からない。「失礼します。」そう言って帰ろうとした時、「来てくれて、ありがとう。」翔太君のお母さんは私に言った。私は何もしてない。全部翔太君が言ったこと。
翔太君は病気で死んだ訳ではない。普段、通らないところから車が出てきて、翔太君は気づかなかった。運転手はとっさにブレーキとハンドルをきったけど間に合わずに翔太君は…。
翔太君のお母さんは少しの間、目を離したことを責めた。翔太君それを見ていた。私は、二人の役に立てたのだろうか。翔太君のお母さんを傷つけただけではないのか。でも…。

「お姉さん、ありがと。」「来てくれて、ありがとう。」

二人の言葉は私の胸に深く刺さっていた。

   ~終わり~
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