クソババアの汚部屋

(くそばばあのおへや)
初演日:2019/7 作者:聖霊高校演劇部
聖霊高校演劇部作
「クソババアの汚部屋」

登場人物
幸子   年齢のわからない容貌。黒い服を着て髪の毛をたらし、部屋の隅にいる。和美が幼い頃夫と離婚し、舞台となる部屋に住んでいた。和美が18歳で家を出てからは一人暮らしで、75歳ほどで孤独死した。残留思念のようなもの。
和美1   幸子の娘。40歳ほど。
和美2   和美の高校生時代。黒っぽい私服。回想シーンで登場する。
和美3   和美の中学生時代。黒っぽい制服。回想シーンで登場する。
和美4   和美の小学生時代。黒っぽい私服。回想シーンで登場する。
※和美2と3はキャスト数の都合により兼役可能。
結衣   和美の娘。高2。片づけのため嫌々連れて来られる。
加藤   幸子のご近所さん。和美とも面識がある。
野村   舞台となる部屋があるアパートの管理会社社員。気の弱い若い女性。
橋本   特殊清掃業者。男性。

舞台配置
舞台上手側3分の1ほどがアパートの廊下。部屋に入るドアがある。
舞台下手側3分の2ほどが居間。廊下で玄関とつながる。いわゆるゴミ屋敷の状態で部屋の中はゴミや日用品、衣類が散乱している。下手側壁際に電話台があり、下の段には鞄が置いてある。中央に押し入れ、下手側に窓があってカーテンが閉められている。下手側壁際に鍵のかかるタンスが置かれている。部屋の中央にはテーブルがある。


あらすじ
 20年以上疎遠だった母親幸子が孤独死したことを不動産屋から電話で知らされた和美は、娘結衣を連れて嫌々部屋の片づけに向かう。ところが部屋は完全なゴミ屋敷。散乱するゴミを片付けると、その奥から母との思い出が掘り出される。
 年間孤独死3万人、孤立状態1千万人、自殺2万人。今この時もどこかで誰かが床のシミになって人生を終えている。そんな国の片隅で展開される、不器用な一家の許しの物語。



OP 電話
    無音で緞帳が上がる。舞台手前下手側単サスの中に野村。電話をかける仕草。
    電話の音が鳴り、上手側単サスがついて、和美1が電話をとる。

和美1   もしもし?
野村   あ、はじめまして。私、安井不動産の野村と申します。
和美1   はあ?
野村   あの〜、田中幸子さんのお知り合いの方でしょうか?
和美1   ええまあ、そうですが。
野村   失礼ですが、どのようなご関係でいらっしゃいますか?
和美1   田中幸子は私の母親です。一応。
野村   あ、やっぱりそうでしたか。突然電話してしまい申し訳ありませんでした。実はお母様のことでお話がありまして。
和美1   母とはもう20年以上前に縁を切ってますので。申し訳ありませんけど他をあたってください。

    和美電話を切ろうとする。

野村   え?あ、ちょっと田中さん!もしもし!?もしもし!?
和美1   まだ何か?
野村   いや、実は連絡取れるご家族がこちらだけだったんです。
和美1   私も、何もできませんよ。何があったか知りませんけど、今更泣きついてくるなって言ってやってください。じゃあ。

    和美電話を切ろうとする。

野村   あ、ちょっと、もしもし!もしもし!あのですね、お亡くなりになったんです。
和美1   え?
野村   ですから、お母様、田中幸子さんがお亡くなりになったんです。
和美1   (少し間を置いて)いつですか?
野村   アパートの部屋で亡くなっているところを先週近所の方が発見されまして。ご遺体の方はもう警察が持って行って、市の方で火葬まではしてあるそうなんですが、ご家族の方の連絡先がわからなかったものですから。今日部屋の確認に入った大家さんがこの番号の書かれたメモを見つけられまして。もしかするとご家族 の番号かなということで、電話させていただきました。
和美1   そうですか。わざわざどうも。じゃ、失礼します。

    和美電話を切ろうとする。

野村   え!?ちょっと!まだあるんです!
和美1   まだ何か?
野村   部屋にのこされているご遺品のことなんですが・・・。
和美1   ああ。捨てといてください。
野村   え!?いや、そうおっしゃいますけど、大事な思い出の品などもおありかと思うので・・・。
和美1   ありませんから。ご心配なく。じゃ。

    和美電話を切ろうとする。

野村   ちょっと!待ってください!それじゃ困るんです!ご遺産の処理も当方ではできませんし!

    和美電話を切る仕草をやめて再び耳につける。

野村   あれ?もしもし。田中さん?
和美1   遺産?
野村   え、あ、はい。いや、もしご遺産があるようですと、そちらの相続手続きをしていただく必要がありまして、とにかく、一度部屋を確認しに来ていただきたいんですね。通帳なども、我々では探せませんので。
和美1   遺産って、たくさんありそうなんですか?
野村   それはわかりませんけど・・・意外と沢山ため込んでいるお年寄りの方とかたまにいらっしゃいますので。
和美1   わかりました。
野村   はい。あの、なるべく早く部屋をあけるよう上からは言われていますので。できれば今度の土日にでも来ていただけると助かります。その辺でこちらが依頼した清    掃業者も入りますので。
和美1   わかりました。では土曜に伺います。

    和美1電話を切る。野村溜息をつく。単サス消え短い暗転。

1場   アパートの廊下で
上手側の照明がつくと、アパートの廊下。「清掃中」という看板が立っている。野村が不安そうな表情で扉の前に立っている。突然扉が開き、防護服に身を包み防臭マスクとゴーグルをした橋本がゴミ袋を持って出てくる。

野村   キャア!
橋本   うわ!

    橋本マスクとゴーグルを取る。

橋本   あ〜、びっくりした。安井不動産の人?
野村   は、はい。すみませんでした。いきなりドアが開いたもので・・・。ニコニコ特殊清掃サービスの方ですか?
橋本   はいはい。こちらこそすみませんでした。幽霊かと思ったでしょ。事故物件にはいっぱいいますもんね。
野村   え・・・。
橋本   いやいや、冗談ですよ。しかしお姉さんも大変ですね。若いのにこんな現場来させられて。
野村   上司の命令ですので・・・。
橋本   いやあ、でもあなたラッキーですよ。今回のは全然大丈夫ですから。やっぱり発見が早かったおかげですね。翌日でしたっけ?
野村   はい。隣の部屋の方から、毎朝聞こえるラジオ体操が今日は聞こえてこないって大家さんに申し出があって。
橋本   壁がペラペラのぼろアパートにもいいところありますね。腐る前に見つかったおかげで臭いもゼロですよ。確か、今日ご遺族が来るんでしたよね。やることなかったから、とりあえず生ごみとか食べ物の容器とかだけ袋に入れて玄関に置いておきましたから。
野村   ありがとうございます。
橋本   さてと、今日この後別の現場なんで、ここで飯食っていいですかね。
野村   はい・・・。
橋本   いやー、働くと腹減るなあ。

    橋本おにぎりを鞄から出し食べ始める。

橋本   あ、食べます?まちがって二つ買っちゃって。
野村   え・・・ど、どうも。

    野村おにぎりを受け取る。

野村   今の時期ってお忙しいんですか?
橋本   いやー、もう大変ですよ。毎日毎日、お年寄りの孤独死の後始末ばっかりで。真夏や真冬になるともっと増えますからね。こっちとしては、仕事がたくさんあってありがたいんですけど。でも特殊清掃の会社が大忙しなようじゃあ、世も末ですよね。あんな死に方する人がいっぱいいるんじゃ。
野村   あんな死に方?
橋本   まあ、大抵家の中にいろんなゴミやら家具やら服やらが散らかってて、閉め切ってて空気も悪いしね。セルフネグレクトっていうんですかね。ゴミの中に埋まって死んでるんですよ。ほとんど家族もいないか見捨てられてるかだし。いやー、そんな風には死にたくないですよね。
野村   そうですね。
橋本   でもね、ここみたいに死んですぐ見つかるのは本当にラッキーなんですよ。大抵は何週間か経って、近所から臭いって通報が入って見つかるんですけど。そういう現場は本当に悲惨ですから。
野村   はあ・・・。
橋本   とりあえず、ドロドロに腐ってるでしょ。遺体は警察が持って行ってくれるんですけど、それでも死んでた場所は一目でわかりますから。床の上に人間の形の黒いシミがあるんで。このマスクしてても臭いますからね。そこに蝿がたかって、ブンブンうるさいんですよ。あ、このおにぎり美味しいなあ。この白ごまたっぷりおにぎり、新発売だったんですよ。
野村   ・・・よくそんな話しながらごはん食べられますね。
橋本   そっすか?ま、慣れってやつですかね。私も最初の頃は毎日マーライオンでしたよ。
野村   マーライオン?
橋本   ほら、シンガポールにあるライオンの像ですよ。口から水をオエ〜って吐いてるやつ。
野村   ああ。
橋本   新人の頃、現場終わって先輩とメシに行くじゃないですか。体力使う仕事だからしっかり食べろって言われるんですけどね、もう現場の様子思い出しちゃって、食べたそばからマーライオン。アハハ。でも不思議なもんで、2か月くらいしたら全然気にならなくなりました。昨日なんかみんなで焼肉行ったんですけど、さっき現場で畳からはがした肉と似てるとかいいながら食ってましてましたから。(手元のおにぎりを見て)あ、そうそう。よく死んでた場所の床にびっしりウジ虫が這ってるんですけど、このお米なんかよく似てますよ。卵もいっぱい産み付けてあって、そうそう、ちょうどこのおにぎりのゴマみたいな感じで。

    橋本が野村の方を見ると、野村は吐き気をこらえている。

野村   ウ・・・ウ・・・オエ・・・。
橋本   あ!ごめんなさい。

    橋本、エチケット袋を取り出す。

橋本   使います?

    野村、エチケット袋をひったくり袖の中に走り込む。袖で吐く声が聞こえる。

橋本   いやー、初々しいなあー。

    野村、中身の入ったエチケット袋を持って戻ってくる。

野村   失礼しました・・・。

    野村エチケット袋を何気なく橋本のかばんに入れる。

橋本   いやいや、こちらこそ。あ、実は私もね、最近やりましたから。先週行った現場なんですけど、お風呂の最中に死んじゃった人の部屋でね。

    和美1と結衣が奥から歩いてくるが、野村と橋本は気づかない。

橋本   よしゃあいいのに、お年寄りって熱いお風呂が好きでしょ。で、血圧上がってポックリ。そのまま2か月放置されてたもんだから、すっかりお風呂の中に溶けちゃってて、私たちでザル使ってご遺体の残りをすくい上げたんですから。

    和美1と結衣、橋本の話を聞いて顔を見合わせて固まる。

橋本   それで、茶色いドロッとした水の中から何か出てきたと思ったら白髪の塊ですよ。その時は我慢したんですけどね、帰りによりにもよってラーメン食べに行っちゃって。豚骨スープに浮かぶ麺を見た瞬間にフラッシュバックして、マーライ   オンですよ。アハハ。

    野村再び吐きそうになって振り返り、和美1が持っている買い物袋の中に嘔吐する。

野村   オエエエ〜。・・・フウ・・・。あ、もしかして田中さんですか!?
和美1   そ・・・そうですけど・・・。

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