コロナ桃太郎
むかしむかしある所に、お爺さんとお婆さんが、人のほとんどいない生活していく上で適切なソーシャルディスタンスの取れる山奥に暮らしておりました。ある日、お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に参りました。お婆さんが衛生面で問題のない、大変綺麗な川で洗濯をしておりますと、川上から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れて来ました。
お婆さん「やれ嬉しや、スーパーに立ち寄らずに食料が手に入ったわ」
今では買い物に行くにも十分注意しなくてはなりませんからね。お婆さんは桃を家になんとか持ち帰り、山から帰ってきたお爺さんが、ナタで桃をすっぱりと割りました。すると、なんという事でしょう…
中には小さな人間の男の子が入っているではありませんか!
お爺さん 「ギェ〜!密閉された空間から男の子が!」
お爺さんは慌てて消毒液を吹きかけます。
お婆さん「おじいさんや、この子は桃の中で1人だったんですから、三密には該当しませんよう。落ち着いて下さいな。」
仕方のない事ですが、神経質すぎるのも良くありませんね…
さて、桃太郎はお爺さんとおばあさんに育てられ、すくすくと大きくなりました。
テレワークの環境は備わっていたので、山奥でもきちんと義務教育は受けられています。ある時桃太郎は、お友達から鬼が村で悪さをして、宝物をたくさん奪っていったとの話を聞きました。許せない事だと桃太郎は憤り、不要不急でない鬼退治に出かける事にしました。

道中、まずは犬に出会いました。
犬「おお、こんなご時世に人間が出歩いているとは珍しい。どこへいくんです?」
桃太郎「これはこれは犬さんこんにちわ。僕はこれから鬼ヶ島へ鬼退治に参ります。良ければ一緒に参りませんか?」
犬「ふむ……私は構いませんが……」
桃太郎「タダとはいいません、このキビダンゴをどうぞ。」
犬「おおこれはありがたい。ふむ、なかなか美味しい…」
桃太郎「あと……」
犬「ん?」
桃太郎「………マスクを……」
犬「………助かります……っ!」
キビダンゴをもらった時より明らかに深く感謝してますね。なかなか手に入らないものですから。
次に桃太郎は、猿に出会いました。
猿「うっす、久しぶりに人間を見たよ。」
桃太郎「こんにちわ猿さん。桃太郎といいます。」
猿「名前くそだせぇな。まぁいいやどこ行くのよ?」
桃太郎「実は鬼に、村の宝物を奪われてしまいまして…これから取り返しに行く所なんですよ」
猿「へー面白そうじゃん、ついてっていい?」
桃太郎「本当ですかありがたい。ではお礼に、このキビダンゴを差し上げましょう。」
猿「ん、サンキュー。おー美味い美味い。人間はこういうもんつくれるから賢いよなー。」
桃太郎「あと……これも」
猿「マスク?あーいいよいいよ、別に俺には必要ねぇ……って思ったけど、後ろの犬がめっちゃ怖い顔で睨んでくるじゃん……貰っとくわ」
最後に、桃太郎は雉子に出会いました。
雉子「おや人間とは珍しい。久しぶりに見ましたよ。」
雉子「こんにちは雉子さん。そちらはどうですか?」
雉子「私たちはあまり関係ありませんね。あまり群れるたちでもありませんから…飛べばソーシャルディスタンスなんぞ、簡単に確保出来ますし」
犬「私たちはこれから鬼退治に向かうのですが、貴方も一緒に来ませんか?」
雉子「ふむ…大事な仕事だとは思いますが、危険も伴う……それなりの報酬が頂きたいものですな」
桃太郎「いかほどです?」
雉子「そうですね、10万両ほど」
桃太郎「そ、それはちょっと(汗)」
雉子「ふふ、冗談ですよ。お腰につけたキビダンゴを、1つ私に下さい。」
こうして桃太郎とお供の犬、猿、雉子は、鬼ヶ島へと向かいました。

猿「あれが鬼ヶ島かぁ…今更ながら緊張してきたな」
犬「果たして屈強な鬼に、我々で立ち向かえるでしょうか?」
雉子「確かに…」
桃太郎「そうですね…」
彼らは考え直す事にしました。そして取り敢えず鬼ヶ島へは、こっそりと侵入する事にしたのです。
結果として、拍子抜けするぐらい簡単に、宝を奪い返すことが出来ました。と、いうのも鬼達も鬼達で、コロナウイルスを警戒しておりまして…あまり外をうろついていないのです。
犬「正義の味方がこんな泥棒みたいな真似していいのかしら?」
雉子「いいんですよ。元々は人間のものなんですから」

こうしてお宝を取り戻した一行は、村へと帰って行きました。しかし人が集まるのはご法度ですから、出迎えてくれる人はいません。少し寂しく思いながら家に帰ると、家には桃太郎達宛に、沢山の手紙が届いておりました。そこに綴られていたのは、彼らへの感謝の言葉。それを読んで、皆は大変嬉しい気持ちになるのでした。

しばらくして、また友達から鬼の話が。
友「なぁなぁ桃太郎、鬼達がまた悪さをしてるんだ。」
桃太郎「ん、また宝物を奪われたのかい?

友「いや、ある意味それより大事なものだよ。」
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