真夜中のハイウェイ

(まよなかのはいうぇい)
初演日:2012/2 作者:岡田昌悟
豊橋発東京行き夜行バス車内。停車中のバスに乗客が乗ってくる。初めに啓子が乗り込んでくる。続いて早希と駿、バスの外で会話

早希 「これで一安心」
駿  「そうだね」
早希 「よく取れたねディズニーの直行バス」
駿  「あぁ…バイト先の先輩がね、偶然くれたんだ」
早希 「何か運よすぎだね。使い果たしちゃったかな」
駿  「偶然も極まれば必然になるよ」
早希 「たしかマーフィーの法則だっけ」
駿  「ここだね」
早希 「ちゃんと忘れずに持ってきたんだ、偉い偉い」
駿  「馬鹿にすんなよ」
早希 「駿、忘れっぽいから私が保管するって言ってたのに」
駿  「そんなに忘れっぽいか?」
早希 「昔からそうじゃん。ほら小学二年の時のプールの時間」
駿  「やめろ…」
早希 「靴下をはいたままプール入って皆に笑われて、挙句の果てには実はパンツもはいたまま水着着て泳いでたなんてありえないでしょ」
駿  「あの時は意識が朦朧としてたんだね…先生に若年性アルツハイマーじゃないかって言われて病院で精密検査まで受けさせられた」
早希 「忘れっぽいとかいう以前に馬鹿なのかもね」
駿  「もう聞き飽きたし…」
早希 「幼稚園の時からずっと言ってるもんね」
駿  「でもまさか早希となぁ…」
早希 「そんなこと言ってないで早く乗ろ」
駿  「あ、あぁ…」

バスに乗り込む。駿が先に窓際に座る。早希、立ちっぱなし

早希 「これから八時間も通路側か…」
駿  「どうした?」
早希 「私が酔いやすい体質だって事知ってるでしょ」
駿  「だから酔い止め飲んだじゃん」
早希 「でも、窓際と通路側じゃ気の持ちようが違うと思うの」
駿  「うん…」
早希 「うん…じゃなくてぇ〜ねぇ〜(甘撫声で)」
駿  「代わりましょうか?お席」
早希 「ありがとう!悪いわ私、席代わってなんて一言も言ってないのに」
駿  「言ったも同然だろ」
早希 「言い訳にしか聞こえません」
駿  「ああ言えばこう言う」
早希 「でも、普通窓際は彼女に譲るもんでしょ」
駿  「そうかな…」
早希 「まったく…」

啓子の携帯が鳴り、電話に出る

啓子 「もしもし…今、向かってるわ。それより大丈夫?」
早希 「私達の事、誰にも知られてないよね?」
駿  「きっと大丈夫だよ」
早希 「どうやって言って来たの?」
駿  「友達の家に泊まりに行くって」
早希 「誰でも思いつきそうなこと言って来たんだ。ホテルのバイトは?休んできたの?
駿  「うん。先輩に無理言って…早希はなんて言って来たの?」
早希 「なんにも」
駿  「なんにもって…じゃあ家出同然で来たの?」
早希 「まぁ、そんなとこかな」
駿  「親は心配しなかったの?」
早希 「親は二人揃ってスペインへ旅行中。帰ってくるの四日後だし。しかも昨日はサグラダ・ファミリアの前で落書きを消そうとしてる記念写真送ってきたし、ほらこれ。(携帯の画面を駿に見せる)」
駿  「なるほど、でも心配じゃないのかな?家に愛娘を一人残して」
早希 「さぁね、でも良いよ気楽で」
駿  「なんか羨ましいな」
早希 「皆、そう言うけどね…」
駿  「あっ、そうそう!お菓子食べる?お菓子。八時間もあるから色々買って来たんだ
早希 「何なに?」
駿  「これが…よっちゃんいか、それからヨ―グル…グッピーラムネ」
早希 「また微妙なのばっか…チョコとか無いの?」
駿  「五円チョコならあるよ。二つで十円だった」

啓子、電話で話す

啓子 「分かったわ、いいのよ迎えなんて。うん。何かあったらすぐ連絡して頂戴。それじゃあね」
  
鈴原が電話しながら乗り込んでくる。啓子、電話を切る。早希達に向かって

駿  「麩菓子食べる?麩菓子、早希、早希!中野の都昆布は?酢昆布、酢昆布」
啓子 「すいません、電話しちゃって」
早希 「いえ…(鈴原の存在に気が付いているので目線を下に落としたまま)」
駿  「早希、大丈夫?」
早希 「ちょっと早希って言わないで」
駿  「何で?だって早希だろ…(混乱・錯乱)」

鈴原、電話をしている

鈴原 「明日の朝一で新宿に着くから。うん、迎え?でも仕事でしょ。無理しなくても、分かった。もう、バス乗っちゃったから切るね。じゃあね」
  
電話を切る鈴原。早希と目が合ってしまう

駿  「あたりだ!あたり!もう一個貰える!」
鈴原 「あっ…あぁ」
早希 「(軽く頭を下げる)」
駿  「誰?」
鈴原 「…久しぶり!ごめんね部活遊びに行けなくて」
早希 「あっ…いえいえ!いつでもお待ちしてますよ」

苦笑いする二人。駿も遅れて笑うが既に笑いは止む。一人取り残される駿

早希 「こちら鈴原美菜子先輩」
鈴原 「どうも。彼氏さん?」
早希 「まぁ…」
鈴原 「なるほど」
早希 「私が入部した時に三年生で部長を」
駿  「お話はかねがね」
早希 「今は東京で大学生を」
鈴原 「君達もあれ…お小遣い節約で夜行バス使ってるの?私もそうなの」
早希 「えぇ、そうです…ね?」
駿  「そんな所です」
鈴原 「私も親から新幹線代貰ったんだけどね、差額はお小遣いにね…」
早希 「はぁ…」
鈴原 「私の席はあそこか…」
早希 「先輩、この事はくれぐれも内密に…」
鈴原 「分かってるって!私の事は気にしなくていいからね」
早希 「先輩…」
鈴原 「青春しておいでよ」

鈴原、自分の席に着く。その後ろ姿を見ながら

駿  「格好良い人だな…」
早希 「悟り開いてそうだよね」

駿、鈴原の方を見る

駿  「気にするなって言ったけど絶対あれ気にしちゃうだろ」
早希 「気を遣ってくれてるの」
駿  「でも…」

鈴原、双眼鏡で二人を観察している。早希、思わず立ち上がり鈴原の所へ行く。駿も立って様子を見ている

早希 「(顔を双眼鏡ギリギリまで近づける)先輩、何やってるんですか?」
鈴原 「バードウォッチング」
早希 「バスの中で」
鈴原 「(頷く)」
早希 「没収です」
鈴原 「ごめんごめん」
早希 「心配です…色んな意味で」
鈴原 「本当にごめん…」
早希 「くれぐれも内密にお願いしますよ」
鈴原 「大丈夫」

早希、席へ戻る。駿がまた窓際に座ろうとするのを阻止しようと必死になる。だが、また窓際を駿に取られてしまう
駿  「何でそんな急いでたの?」
早希 「しらじらしっ!」
駿  「ちょっと貸して(早希から双眼鏡を取って窓の外を眺める)」

早希、鈴原を見る。鈴原が虫眼鏡を出そうとしている所を目撃する。一瞬、目が合い鈴原は虫眼鏡を何気なくしまう。啓子、また電話に出る

啓子 「もしもし、何?だから良いのよ、迎えなんて。そう?明日の朝の7時に新宿駅。えっ?そうね…ちょっと待って(啓子、一つ前の席の鈴原に声をかける)あの…到着するのは新宿駅の東口でしたっけ?西口でしたっけ?」
鈴原 「確か西口かな…早希ちゃん!バスが着くのって西口だよね?」
早希 「えっ!?」
駿  「西口です」
鈴原 「だそうです」
啓子 「ありがとうございます!」

ガべ子、後部座席付近で電話。駿に詰め寄る早希。バスが停車する

早希 「どういう事?」
駿  「言ってなかったっけ」
早希 「ディズニーランドまで直行なんじゃないの?」
駿  「その予定だったよ」
早希 「何、その予定だったって」
駿  「いや、最初は直行の夜行バス乗ろうと思ってたんだけど思いの他チケット取れなくて…それで…」
早希 「それで」
駿  「それで、バイト先の先輩に言ったら俺、チケット持ってるからタダで譲ってやるよって言われて…ディズ二―の直行じゃなかったけど…新宿から電車に乗り換えていけばいいか…って………ダメ?」
早希 「ダメって何?ダメって!ダメに決まってるじゃん!」
駿  「何で?そんなに直行バスが良かったの?」
早希 「違う!私が言いたいのは!」
駿  「でも、電車で行っても時間的に変わらないよ」
早希 「時間の事をどうこう言ってるんじゃないの!何で嘘ついてたのかってことを言ってるの」
駿  「言おう言おうと思ってたんだけど、タイミング無くなっちゃって…」
早希 「タイミングって…このまま東京まで行っちゃう所だったじゃん!」
駿  「着いてから言おうと…」
早希 「着いてからじゃ遅い!反省!」
駿  「はい…」

早希、おもむろに立ちあがる

早希 「許してあげるから、席代わって」
駿  「ごめん…」

駿、無言で立ちあがり席を譲る。姫花こと田中花子が乗り込み、運転手の元へ向かう

姫花 「運転手さ〜ん」
啓子 「さっきはすいません」
鈴原 「えっ?」
啓子 「電話しちゃいまして」
鈴原 「いえ、全然気にしてないから大丈夫ですよ」
啓子 「そう、それなら良かったわ。学生さん?」
鈴原 「大学生です…」
啓子 「大学生も大変でしょ」
鈴原 「えぇ…まぁ…色々と」
啓子 「お名前は?」
鈴原 「鈴原です」
啓子 「私は長宗我部啓子。ちょうそ「かべ」じゃなくて「がべ」ね!「がべ」!」
鈴原 「なんか、凄い名字ですね…」
啓子 「ガべ子って呼んでください」
鈴原 「ガべ子?」
啓子 「長宗我部のガべに啓子の子をひっ付けてガべ子。昔からこのあだ名」
鈴原 「二度と忘れられない名前ですね」
啓子 「困った事があったら何でも言いなさい!オバサンが相談に乗ってあげるから
鈴原 「じゃあ、週明けにレポートを提出しなくちゃいけないんですけど…」
啓子 「なになに?」
鈴原 「太陽のフレア活動を量子物理学的観点から見た時の人体の脳波異常を統計的に推算し…」
啓子 「アメちゃん舐める?アメちゃん?」

姫花、運転手との会話の中で手帳を落とす。駿、それを拾い渡す間合いを計っている

駿  「(照れながら)落としましたよ」
姫花 「(平静を装いながらも色気たっぷりに)どうも……」

駿、姫花に手帳を渡し終え、窓の外に目を向け、腕時計を見る

早希 「ああいう女の人とかに憧れちゃったりするんだ」
駿  「違うよ…」
早希 「気持ち悪がられてたねぇ」

啓子、車内の電光掲示板を見やる

啓子 「豊橋市の中西宝飾で強盗事件ですって!千五百万円相当が盗難。犯人は中国人と見られ、現在も逃走中ですって。中西宝飾ってあそこでしょ。中学校の裏の」
鈴原 「そういえばいつにもまして警察が街中をうろうろしてましたね」

発車寸前のバスに亀田和之(以後、父と表記)が駆けこんで来る

父  「いや〜間に合った間に合った!」

早希、顔を窓際に向ける。困惑の表情。父の方を五度見する
父、早希を瞬間的に一瞥。バスが出発する。早希、父、姫花、一瞬ストップモーション

姫花 「あ〜!亀ちゃん!」
父  「えっと…」
姫花 「姫花だよ、姫花!」
父  「何だよ…何で居るんだよ」
姫花 「東京へ行こうとしてるに決まってるでしょ」
父  「何でまたわざわざバスなんか」
姫花 「夜の蝶も切り詰めて生活していかなきゃいけないの。最近は全然儲からないの…ってことでまたお店来てね」
父  「自分の金で行ったことなんて一回もないよ。全部上司のおごり」
姫花 「でも、いいじゃん」
父  「お断りするよ」
姫花 「じゃあ、古橋さんに言っといてよ。ドンペリあけて待ってますって」
父  「あぁ、言っとく言っとく」
姫花 「あの人、出世したんでしょ!今じゃ副支配人だもんね」
父  「あっ…あぁ…」
姫花 「そういえば松岡さんも最近来ないわね。まぁ来ても安いのしか飲まないからいいんだけど、それに比べて天野さんは……………」

姫花と父、会話が続く

駿  「大丈夫?」
早希 「大丈夫…かな…」
駿  「本当に?」
早希 「そっとしといて」
駿  「何で?」

早希、一切無視。父の方に視線をやり、鈴原の元に駆けだす。その際駿を踏みつける
父、大きく咳払いし、駿に助けを求める。駿、姫花と父との会話に無理やり入ろうとする

早希 「ちょっとどいて」
駿  「ぐはっ!…」

駿、呻く。早希、鈴原の元へ向かう

早希 「先輩、助けて下さい…」
鈴原 「どうした?」
早希 「切羽詰まってるんです」
鈴原 「まさか、彼氏君に襲われそうになった?」
啓子 「何ですって!私に任せときなさい!」
早希 「ちょっと…!」

啓子、駿の元に微笑みながら寄り、往復ビンタ

啓子 「女の子に手を挙げるなんざ言語道断!この長宗我部啓子、またの名をガべ子が許しはしない!次、やったらこの程度じゃすまねぇよ、覚悟しときな!」

啓子、意気揚々と戻ってくる

啓子 「これで良しと…申し遅れました私、長宗我部啓子と申します」
早希 「さっき大声で名乗ってましたから全然申し遅れてないですけど」
啓子 「気軽にガべ子と呼んでください」
早希 「ガべ子さん、大変言い辛いんですけど、彼は何も関係ないんです…」
啓子 「ダメよ、男の圧力に屈しちゃ!暴力を振るう男は悪よ!」
早希 「本当に違うんです。むしろ私の方が腕相撲強いくらいなんで」
啓子 「本当に違うの?」
早希 「えぇ、彼は何も分からずに5回のビンタをされたことになりますね」
啓子 「私、なんて事を!謝らなくちゃだわ」
早希 「良いです、丁度うさ晴らしになったんで」

早希、身を隠す

鈴原 「何、こそこそしてんの?」
早希 「あの…お父さん…」
啓子 「あぁ!お父さん」
鈴原 「どういうこと?」
早希 「えぇ…そうだよな…違う?どう思います?」
鈴原 「私に聞かれても」
早希 「そう…きっとそう…あっ〜!」
鈴原 「あのオジサンがお父さんなの?」
早希 「(うんうんと頷く)」
啓子 「でも何でお父さんの顔をわざわざ確かめる必要があるのよ」
鈴原 「そうでしょ、分かるでしょ。あっ……そうか…早希ちゃん」
早希 「(うんと頷く)」
鈴原 「忘れっぽいもんね」
早希 「そうじゃなくて」
鈴原 「冗談だって。そうだよね、早希ちゃんのお母さんって再婚してるんだっけ?」
早希 「はい…」
鈴原 「でも、それでもお父さんの顔忘れるわけ…」
啓子 「まさか…」

顔を見合わせる鈴原とガべ子

啓子 「多分、今、あなたと私が思ってる事は一緒だと思うわ…」

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