笑うミステリー


  沢井    (さわい)
  氏原警部  (うじはらけいぶ)
  三村青年  (みむらせいねん)
  女性    ※冒頭声のみ


■■■

  暗転。
  
女性  (声)い、いやぁあ!

  明転。
  舞台上には三人、警部の氏原、その補佐の沢井、そして一人の青年。
  床には、あの事件後によくある死体の形を模したテープ(あれ名前なんていうんだろうね)が貼られており、その周囲には雑誌が散らばっている。
  また、テープのすぐそばには置き時計が落ちている。

氏原  死亡時刻は午後4時23分、今からざっと5時間前だな。容疑者は四人。まずは隣、102号室の川村、こいつは第一発見者だな。被害者の部屋にはよく訪れていたらしい。次に藤村、このマンションの大家だ。犯行時刻の前後にこの部屋を訪問している。その時はどちらも被害者は出て来なかったそうだ。三人目の古村だが、被害者の彼女で、犯行時刻にはすぐそこのスーパーで買い物をしていたらしい。まだ確認はとれていないが、まぁ可能性は低そうだな。

  氏原が語っている間、沢井、青年の方を気にしている。
  青年、客に背を向け、雑誌を読んでいる。

氏原  そしてもっとも怪しいのがこの堀村という男、昼から夕方にかけて被害者のアパートの周辺を妙にうろついていたのを目撃されている。被害者の友人だというがどうも臭うな。お前はどう思う? 沢井。
沢井  え? あ、はい。そうですね。
氏原  …聞いてたか?
沢井  大丈夫です。気にせず続けてください、氏原警部。
氏原  …被害者の死に方から、犯人は知り合いだろう。犯人を招き入れた形跡がある。

  青年、雑誌を読みながら、肩をふるわせて笑っている。
  沢井、やはり青年を気にしつつイライラとしている。

氏原  まったく、面倒な事件だよ。死因は鈍器による撲殺だが、衝動的な犯行のようで犯人の痕跡がひとつもない。マンション入り口にある監視カメラはダミー。なんとか容疑者は絞り上げたが、これ以上はなぁ。何か手がかりがあれば…、沢井?
沢井  ああ? あ、いえ、何でしょう。
氏原  …調子悪いのか? なんかやけにイライラしてるように見えるが。
沢井  いえ。
氏原  …俺か?。
沢井  はい?。
氏原  何か不満があるなら、はっきり言ってくれ。
沢井  ああいえ、そう言うわけじゃ決して。
氏原  そうなのか? ならいいんだが。
沢井  はい。

  氏原の携帯が鳴りだす。着うたはB'zの「ultra soul」

氏原  (携帯にでる)はい、もしもし。あ? ちょ、ちょっと待て。(沢井に)悪い、少し待ってろ。

  氏原、舞台からはける。舞台上にふたりきりになる。
  沢井、氏原のはけた方を見て、居ないことを確認。
  手に持っている雑誌を丸めて思い切り青年の頭をはたく。
  青年、驚いた顔で沢井を見る。

沢井  こんなところで何してるんだ、君は。
青年  (驚きつつも)何って、雑誌読んでます。
沢井  んなことが聞きたいんじゃないよ。
青年  ええ?
沢井  だから、なんでのんきに雑誌なんか読んでんだって聞いてんの。
青年  いや、なんでもなにも…。
沢井  (ため息)君さ、殺されたって自覚ある?
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