オーマイゴッド2
『オーマイゴッド?』
                                    小川リューク

社員A
社員B
トイレのかみ様


 1 オーマイゴッド


    舞台後方には電車の座席のような装置が置かれ、その手前では二つの洋式便器が明りに照らされている。
    静かに客電が落ちると暗闇の中に電話やタイピングなどのあわただしい会社の環境音が響き渡る。
    音響 フェードアウト  照明 男サス。
男が個室の便器に座っている。 男は横を見てしばらく考えこみ、ふと天井を見つめ、もう一度横を見た後正面に向き直り、じっと睨む。
  

社員A よく、個室に入っていると神について考えることがある。世間のしがらみや、社会の歯車の中にいる私という服を脱ぎ棄て、誰もいない、この安住の地に辿りついた時、初めて私は単独者として神の前に立ち、真理とは何なのかという極めて根源的問いに身を委ねることが出来るのだ。 『神は死んだ。』 誰かが言った名言も私には信じがたい。このビルの3階、階段奥社員用トイレ5番目の個室にいるときだけは、この脱呪術化の現代という荒波を逆に脱出してやったのだという気に、どうしてもなりたいのである。

  誰かが隣の個室に入ったようだ。 それに気が付く社員A。

社員B あーあ、ふぅ〜。

  電話をかける。

社員B あ、もしもしオレオレ、あのさ先に店入っててくんない? ごめんごめん、いやクソ課長が、マジでうざくて仕事増えちゃってさー、え? まあなかなかブラックよ 隣の落合さんなんて3日くらい寝てないもん。 この前なんかストローでカレー食ってたからね。 うん、まあでもオレは天才だからいま終わっちゃったからー! いや、あんなの俺の手にかかれば朝飯前ですよ。 え、ディナーだから夕飯前? たしかにー ははっ だからー今から出るからだいたい20分後には着くわ。 待たせてごめん、はーい、あとでねー ほーい。

社員A ……鈴木くん。
社員B え……課長? 
社員A ああ、そうだ。 
社員B あの、聞いてました?
社員A 聞いてた。
社員B ああ、そう、ですか。
社員A ああ、そう、だ。
社員B ……。
社員A ……。
  社員B あの、別に課長がうざいとかって言うのは
社員A いや、もう何もいうな、だから君はもう、私のせいで仕事に嫌気がさしているということだろ。 いいんだ、それならそれで。
社員B いや、ですから、全くそういう意味ではなくて、その、申し訳ありませんでした!
社員A そんなことはもうどうでもいいんだ。
社員B 課長! 俺、仕事、嫌なわけじゃないんです。 俺、こう見えて
社員A ああ、こう見えて……見えないんだけどな。
社員B 見えませんよね。
社員A 見えないなあ!
社員B 見えませんよねえ!
社員A 見えないものを見ようとして望遠鏡を覗きこんだ〜
社員B 静寂を切り裂いていくつもー声が生まれたよー
社員A ああうるさい。 そんなことはもうどうでもいい。
社員B 課長!!
社員A おい、君、紙はあるかね。
社員B はい?
社員A そっちの部屋にトイレットペーパーはあるかと聞いているんだ。
社員B ああ、えーと……。
社員A ……。
社員B ……。
  社員A ないのか。
  社員B なぜです!!
  社員A え?
  社員B なぜ、もっと早くおしえてくれなかったんですか?
  社員A 教える?
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