料理のカミサマ

(りょうりのかみさま)
初演日:0/0 作者:老川 統
料理のカミサマ                 作:老川 統          

吉岡 雄三(ゆうぞう)
   剛 (つよし)
   由美(ゆみ)
男=料理神
小塚ケイ子


  0幕 「噂の始まり」

   洋館の中。
   なぜか洋館の中に厨房が。
   その厨房がこの芝居の舞台になるのだよ。
   空襲警報。サイレンが鳴っている。
   上手から男が登場する。
   
男  (上手の方を見ながら、ぽつりと)房江、志津子、元気に暮らせよ。

   男、いとしそうに厨房を見渡し

男  ここも、灰になってしまうのか。

   男、調理用具の一つ一つを手に取り、見つめながら

男  怯えているのか?心配するな。お前たちを置いて逃げたりはしない。私はいつもお前たちと一緒だ。死ぬ時もな。お前たちは私の命そのものなんだ。
   お前たちが死ぬなら私も死ぬ。

   洋館にも火の手が。徐々に厨房も焼け始め、きなくさい臭いが立ちこめる。

男  ごほっ、ごほっ、どうやら、これまでのようだな。もう少し、お前たちと話をしたかったが…。ふふっ、いや、いつでもできるか。
   天国には永遠に時間があるんだからな。永遠の再会への一時の別れだ。何も淋しいことはないよな。

   男、徐々に力を失っていく。

男  じゃ、また、あとで…な…。

   男、力尽きる。
   暗転。   
   
  一幕 「噂の洋館」

   明転後。古びた洋館の前。
   雄三と剛と由美が立っている。
   雄三は手に何やら荷物を持っている。

雄三 ここが噂の洋館か。
剛  よう考えろよ。
由美 芋ようかん食べたい。
雄三 こらー!駄洒落を言うために来たんじゃないぞ!!
剛  そうだった。
由美 ごめんなさい。
剛  それより父さん、本当にここでいいの?
雄三 (地図を取り出し)ああ、ここで間違いない。
剛  本当にうまくいくのかなぁ。
雄三 それは分からない。でも、賭けてみるしかない。
剛  うまくいくといいけど。
雄三 なんとしてでもここで料理の腕を磨いて店に客を取り戻してみせる。
由美 料理がうまくなる無人の洋館か。胡散臭いわね。
剛  確かな情報なの?
雄三 ああ、「さいたまウォーカー」のデートスポット特集に書いてあった。
剛  そんな雑誌あんのかよ。しかも、デートスポットかよ。
雄三 ああんもう、ほら、考えてても仕方がない。とにかく中に入ろう。

   暗転。
   
  二幕 「炎の料理人」

   洋館の中。

雄三 なかなかきれいじゃないか。
剛  そうね。
由美 ノーメイクのときの私並みにきれいね。
雄三 それではさっそく。
剛  作るの!?
雄三 ああ。作らないことには何も始まらん。

   雄三、バーバパパのエプロン(別になんでもいいよ)をとりだし、身につける。

剛  …父さん、いい加減さあそのエプロンやめてくれる?
由美 なんで?かわいいのに。パパじゃなくてバーバパパが。
雄三 そうだそうだ。父さんの趣味にけちをつけるんじゃない。誰だって変わった趣味の一つや二つは持っているものだろう。
   剛だって、カップラーメンやこんにゃくを使った…ぶげ!!(剛からボディブロウを食らう)
剛  よ、余計なこと言うなよ!ていうか、なんで知ってんだよ!!
由美 お兄ちゃん、カップラーメンやこんにゃくを使って何するの?あ、そうそう。変わった趣味といえば私にも変わった趣味有るよ。きゅうりやナスを使って…
雄三・剛 …ゴクリ!きゅうりやナスを使って!?
由美 遺伝子組換えしてトマトを作るの。ね、変わった趣味でしょ?
雄三 な、なんだ遺伝子組換えか。
剛  た、確かに変わった趣味だな。
由美 なんで妙にがっかりしてるの?
雄三 …そ、そんなことより作り始めないとな。 

   雄三、包丁を取り出して料理の準備を始める。

剛  何作るの?
雄三 チャーハンだ。
剛  チャーハン?やった、父さんの得意料理だね!
雄三 ああ。

   雄三、コンロに火を入れる。(シュボッとかいう音を入れればいいよ)

剛  はやくできんかなー。できんかなー。
由美 できんかなー。できんかなー。

   剛と由美、チャーハンの歌(適当に節を作ってね)に合わせて踊り出す。

剛  (適当な節で)チャチャチャ、チャーハン。チャチャチャ、チャーハン。
由美 ジュジュジュジュワワー、ジュジュジュジュワワー。
剛  チャチャチャ、チャーハン。チャチャチャ、チャーハン。
由美 チャンチャンチャン、チャーアハアハーン。
雄三 おいおい楽しそうだな。父さんも混ぜてくれ。

   雄三もフライパンを持ちながら混ざる。
   しかし、あきらかに他の二人と踊りが違う。 

剛  チャチャチャ、チャーハン。チャチャチャ、チャーハン。父さん、まじめに料理作ってよ。
由美 ジュジュジュジュワワー、ジュジュジュジュワワー。踊りながら料理作ったら危ないよ。
雄三 ツクテンツクテンテンツクテン。いいじゃないか。父さんだけのけものなんてずるいぞ。
剛  チャラッタラチャラッタララタラララー。僕達はいいんだよ。料理できるまで何もすることないし。
雄三 ポコペンポコペン。父さんも料理作る以外何もすることがないぞ。それにしても、このリズムは何だかのりやすいな。

   雄三、やったらノリノリになって踊り始める。

雄三 アビキョウアビキョウケイケイケイ。イヤッホゥゥゥゥ、イエーイ!!(クルクル回りだす)
剛  ハンチャンハンチャン、チャーハンハン。父さん、そんな状態じゃ料理なんか作れないよ。
雄三 ケイラブル、ミザリブル。アオウウウウウウ!イエーイ!!

   雄三、回転をやめ、ピシッととまり決めポーズ。
   このとき、雄三が手にしているフライパンが剛の頭上で裏返る。

剛  ウワジャアああああ!!!!
由美 お兄ちゃん!
雄三 剛!

   雄三、雑巾を取ってきて剛の頭をぬぐう。

雄三 剛、大丈夫か、しっかりしろ!!
剛  あんたがしっかりしろよ。
雄三 すまん。
由美 あ〜あ、なんか踊れる雰囲気じゃなくなった。
剛  どうするんだよ。また作り直さなきゃいけないじゃないか。
雄三 (フライパンをのぞきながら)大丈夫だ。少し残ってる。
由美 とりあえず食べようよ。
剛  これでまずかったら許さないから。
雄三 そんなこと言わないで。

   雄三、盛り付けを始める。

雄三 さあ、いささかアクシデントがあったが気にせず召し上がってくれ。
剛  気にするよ。頭火傷しちゃったよ。これではげたら父さんのせいだからね。
雄三 ごめんなさい。
由美 いただきます。モグモグ。
剛  …僕の頭皮に大ダメージを与えたチャーハンはどれだけの味かな。モグモグ。

   二人、料理を食べ始める。

雄三 どうだ、お味のほうは?

   剛と由美、アイコンタクトをとって

剛・由美 せーの、まずい!!

   雄三、ふさぎこむ。

剛  と、父さん、そんなにふさぎこまなくたって。
由美 そうだよ。そんなに落ち込むことないよ。まずいけど。
雄三 いいんだ。父さんなんか、父さんなんか料理人に向いていないんだーー!!
剛  そんなことないよ。たまたま調子が悪いだけだよ。
由美 そうだよ。調子が良くてもはたしておいしいものが作れるかはなはだ疑問だけど。
雄三 せっかく、料理がうまくなる館があるときいてここまで来たのに。ちっとも上達していないじゃないか!
剛  そんな、まだ一回しか料理していないじゃん。
由美 そうだよ。何回料理したところではたしてうまくなるかはなはだ疑問だけど。
雄三 うおー!!ぐれてやるー!!

   雄三、泣きながら去る。

剛  父さん!?
由美 パパ、焼身自殺しに行くの?
剛  すっかり自信喪失しちゃったみたいだな。
由美 困っちゃったね。
剛  でもなあ。なんでだろう。なんでちっとも料理の腕が上達しないんだろう。
由美 料理人に向いてないんじゃないの。
剛  あの人は三十年も料理人やってるんだぜ。今さら「料理人に向いていないので料理人やめます。」なんていかないだろう。
   だいたいあの人から料理を取ったら何が残るんだよ。
由美 脂肪と水虫。
剛  だろ?結局あの人は料理人を続けなくちゃいけないんだよ。
由美 それはますます困っちゃったね。
剛  困った困った、こまくら千代子。
由美 …

   暗転。

  三幕 「料理の神様」

   明転。舞台上には誰もいない。
   雄三が出てくる。

雄三 ああ、いじけ疲れた。あれ、誰もいないのか。二人ともどこ行ったんだ?      

   雄三、さっきのフライパンが視界に入る。

雄三 もう一回、作ってみるか。

   雄三、再び料理にとりかかる。

雄三 今度失敗したら…。いかんいかん、弱気になっては。

   雄三、チャーハンの調理を始める。(ジューッとかいう音を入れればいいかも)

雄三 フーッ、どれ、ここらで味付けを。(胡椒をふりかける)

   しばらく炒めたあと味見をする。まずい。へこむ。

雄三 うう…。だめだ、胡椒の味しかしない。具をたくさんいれて胡椒の味を薄めよう。

   具をたくさん入れる。しばらく炒めて味見。やっぱりまずい。へこむ。

雄三 だめだ、今度は全然飯の味がしない。これじゃただの野菜炒めだ。飯を多めに入れるか。

   飯を多めに入れる。しばらく炒めて味見。それでもまずい。へこむ。

雄三 うがあああああ!!!飯の味しかしねーよ!!!白ご飯食ってるようなもんだよ!!!胡椒だ!!胡椒をふりかけまくってやる!

   胡椒を手にしたところで自分の愚行に気付き。

雄三 だーッッッッッッッ!!!!!さっきの繰り返しだ!!!!!無限ループだ!!!!!もうだめだ!…剛、由美、父さんはもうだめだ。もう死ぬしかない。

   雄三、紙とペンを取り出し、遺書を書き始める。

雄三 『チャーハンがうまく作れないので死にます。雄三。』

   雄三、醤油を手にとり一気に飲み干そうとする。
   そこへ、料理神(以下、料理)が通りかかる。
   料理神、雄三が死のうとしているのを見て慌てて雄三を止めに入る。

料理 これこれ、何をしている。
雄三 …あなたは?
料理 わしか?わしは料理の神じゃ。
雄三 料理の神?
料理 さよう。ありとあらゆる料理に精通しているぞ。料理神とでも呼んでくれ。
雄三 …
料理 フッフッフッ。驚いてぐうの音も出まい。
雄三 ギャハハハハハ!!!!!料理の神だって!!馬っ鹿でーーーーー!!!!笑わせてくれる!!楽しませてくれる!!こんなただのおっさんが、神!?
   のほほほほほ!!!ゲハハハハ!!ゲホッ、ゴホッ、ウゲエエヘッ、ゲホガハゴホッ!!!アヒャッホ、イヒャッホ、ゲホコホウホ!!!
料理 笑いすぎ。
雄三 あんたが笑わすようなことを言うからだよ。
料理 信じてくれんようだな。
雄三 信じるも信じないも、そんな突拍子もないことを「はいそうですか。」と信じるわけにもいかんだろう。
   それともなにかね、自分が料理神だということを証明するものがあるのかね?
料理 なるほど。ワシが料理神だということを証明すれば、信じてくれるということじゃな。
雄三 ああ。もっとも、そんなものあるわけないだろうがね。
料理 フフッ…

   料理神、キッチンに立ち、料理を始める。

雄三 なんだあ、あんた勝手に何するんだ?
料理 料理。
雄三 困るよ。勝手に人の調理用具使っちゃ、ああほらほらそんな風に包丁使っちゃ刃こぼれしちまうよ。
料理 できた。
雄三 はぁ?できたって、もう?ええ!!?こんなにホカホカ。いつのまに炒めたんだ?
料理 食うがいい。
雄三 わ、分かった。いただきます。

   雄三、料理を食べる。

雄三 むっ!!これは!?
料理 ニヤリ。
雄三 オウェェェェェェェェェェ!!!!うまい!!!うますぎて!!!!うますぎて、舌が、喉が、胃袋が、いかれちまった!!!
   アゴウェェェェ!!!なんてこった!!こんなことは初めだ!!うますぎて吐いちまうなんて!!!オエエエエエエ!!!!
   黄色い胃液が口からほとばしるゥゥゥゥゥゥゥ!!!のほほほ!!!ハハハハ!!ゲホッ、ゴホッ、ウゲエエヘッ、ゲホガハゴホッ!!!!
   アヒャッホ、イヒャッホ、ゲホコホウホ!!!
料理 なんでさっきと同じむせかたなの?
雄三 うう、こほっ、ゲハッ。ま、参った。よもやここまでうまい料理があろうとは…。ところで、これはなんという料理です?
料理 知らん。即興で作った。
雄三 なんだと!?即興でここまでうまい料理を作るとは…。あなたは一体、一体、何者です?
料理 だから料理神だと言っておるじゃろう。
雄三 料理神どの!!

   雄三、急にひざまずく。

雄三 私を弟子にしてください。
料理 断る。ワシは弟子はとらない主義なんでの。
雄三 しかし!!私は料理を上手くなりたいのです!思えば三十年、私、料理を作り続けてきて、一度も自分でうまいと思う料理を作れませんでした。
   自分さえも納得させられないでどうして他人を納得させる料理ができましょう。何度も料理人をやめようと思いました。
   しかし、だめなのです。いついかなるときでも料理のことが忘れられないのです。
   サラリーマンに転職してもデスクのパソコンが料理包丁に見えてきて、コンビニの店員になってもバーコードを読み取る機械が中華なべに見えてくるという始末。
料理 全然似てないと思うけど。       
雄三 私は料理の世界に携わっていないとダメになってしまうのです。お願いします。そんなダメな私にどうか、どうか救いの手を。
料理 うーむ…。

   料理神、しばらく考えこむ。

料理 あいわかった。ただし、条件がある。
雄三 条件?

   料理神、雄三の手から遺書を取り上げる。

料理 (遺書を破り捨てながら)二度とこのような馬鹿な考えは起こさないことじゃ。
雄三 し、師匠!

   雄三、料理神に抱きつく。

料理 お、おい、気持ち悪いぞ。
雄三 師匠!うおーん!!!

   暗転。

  四幕 「ライバル登場」

   明転。
   舞台上には料理をしている雄三が一人。
   剛と由美が出てくる。

剛  あ、父さん、どこ行ってたの?
由美 ちょっと捜したよ。
雄三 おお、剛と由美。
剛  あれ?なんでそんなにご機嫌なの?何かいいことでもあった?
雄三 んん?フッフッフ、あったあったさ。ねえ、師匠。…あれ?


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