想いよ届け
『想いよ届け』

 とある軍事施設の地下室。
 スパイであるSが、ハッカーであるHに通信している。
 HはSからの通信に応答する。

H「おや、こんな夜更けにお客さんとは珍しい」
S「あんたが組織お抱えのハッカーか」
H「ただのハッカーじゃない。〝天才〟ハッカーだ。それに〝組織お抱え〟って響きは気に入らないな。俺は飼い犬なんかじゃない」
S「講釈は結構だ。仕事を頼みたい」
H「あんたも組織の人間か」
S「そうだ。訳あって立場を明かすことは出来ないが、緊急事態だ。仕事を頼む」
H「断る」
S「何故だ」
H「気分が乗らない。とだけ言っておこう」
S「気分だと? こっちは緊急事態なんだ」
H「悪いが知ったこっちゃないね」
S「頼む。話だけでも聞いてくれ。報酬はそっちの言い値で払ってやる」
H「…聞くだけ聞いておこうか」
S「恩に着る。俺は今、組織の指令でアリゾナ州の軍事組織に潜入している。ところが任務中に俺の正体がバレた。何とか地下室まで逃げ込んだが、もう限界だ。避難経路を探して欲しい」
H「…」
S「…」
H「…」
S「もしもし?」
H「え? 何?」
S「聞いてた?」
H「何が?」
S「え、聞いてなかったの?」
H「ごめん、電波が悪くて。途中から全然聞こえなかった」
S「マジかよ」
H「もう一回言ってくれる?」
S「どこから?」
H「恩に着る――ってところから」
S「だいぶ序盤だな!」
H「ごめんごめん! もう一回言ってくれる?」
S「だから、今、組織の指令で」
H「組織の指令で?」
S「アリゾナ州の」
H「アリババ獣医師の?」
S「言ってねぇよそんなこと!」
H「ヒット&ランニングコート?」
S「違う違う違う」
H「違う違う違う」
S「あぁ、それは合ってる!」
H「え、アリババ獣医師?」
S「違う違う違う!」
H「どこから違う?」
S「頭っから全部違う!」
H「え、組織の指令じゃないの?」
S「そこはいいんだよ! むしろそこはどうでもいいの!」
H「もう一回言ってくれる?」
S「だから、アリゾナ州の!」
H「アリゾナ州の?」
S「そう! 軍事施設に潜入してて!」
H「ソゥグッドセサミ練乳したたり?」
S「違う違う違う! もう違う もう違う!」
H「違う違う違う! もう違う もう違う!」
S「何でそこは通じるんだよ!」
H「パンで祖母が痛風なんだよ?」
S「違う! リセットリセット!」
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