じつのなんとか(大人版)
じつのなんとか

【場面A-1/居酒屋】
 失恋した松下の話を田中が聞いている。

松下「女ってさ、どうして大切だった物をあんなに簡単に手放せるんだろうな。あんな出会い方して、あんな風に過ごして、あんな別れ方して、なんであんな風に何も無かったみたいにできるの。
例えばよ、結婚した相手が死んで、再婚しても、その前の旦那の事はやっぱり大切に思ってるわけじゃん。それは成立してるわけじゃん。なんでなんじゃん。俺とは何が違うんじゃん。
田中「だってなあ、お前生きてるしなあ。──お前も死んだらいいんじゃない?」
松下「死なねえよ! 生きるよ! じゃあさ、例えばさ、義理の親と実の親がいてさ、義理の親は血のつながりの無い赤の他人じゃん。それなのに実の親よりも絆が深かったりするじゃん。それはなんでなんだよ?」
田中「例えが遠すぎてよくわかんないけど、それは過ごした時間の違いとかじゃないの?」
松下「だったら俺だって同じじゃん! 五年だよ五年? それだけ長い時間一緒に過ごして来たわけじゃん!」
田中「だってお前、育ててないしなあ」
松下「育ってるよぉ!」
田中「お前の腹が?」
松下「俺の腹じゃねえよ! 俺の想いだよ!」
田中「自己完結してるじゃん」
松下「共に育てて来たんだよ!」
田中「あー、はいはい」
松下「しかもさあ、別れ話する前に見た映画がさ、ちょうど実の親と育ての親の話でさあ、それをきっかけに別れ話されてさあ。『私たちも、おんなじだね』って。同じじゃねえよ! 何が同じなんだよ! 何? 俺のどこがダメなの? こういうトコ? なあ、俺って重い?」
田中「え、なに、体重が?」
松下「想いの重さだよお!」
田中「あーごめんごめん。重い重い。でもさ、やっぱり男と女って違うのかもなあ」

 松下、話の途中でスピーと寝る。

田中「このタイミングで寝る!?」

 松下、まどろみの中、意識の奥底へと沈んでいく。

【場面B/映画館の外?】

 どこかしらへ着地。松下が意識を取り戻し、あたりを見回す。

 藤原が現れる。

 松下、藤原の姿を見て胸がいっぱいになる。

 しばらくためらった後、話しかけようとするが、

田中「お待たせ」

 田中が現れる。藤原、田中と腕を組む。
 その姿に驚きを隠せない松下。

藤原「あーなんか雨降りそうだね。」
田中「本当だ、始まるまであんなに晴れてたのに」
藤原「だから言ったでしょう、傘あった方がいいんじゃないって。田中くんがいらないって言うから私おいてきちゃった」
田中「ごめんごめん。あ、でも折り畳みなら一本あると思うから」
藤原「入れてくれる?」
田中「もちろん」
藤原「映画館の中にいると全然気付かないよね。外でるのやだなあ。」  
田中「憂鬱だよな。」
藤原「ちーがーう。」
田中「ん?」
藤原「外だと堂々とくっつけないじゃん。」
田中「相合傘なら、いいんじゃない?」
藤原「あ、そっか。なら、雨もいいな。」
田中「だよね」
藤原「でもさ、さっきの映画、ほんとうに感動したよね!」 
田中「・・・あー、うん。」
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