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タイミングはしっかり待って。

『タイミングはしっかり待って。』

登場人物

芦野蒼佑(アシノソウスケ)　　探偵
平塚夏(ヒラツカナツ)　　　　芦野の助手
佐々木義明(ササキヨシアキ)　警察官
石原友里子(イシハラユリコ)　女将
水嶋美夜(ミズシマミヨ)　　　アイドル
箕村宏樹(ミノムラヒロキ)　　水嶋の恋人

　　　ラジオの音。
　　　水嶋の叫び声。

　　　明転。
　　　山奥の小さな旅館のロビー。受付用のカウンターと、ちょっとしたソファとテーブルか何か。上下どちらかの奥にKeep Outの黄色いテープ。
　　　石原、平塚がソファに座っていて、芦野はメモ帳とペンを持ってその周りをうろうろしている。

芦野　　「では、あなたは21時ごろにガイシャがあちらから来て、客室の方へ歩いていくのを見た、と。」
石原　　「ええ。髪が濡れていたし、タオルや服を抱えていらっしゃったので、きっとお風呂からお部屋へ戻られるところだったんだと思います。」
芦野　　「時間にも間違いはありませんか。」
石原　　「はい。ちょうど、ラジオの番組が切り替わる時間だったので。」
芦野　　「なるほどなるほど。叫び声が聞こえたのが21時40分ごろ……。つまり、分かるね、夏くん。」
平塚　　「犯行があったのは、21時から21時40分の40分間の間、ということですね。」
芦野　　「ああ、そういうことだ。」
平塚　　「被害者の男性は一人でいらっしゃっていたんですか？」
石原　　「いえ、若い女性と一緒でした。第一発見者はその女性です。」
芦野　　「ほう。(メモを取りながら)第一発見者、同室の…。」
平塚　　「恋人、といったところでしょうか。」
芦野　　「で、その女性は？」
石原　　「今は大浴場の隣の休憩室で休んでいらっしゃいます。」
芦野　　「はあ。」
平塚　　「まあ、ショックも大きいでしょうからね。」
芦野　　「その女性について、お聞きしてもいいですか。」
石原　　「ええ。あ、でも、ご予約やお手続きは佐々木さんがされたので、女性の方の名
前や年齢は分からなくて……」
芦野　　「大体いくつくらい、とかも？」
石原　　「20代くらいだと思うんですけど。チェックインの時は大きなサングラスとマス
クをつけていらっしゃいましたし……」
芦野　　「ほう。」
石原　　「お食事をお運びした時もそっぽを向いていらっしゃって、お風呂の前後もマスクを……」
芦野　　「まるで顔を隠すような……それは怪しい……怪しいですな……。」
平塚　　「芦野さん、まじめにやってください。殺害事件の捜査をしてるんですよ。」
芦野　　「分かってるよ。それともなんだ、僕が初めての殺害事件でテンションが上がっているとでも？」
平塚　　「今、自白しましたよね。」
石原　　「あの……」
芦野　　「ええ、ええ。大丈夫ですよ。この事件は、必ずや、この芦野が解決いたしますから。」

　　　佐々木、Keep Outのテープをくぐって逃げるように出てくる。息を止めていた様子。

佐々木　「ぷはー。」
芦野　　「ああ、刑事さん。」
佐々木　「おえー。」
芦野　　「刑事さん……？」
佐々木　「何で僕がこんなこと……」
芦野　　「刑事さーん！」
佐々木　「うわあっ！な、なんですか！もしかして犯人?」
芦野　　「なんですかじゃないですよ。犯人が自分から刑事に話しかけるわけないでしょう。」
佐々木　「あ、そっか。びっくりした。」

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