プリズム☆

(ぷりずむ)
初演日:2013/1 作者:名乃勝之
『プリズム☆』
      脚本・名乃勝之(ROPEMAN)

登場人物
 PRISM☆ 愛も 夢も 希望も 照らす、プリズム。

        登場人物
         紅井(アカイ)
         桃瀬 (モモセ)さや
         蒼木(アオキ) ヨシアキ
         黄村(キムラ) マチコ
         紫水(シムラ)
         シロ

プロローグ

●河原(夕方)
小川のせせらぎが聞こえる。シロを除く全員の姿がある。
中心にいる一人のジャージ姿の男(紅井)が動き出す。かなり疲れたフォームで無心に走っている。
時折、腕時計でタイムを確認する。唐突に片膝に痛みが走り、その場に立ち止まる。
膝を手でおさえ、痛みが引いていくのを座り込んで待つ。やがて痛みが引き、楽になる。
立ち止まってしまった事に、ぶつけられない怒りを感じ、悔しがる。そのままその場に座り、一端、空を見上げる。

紅井   (独白)今でも信じられないような話だ。いつものように河原でのランニング。いつもの一日になると思っていた今日、俺は死に天国に行く。
     …正確には『天国に閉じ込められた』だが…。

         SE・犬の鳴く声「ワンワン!」
         突然、座っている紅井に(見えない)犬が吠えかかる。

紅井   何だよ、この犬? 何で、俺に吠えるんだよ?

         SE・犬の鳴く声「ウー」

紅井   あ〜、お手!

         SE・犬の鳴く声「ウー」

紅井   ヨ〜シヨシヨシヨシヨシ♪ くそ、ムツゴロウさん風にやってもダメか。

         SE・犬の鳴く声「ワンワン!」

紅井   何だよ、俺が何したって言うんだ?

         一人の老人(紫水)が動き出す。

紫水   そこはね、その犬の指定席なんだよ。君が腰かけたから怒った。早くどいてあげなさい。

         紅井、とりあえず言われるままにそこから離れる。犬はその場所に座りこみ、大人しくなる。

紅井   大人しくなった。この犬、じいさんのか?
紫水   (首を横に振る)河川敷に住んでいるノラ犬だよ。毎日、この河原に来ているから顔見知りだけどね
     何度会っても懐いてはくれんが…。
紅井   (犬の異常に気付く)この犬、前足、ケガしているみたいだな。
紫水   …車に引かれたか何かだろう…。かわいそうに。
紅井   ……。
紫水   満足に走れず、ゴミ箱をあさって食い繋いでいるようだ。不憫でね。
紅井   そう思うなら餌をやればいいだろう?
紫水   一度だけあげようとしたが…見事に噛まれたよ。
紅井   人が嫌いなんだな。
紫水   彼は自分の力で生きている。なのに私は餌を・・・彼のプライドを傷つけようとしたんだよ。
紅井   その噛まれた手、大丈夫だったのか?
紫水   シリだ。
紅井   ん?
紫水   シリたよ。お尻を噛まれたんだ。
紅井   漫画だな…。
紫水   ズボンを噛みちぎられて逃げ帰った。その夜、シリを氷水につけて眠ったから。寝冷えした。
紅井   そんな事まで話さなくていい。
紫水   年寄りの冷や水だ。
紅井   うるさいよ。
紫水   因みに、今はいているのが、その時のズボンだ。

         紫水、背を向ける。お尻の部分に丸いギザギザの縫い目が。明らかに喰いちぎられた痕。

紅井   もっとうまく縫えよ
紫水   (縫いあとをさすりながら)名誉の負傷だよ。
紅井   名誉かは知らんが・・・(時計を見る)じいさん、悪いがトレーニングの途中なんだ。
紫水   ああ。…君も足が痛むなら無理しないことだ。
紅井   ……。
紫水   毎日、来ているんでね。君が走っているのもよく見てるよ。膝を庇って、辛そうだ。
      どうして走らないといけないのかい?。
紅井   じぃさん。いい年して人間観察なんて、悪趣味だぞ。

         紅井が走り出し、去る。
         紫水、かぶっていた帽子を脱ぎ、ぼーっと空を見つめる。手から帽子が落ちる。
         それを拾おうと手を伸ばすが、すぐに帽子が見つけられず、手探りでやっと見つける。ぼやける目をこする。

紫水   (溜め息)確かに、いい年だ。(犬に目をやり)じゃあ、またな。(微笑みかける)
     (独白)私もこの年だ、いつお迎えが来ても構わないという覚悟はもっていたが、ただまさか、それが今日だったとは。(苦笑)しかも雷にうたれるなんて。
     (犬に目をやり)じゃあ、またな。(微笑みかける)

         紫水が帽子を被り直し、去る。
        二人の男女(蒼木・マチコ)がぎこちない様子で歩いて去る。
         紅井が走ってくる。しかし、膝が痛み出す。痛みに耐えながら走り続け、去る。

マチコ  (声)痛っ!

         マチコが肩を押さえながら、ヨロヨロと現れる。どうやらたった今、走っていった紅井とぶつかったようだ。

マチコ  いたたたっ…

         蒼木が心配そうにマチコに寄り添う。

蒼木   だ、大丈夫か、マチコ?
マチコ  (行ってしまった紅井に)どこ見て走ってんのよぉ! あ〜イタタタ…
蒼木   大丈夫か?(マチコの肩に触る)ここか? ここが痛いのか?(肩をグリグリ押す)
マチコ  イタタ!触らないで、よけーに痛いじゃないの!
蒼木   あ、ごめん(オロオロ)
マチコ  何なのよ、今のは!
蒼木   今の?(遠く離れていく紅井を見る)ランナーだね。
マチコ  わかってるわよ! あれがシナリオライターにでも見える?!
蒼木   シナリオライターには見えないよ、ペン持ってなかったし。
マチコ  (しばく)
蒼木   痛いよ、マチコ。
マチコ  ねえ、変じゃない? どーして今あいつは、ここにいないの?
蒼木   走っているからだよ。常に前に進んでいるから。今はいない。全然、変じゃない。
マチコ  バカ!
蒼木   怒鳴るなよ、マチコ。
マチコ  なんで走るのをやめて今ここで私に謝っていないの?って言ってんの!
蒼木  ・・・・さぁ? 理由は本人に聞いてみないと。
マチコ  もっとバカ!
蒼木   怒鳴るなって。
マチコ  だいだいどーしてあなたはあいつを追いかけてないの?私にケガさせたのよ?  普通、捕まえるでしょ?
蒼木   いや、あまりに突然だったし。
マチコ  じゃあ何、私にケガさせたあいつは『突然だったし』って事で無罪放免?
蒼木   そうじゃないけど…。
マチコ  だったら今からでも追いかけなさいよ!
蒼木   僕がランナーに追いつける訳ないじゃないか。
マチコ  どうせシナリオライターが相手でも追いつけないでしょ? 情けない!
蒼木   まあでも、たいしたケガじゃないんだし。
マチコ  体はそうでも、心の傷は大ケガよ!
蒼木   心の傷?
マチコ  仕返ししないとおさまらないわ! 5000倍返しで!
蒼木   無茶言うなよ。ぶつかるってのはフツーどちらも悪いんだから。
マチコ  何で私が悪いの? 向こうは周りに人がいるのも確認せずに走っていたのよ!
蒼木   でもマチコも、周りに人がいるのも確認せずに歩いていただろ?
マチコ  (固まる)あー、そう? あー、そう?
蒼木   怖いよ、マチコ。
マチコ  あ〜〜、そうなの〜〜? へぇ〜〜、私が悪いんだ〜〜?
蒼木   (ビビってる)どっちも悪いって言いたかっただけで、マチコだけとは…。
マチコ  あんたはカミさんよりも、赤の他人のランナーの味方するんだ〜?
蒼木   (うつむく)
マチコ  何よ?
蒼木   (チラリと見る)カ…ミ…さん?
マチコ  フン。もういいわ。だからこんな所来たくなかったのよ。シャレた所に連れて行くのかと思ったら、何よ、
     河川敷じゃない。
蒼木   緑が多いと落ち着くだろ?
マチコ  虫ばっかり飛んでるし、ジジババとか、スポ根野郎ばかり。
蒼木   たまにはこういう所も…。
マチコ  いつもは良い場所に連れていってたような言い方ね。そんな記憶ないんだけど?
蒼木   ごめん。
マチコ  期待した私がバカだった。あ〜あ…(ボソっと)仕事しときゃよかった。
蒼木   仕事は順調? うまくやれてる?
マチコ  ちゃんとやれてます。
蒼木   (話題を探す)…食事とか、しっかりとってるの?
マチコ  どーでもいいでしょ、そんな事。
蒼木   どうせ外食ばっかりなんだろ?
マチコ  たまには自分で作ってるわよ。
蒼木   外食だけだと栄養が…
マチコ  耳ないの? ちゃんと作ってるって言ってるでしょ?
蒼木   ……。
マチコ  もう、そんな話のために来たんじゃないじゃない?
蒼木   ごめん。
マチコ  そのすぐ謝る癖、いい加減に直しなさいよ。
蒼木   ごめん! あっ!(口を押さえる)
マチコ  (怒)
蒼木   (ブルブル震えながら首を振る)
マチコ  人の話聞けないんだったら、耳とったら?(タバコを取り出す)

         それに気付き、マチコが火をつけようとした手を無意識につかむ蒼木。

マチコ  何よ。
蒼木   あっ(手を放す)
マチコ  ……。
蒼木   まだやめてないんだ。
マチコ  や、やめる方向で吸ってるの!
蒼木   ……。
マチコ  帰る。(歩き出す)
蒼木   えっ! ちょっと、マチコ!

         その時、紅井が戻って来て、また走り抜けて行く。蒼木とマチコ、思わず固まる。

マチコ  (うつむく)ねぇ。
蒼木   何?
マチコ  今のって、さっきのランナーよね?
蒼木   だね。
マチコ  何で?
蒼木   『何で』?(考える)たぶん、折り返して来たんだと思う。
マチコ  そんな事聞いてない! なんであんたは、また追いかけてないのって言ってんの!
蒼木   え? 追いかけるの?
マチコ  当たり前でしょ! 行くわよ!
蒼木   ちょっと!

         マチコ・蒼木が立ち止まる。

マチコ  (独白)ああ、思い返しても腹が立つ! やっぱり納得できないわ!
蒼木   (独白)これは神様のイタズラだったんだ。仕方ないよ。
マチコ  (独白)悔しい。
蒼木   (独白)何が悔しい?
マチコ  (独白)この後、自分が死ぬなんて、思いもせず怒りまくってた自分が悔しい!

         マチコ。蒼木が動き出す。

マチコ  5000倍返しよぉ!
蒼木   マチコぉ!

         マチコ・蒼木、紅井を追いかけて去る。
         一人の女性(さや)が立ち上がる。そしてぐっと息を飲み、自信なさげに歌おうとする。

さや   あー……あー……ゴホッ!(咳込む)
さや   (独白)私は、この河原に来る。ここに来ると落ち着ける。誰もいない河原で、大好きな歌を…歌を…。

         それ以上自分の声を聞きたくないのか、黙ってしまう。ふと傍で、犬がこっちを見ているのに気付き、近づく。

さや   犬だ。(手を出す)おいで。

         しかし、犬は戸惑い、ピクリとも動かない。そこに紅井が現れる。走り疲れている。

さや   お腹減ってるでしょ? コレあげる、クッキー。食べれる?

         さや、クッキーを取り出し犬にあげようとする。それに紅井が気付く。

紅井   あ、おい!
さや   (紅井に気付く)はい?
紅井   その犬、餌をやろうとすると噛まれるぞ。
さや   このワンちゃん、噛むんですか?
紅井   しかもシリを。
さや   え?
紅井   シリ。お尻を。
さや   お尻…限定ですか?
紅井   いや、それは知らんが。
さや   あの、飼い主さんですか?
紅井   違う(きっぱり)
さや   じゃあ何で?
紅井   さっき被害者から聞いたんだ。
さや   被害者?(犬を見る)そんなことしそうなワンちゃんには見えないですけど。
紅井   だが、あるじーさんが噛まれ、辛い夜を過ごしたらしい。
さや   そのおじいさん、大丈夫だったんですか?
紅井   噛まれた所は凄い事になってたよ。
さや   ええっ!(口を押さえる)ひどかったんですか?
紅井   かなり縫われていた。
さや   何針も縫う傷!? 大ケガだったんだ!
紅井   本人は名誉の負傷だと言ってたけどな。
さや   そうでも言わないと、やりきれなかったんだ…。かわいそうに…。
紅井   何か勘違いしてる?
さや   かわいそうなおじいさん。できることなら励ましの言葉をかけてあげたい。

        そこに紫水がやってくる。

紫水   ああ、君、また会ったね。
紅井   (紫水を指差して)いたぞ、励ますのか?。
さや   この人が、そのおじいさん!?(口を押さえる)
紫水   ん?
さや   (紫水の手を握る)おじいさん、どんなに辛くても頑張ってくださいね!
紫水   ありがとう! 何がだろうか?
さや   くじけそうになっても、決して心を閉ざさないで下さい! 自分を責めたりしないで下さい!
紫水   (紅井に)私、何かしたのかな?
さや   くじけそうになったら…音楽、そう音楽を聴いて下さい。音楽は心を洗う水。
紫水   君の知り合いかい?
紅井   いいや。
さや   もう傷口は大丈夫なんですか?
紫水   傷口?
紅井   犬に噛まれた所。
紫水   ああ。家内に縫って貰ったんだが、だいぶ縫いにくかったようで…。
さや   えっ? 奥さんが傷口を? どうして病院に行かなかったんですか?
紫水   いや、病院では縫ってくれないだろう?
さや   えっ?
紫水   はっ?
さや   えっ?
紫水   ほっ?
マチコ  (声)見つけたわよ!

         マチコ、滑り込み現れる。

マチコ  やぁっとぉ〜追いついたぁ〜!
蒼木   マチコ、落ち着いて。
紅井   なんだ、あんたら?
マチコ  しらばっくれるんじゃないわよ。ここで会ったが百年目!
蒼木   (腕時計を見て)7分前だよ。
マチコ  バカ!
紫水   (紅井に)君は知り合いが多いね。
紅井   いや、こんなオバさん知らないって。
マチコ  『オバさん』? 『オバさん』っ!?
蒼木   (紅井に)すみません、今のすぐ取り消して下さい!
マチコ  いい度胸じゃないの!ケガさせられたあげく、侮辱!?
紅井   ケガ?
紫水   まぁまぁ、どこのオバさんか知らんが、少し落ち着いて。
マチコ  (固まる)!?
蒼木   (紫水に)すみません、今のもすぐに取り消して下さい!
マチコ  なんでジジイにまで『オバさん』呼ばわりされなきゃならないのよぉぉ!

         マチコが紫水につかみかかろうとするが、蒼木が押さえる。さやが慌てて、マチコと紫水の間に入る。

さや   お年寄りに乱暴しないで下さい!
マチコ  あんた誰よっ!邪魔しないで!
さや   この人はケガ人なんです!
マチコ  ピンピンしてるじゃない!
さや   お尻は大ケガなんです! ほら!

         紫水、背中を向け、お尻が見えるようにする。全員で紫水のお尻の縫い目に注目する。

さや   何コレ!!!
マチコ  こっちの台詞よ!?
紫水  (縫いあとをさすりながら)名誉の負傷だ。
マチコ  もう! 関係ない奴は出てこないで! とにかく標的はお前よ!(紅井を指差す)
紅井   (自分を指差し)標的!?
マチコ  (蒼木に)あなた!
蒼木   は、はい!(紅井の後ろに回り、動けないように捕まえる)すみません。
紅井   えっ?
蒼木   5000倍返しなんで頑張ってください。
紅井   はっ? 5000倍?
蒼木   さっきあなた、マチコにぶつかったんです。そのダメージが1ポイントだとすると、5000ポイント。
紅井   何だよ、それ!

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh
E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。


ホーム