うみのおと
うみのおと

登場人物
 浜崎海斗 うだつの上がらない二十歳のフリーター
 青山夏子 海斗の元同級生で憧れの女の子
 平澤太陽 同じく元同級生。夏子の彼氏
 端橋葵  同じく元同級生。天然キャラ担当
 浜崎風美 海斗のはとこ。高校三年生で海の家の店長代理

  一場

 舞台は海の家『浜風』舞台手前はひらけた外の空間(=公道)がある。
 店内にはアルバイトの浜崎海斗、客の瑞橋葵、奥に店長代理の浜崎風美が控えている。

葵 すいませーん。
海斗 はい。
葵 おかわりください。

 やや間。差し出されたグラスを見て海斗は深いため息を吐く。

海斗 瑞橋、お前いい加減に――
葵 海斗、お客さんに向かってその態度はダメだよ。
海斗 ……お前客か?
葵 ん?
海斗 ん、じゃねえよ。いいか、客は水ばっかり五杯も六杯も頼まない。金を払って何かしら食う。したがってお前は客じゃない。
葵 ああ、もうダメダメ。いい? その人がお得意様だろうと、一見さんだろうと、メニュー見てるだけの冷やかしだろうと、お客様は神様です。
海斗 あ?
葵 そんなんだから仕事が長続きしないフリーターなんだよ。
海斗 はあ? それ言ったらお前なんか学生ニートじゃねえか。大学行ったってどうせ勉強してねえだろ? 俺は身の程わきまえてんだ。確かに長続きしないフリーターだけど自分で稼いだ金で飯食ってるし、ほんのちょびっとくらいは社会に貢献してる!
葵 うわ……。
海斗 何がうわ……だよ。毎日毎日こんなところで油売りやがって、この暇人!
葵 暇で結構。夏休みだもん。海の家でのんびり過ごすって夏を満喫してるでしょ?
海斗 コノヤロウ。
葵 ああ、もう店内で騒がない。他のお客さんの迷惑になるよ。
海斗 客なんかいねえよ、こんなしけた海の家。
葵 ……海斗。ウチ今、海斗の仕事が続かない理由がよく分かった。
海斗 は?
葵 よし、じゃあお客様になってあげようじゃないの。焼きそばひとつ下さいな。
海斗 あ、えっと、かしこまりました。

 奥に引っ込む海斗。

海斗 おい、風美! かざみー

 現れた途端に鋭い視線で海斗を睨む風美。

海斗 あ、あの店長……。
風美 よろしい。何かな、浜崎くん?
海斗 えっと……焼きそばひとつ、と、あの、お水のおかわり、頂きました。

 水差しを持ってさっさと逃げ出そうとするが、風美に引きとめられる。

風美 ちょっと待ってよ。
海斗 はい?
風美 あんたが急に焼きそばとか言い出すから材料が足りないのよ。買い出し。
海斗 はあ?
風美 ええと、キャベツと人参ともやしと豚肉……。
海斗 麺しかねえのかよ。
風美 あと、麺!
海斗 何にもねえじゃん! 大丈夫かこの海の家。
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