王将伝
○プロローグ 南禅寺の決戦

舞台奥に座敷がある
六十六歳の三吉と木村が対峙している
手前に明りが入り新蔵が入る。

新蔵「え〜私、坂田三吉の長屋仲間の新蔵と申します。これから皆さんにご覧いただく”王将伝”、実際の坂田三吉を描いておりますので、北條秀司先生が書かれた坂田三吉の物語”王将”と少し違っております。特に、有名な女房の小春、本名はコユウと申しますが、本日の演目では本名のコユウで演じさせていただきます。その他、皆さんが映画や舞台でご覧になったものと少々違っておるかもしれませんが、これが、大阪が生んだ将棋の天才坂田三吉でございます。」

下手より若き日の三吉が入る。

三吉「お!新やんやないけ」
新蔵「三やん!・・・あ、これが三十六歳の坂田三吉でございます」
三吉「新やん、こんなとこで何してるんや。」
新蔵「三やんこそ、まだちょっと出てくるのが早いで。」
三吉「あ、そうか・・・」

三吉背後の座敷を見る。

三吉「あちらさんはどなたはんだす?」
新蔵「何言うてるんや、あれは三やんやがな。」
三吉「三やんて、天王寺の三やんはここにいてるがな。」
新蔵「違うがな、あれは六十六歳の三やんやがな。そやさかいにまだ出てくるのが早いんや。」
三吉「あ、そうか。ほな後でな。」

三吉は座敷を見ながら下手にハケル。

新蔵「・・・では始まり始まり・・・時は昭和十二年、ここは京都南禅寺でございます。坂田三吉八段六十六歳。対する木村義雄八段三十一歳。世にいう南禅寺の決戦の場でございます。」

明りが舞台奥に移る。
昭和十二年京都南禅寺 朝
南禅寺の鐘の音が聞こえる。
坂田三吉(六十六歳髪が白い)と木村義雄(三十一歳)が舞台中央で将棋盤に向かい合っている。
将棋を並べ終る。

新蔵の声「先手木村八段、後手坂田八段。」

新蔵は紹介し、そのまま上手隅へ移り、じっと様子をうかがう。
木村が一手目をさす。
盤上をじっと見つめる三吉。
やがて意を決したように、手を動かし9四歩をうつ。
会場のざわめき。
木村の驚く表情

会場の声「9四歩?」
三吉の声「木村はん、どうしますか?」

木村、三吉の対局がしばらく続く。

新蔵「とまぁ、9四歩という有名な坂田三吉端歩突きで始まる南禅寺の決戦ですが、このお話はまた別の機会といたしまして、時は三十年ほどさかのぼりまして明治三十九年大阪天王寺。」

暗転

○第一景 和光寺関根七段との出会い

明転
明治三十九年夏・大阪天王寺
舞台中央に畳の座敷の間がある。座敷の下手寄りに受付台、半紙と硯。座敷中央上手よりに将棋盤
背景無
チンドン屋の音、セミの声
上手よりチンドン屋のチラシを撒きながらコユウと娘の玉江が入る。
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