n回目のジュリエット

(えぬかいめのじゅりえっと)
初演日:2019/9 作者:永村閏
『n回目のジュリエット』

【登場人物】
ジュリエット/ジュリアン
ジュリー
理絵
未央
母/姉/先生/乳母



          開幕。
          暗闇の中から複数の声が聞こえる。
          どれもかの有名なジュリエットの台詞である。

声      たった一つの私の愛が、たった一つの私の憎しみから生まれるなんて。
声      名前って何? 薔薇の花を別の名前にしてみても美しい香りはそのままよ。
声      いけません月にかけては。月は満ちたり欠けたりする不実なもの。貴方の愛もそのように変わりやすいものになります。
声      あの恐ろしい竜がこんな美しい洞窟に住んだ例(ためし)があるのかしら。
声      今聞こえたのはナイチンゲール。ヒバリじゃありませんわ。
声      扉を閉めてくださいませ。そして私と一緒に泣いていただきたいの。
声      もし目が覚めるのが早すぎたならどうしよう。それを思うと恐ろしい。
声      私の愛しい方はどこにいらっしゃいますの?
声      おおひどい、すっかり飲みほして。あとを追う私に一滴も残さないなんて。
声      ロミオ様、あなたは何故ロミオ様なの?
ジュリエット なら、私は何故。

          明転。
          ジュリエットの姿が現れる。
          今まさに短剣で胸を貫こうというシーンである。

ジュリエット 私の名はジュリエット。ジュリエット・キャピュレット。後の世におそらく世界で最も有名になるであろう悲劇の恋のヒロイン。愛する人に先立たれ、もはやこの世に未練などない。
       きっと私たちは、次の世で再びめぐり逢い、今度こそ恋を実らせるでしょう。それを思えば私は死さえ恐ろしくはないのです。ロミオ様、必ずあなたを、見つけてみせますわ。

          ジュリエット、短剣を胸に沈め、崩れ落ち絶命する。
          しばしの間。
          すると何事もなかったかのように起き上がる。

ジュリアン  痛かった。本当に痛かった。剣を使ったこと、ちょっと後悔したの。あんなに痛いものだと思わなかったわ。
       でもその痛みのおかげかしら、私は私の、「ジュリエット」の記憶をまるまる持ったまま新しい命に生まれ変わったの。私の名はジュリアン。ジュリアン・キャピュレット。
       そう、とても幸運なことにまたまたキャピュレット家に生まれたのよ。今は、前の私、「ジュリエット」が生きていた時代からだいたい百年後。5代あとの子孫になるのかしら。
       だから顔だって本当によく似ている。これならロミオ様だってきっと私を見つけてくれるわ。あの悲劇の日からモンタギュー家とキャピュレット家はいがみ合うことをやめ、今じゃ休日に一緒にBBQをするほどの仲。
       でもモンタギュー家には私と同じ年頃の男の子はいないのよね。ロミオ様は一体どこにおいでなのかしら。

          ジュリアンの母、登場。

母      ジュリアン。
ジュリアン  あぁばあや。
母      まぁ失礼な。
ジュリアン  そうでした、今は私のお母さま。前世でつながりの強かった人は今の世でもなんらかの関わりがあるみたいなの。私の世話を焼いてくれたばあやも今は私のお母さま。
母      変な子ね。それより支度はできた?
ジュリアン  もう少し待ってくださいな。それでどなたのお葬式でしたっけ?
母      ロベルトさん。遠縁のおじいさんよ。
ジュリアン  私会ったことあります?
母      ないんじゃないかしら。
ジュリアン  それって行く意味はあるのでしょうか?
母      奥様もお子さんもいらっしゃらない方なの。誰も見送らないなんて寂しいでしょう。
ジュリアン  おいくつだったのですか?
母      96歳ですって。
ジュリアン  まぁ大往生ですこと。え、その年まで結婚もせずたった一人で生きていたということですか?
母      そうなんじゃないの。

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