反対尋問

『反対尋問』

登場人物 
黒岩リュウジ 被告人 中年男性
検事     若い女
弁護人    若い男
清水サオリ  弁護側の証人
小峰ソウイチ 検察側の証人
滝本ユリエ  被害者の母親
裁判長    声のみ。ただし他の登場人物は裁判長が目の前にいるかのように芝居をすること。
拘置所職員  男性 制服
裁判員    観客

開幕

客席に対して立つように、舞台中央に証言台が置かれている。下手に弁護人が座り、さらに下手に黒岩が手錠をかけられて座っている。黒岩の隣に制服職員が座り、上手に検事が座っている。
裁判長「起立!」
   弁護人、検事、被告、職員が起立する。
アナウンス「裁判員のみなさんもご起立下さい」
職員 「(客席に)みなさんのことですよ…。ほら、立って、立って!」
   観客、立つ。
裁判長「(観客が立つのを見計らって)きをつけ! 礼!」
   全員で礼。
裁判長「着席」
   全員着席
裁判長「では、起訴状を朗読して下さい」
検事 「(起立して)被告は平成27年12月4日、午後7時ごろ自宅近くのホームショップで包丁と雨合羽を購入した。被告のかつての教え子が偶然アルバイトとして当店で働いており、被告に間違いないと証言している。午後9時32分ごろ、雨合羽を着て、D県まさなみ市にあるアパートの、被害者の部屋に窓から侵入。これにも目撃証言がある。用意した包丁で滝本ユウ19歳、森野メグミ18歳、福原ジロウ19歳の三人を次々に刺殺した。被告は被害者たちが殺人、殺人幇助の容疑がかけられたにもかかわらず、少年であったために服役しなかったことに不満を抱いていた。本件の被害者の足取りを執拗に追跡しているウェブサイトが存在しており、被告がそのページを検索、閲覧していたこと、サイトに『罰を与えなければならない。こんな奴らは生きている資格がない』『目の前にいたらぶっ殺してやる』などといったことを下品な言葉で書き込んでいたことが自宅から押収されたパソコンから確認されている。被告は犯行後自宅にもどる途中、まさな川に脱いだ合羽と包丁を投げ捨てた。これも警察の捜索によって発見されている。被告の自宅からは買ったはずの雨合羽も包丁も発見されていない。以上の事実に対して殺人罪を以て起訴するものである。…以上です」
裁判長「被告は姓名と年齢、職業を言いなさい」
黒岩 「黒岩リュウジ。48歳。教師です」
裁判長「起訴事実を認めますか」
黒岩 「自分は人も殺していなければ、包丁も合羽も買っていません」
裁判長「では、検察側の証人、証言をお願いします」
   小峰、上手側から登場。証言台に立つ。
裁判長「姓名と年齢、職業を言って下さい」
小峰 「小峰ソウイチ。16歳。高校生です」
検事 「被告はあなたの小学校時代の担任ですね」
小峰 「はい」
検事 「あなたは被告の顔をご存じですね」
小峰 「はい」
検事 「あなたは12月4日、『ホームセンター・イマイ』で被告に会いましたか」
小峰 「会ったというか…、接客をしました」
検事 「被告は何を購入しましたか」
小峰 「1050円の刺身包丁と、735円の雨合羽です」
検事 「何時くらいのことですか?」
小峰 「7時少し前です」
検事 「あなたの家は、被害者のアパートの筋向かいですね」
小峰 「はい」
検事 「あなたは、被害者のアパートから窓から侵入していく被告の姿を見ましたか?」
小峰 「はい」
検事 「それは何時くらいのことですか?」
小峰 「9時32分ごろです」
検事 「ありがとうございました」
裁判長「弁護側、反対尋問をどうぞ」
   検事が舞台を歩き回るのに対し、弁護人はほとんど席の前に立って話す。
弁護人「会ったというより接客をしたということですが、言葉は交わさなかったのですか
   」
小峰 「はい」
弁護人「なぜですか」
小峰 「忙しかったですし、うれしくもなかったですから」
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