人形の舞

(にんぎょうのまい)
初演日:2019/4 作者:いちのみや
    人形の舞               作:いちのみや


登場人物(男:2女:6)
・依頼者 人形の修理を依頼しに、奇妙な店を訪れた女性。
・男 腹話術師
・老婆 無表情・無口 
・娘     老婆の娘で40代
・孫  中学生 老婆の娘の娘。 西洋人形のような顔立ち・服装をしている
・人形 人間そっくりの女性の人形。
・警察 ある事件を追う男性刑事。老婆が怪しいと踏んでいる。
・女 山道でガス欠。困って店を訪ねる
   

   
        舞台は古びた店。
        人形があらゆるところに置かれてある。
        西洋人形・日本人形、種類を問わず乱雑に置かれている様子は不気味
        下手には玄関。そのそばに、丸い机と3つの椅子。
さらに、その少し奥に別の部屋に通じる扉(通路または階段でも可)
        上手は奥の部屋に通じる。
        上手側に、カウンター。そこにも人形が散らばっている。
カウンターの近くまたは側には、棚がある。
   
開幕前から娘が出入りしている。
出入りしながら、人形の位置を変えたり、机を拭いたりなどしている。慌ただしげだ。

娘が一旦完全にはけた後、扉を開いて入ってくる依頼者。
依頼者の手には、ひな人形がある。
        カウンターに老婆が座って寝ているが、お互い気がつかない。

依頼者 すみませーん
依頼者 あのー、どなたかいませんか

        椅子に座ってある大きな人間の人形を見て、

依頼者 うわ

        人間の人形をのぞきこむ
        不気味そうに震えた声で

依頼者 すみません。だれか…

        老婆小さい声で

老婆 なんだい

        依頼者、人形に耳を傾ける

依頼者 何か言った?
老婆 なんだい

        依頼者、依然、人形のそばに耳を傾ける。

老婆 こっち

        と、同時に奥の部屋から娘がやってくる。

娘 あ、ごめんなさい、気がつきませんでした。

        老婆、再び、顔を伏せる。

依頼者 あ、いえいえ。
娘 どうされました?
依頼者 これ、なおせます?
娘 ああ
依頼者 ここ、ちょっと破れて、でも特殊な縫い方でできてるらしくて
娘 ちょっといいですか?
依頼者 あ、はい

        依頼者、ひな人形を渡す。

娘 あー、これは他じゃ無理ですね
依頼者 できるんですか?
娘 ええ、たぶん。
依頼者 よかった。ここまで来たかいがありました。
娘 ああ、大変だったでしょう、山道で。
依頼者 ええ、でもこんなところでも、家が何軒かあるんですね、あ、ごめんなさい、こんなところって
娘 いえ、いいんですよ
依頼者 すみません
娘 まあ、もうちょっと見てみます

        娘、しばらくひな人形を見ている
        依頼者、その間に大きな人形を不思議そうに見ている。
        人形、瞬き。
        依頼者、驚く。

娘 ああ、それ。人形ですよ
依頼者 え、ですよね。
娘 不思議がる人は多いですよ。うまくできてますからね
依頼者 瞬きも?
娘 瞬き?

        依頼者、うなづく。

娘 まあ、しっかりできてるものは瞬きもしますから
依頼者 ええ、ああ、そうなんだ
娘 ええ、あくびもおならも
依頼者 え?本当ですか?
娘 最近すごいんですよ、本物みたいな人形がいっぱいできてるんですから。しかも安く。まあ、そのおかげで修理も大変なんですけど。
依頼者 本物?
娘 ええ、人間みたいな
依頼者 ああ、喋ったりしますからね。
娘 ああ、そういうのも、まあ、昔から。

        依頼者、手を人形に向けながら、

依頼者 そうですよね、喋るのもありますよね
娘 あ、それは喋らないですよ。
依頼者 え、でもさっき。
娘 喋らないですよ。電池抜いてますもん。それ。
依頼者 ああ、電池。
娘 ええ、お腹の。
依頼者 お腹に電池。あー、なるほど。え、じゃあ動かないんですか?
娘 ええ
依頼者 瞬きも?
娘 瞬きも
依頼者 え、いやだって

        娘、老婆の前に、ひな人形を置き、

娘 お母さん、これ修理できる?

        老婆、起き上がり、ひな人形を見て、

老婆 80分

        といい、無言で奥の部屋に去る

        間

依頼者 今のも人形…
娘 いや、人間
依頼者 あ、人間。
娘 ええ
依頼者 ああ、だからさっき
娘 なにか?
依頼者 いえ、なんでも
娘 申し訳ないですけど、80分くらいはかかるんで、お好きな場所でお待ちになってください。あの、そことか。そこしかないけど。あ、それか預かっておいてまた後日。
依頼者 あ、いえ、今日受け取りますよ。
娘 あ、大丈夫ですか
依頼者 ええ

        依頼者、人形のそばに座る。

娘 何かいりますか?コーヒーとか
依頼者 え、あ、じゃあお願いします。砂糖多めで
娘 はい

        依頼者、まじまじと人間の人形を見る。
        人形、かすかに動く。
依頼者、奇妙に見つめる。
        人形、小さなあくびをし、依頼者の方を見る。
        依頼者、驚き、隣の席に移る
        人形、何か喋りそうに、口が動く。
        と、娘がコーヒーを持ってやってきて、

娘 あの、ミルクも入れて大丈夫でした?

        依頼者、驚き、大げさに振り返る。
        人形、前に向き直る。

依頼者 あ、ありがとうございます。
娘 あの、もしかして動きました?
依頼者 え、やっぱり動きますよね。そうですよね動くやつですよね。
娘 え、いや

        娘、依頼者の方に手を指し

依頼者 あ、私も動きましたけど、これ
娘 それがどうしました?
依頼者 いや、これも動きましたよ。
娘 え、最初からそこに。
依頼者 いや、そうじゃなくて、私は場所を動きましたけど、この人形は、動きました。頭とか、あとあくび。あくびしましたよ。
娘 眠たいんですか?
依頼者 いえいえ、じゃなくて、この人形が。
娘 人形は眠くはならないでしょ。
依頼者 いや、そうですけど
娘 すみません、わたしちょっとまだ仕事残ってるんで。
依頼者 あ、すみません。でも、嘘じゃないんですよ。
娘 はあ
依頼者 あ、お気になさらず、どうぞ。

奥から老婆、包丁をもってでてくる。

依頼者 うわ、何?
老婆 …
娘 あ、包丁使うんですよ、綿切るとき。
依頼者 めん? 料理してるんですか?
娘 あ、いや綿。生地ですよ。人形の。
依頼者 ああ、綿。で、それを包丁で?
老婆 ちょっと
依頼者 すみません
娘 どうしたの?
老婆 手伝って
娘 ああ、はい。じゃあちょっと。
依頼者 あ、すみません、邪魔しちゃって。

        娘、老婆奥の部屋に去る。
   
        間
   
        依頼者、再び、人形を見つめる。
        人形、再び、かすかに動いている。
        依頼者、思いついたかのようにおもむろに人形に近づく。
        人形のそばで膝をかがめる。
人形の服をめくり、お腹のあたりに潜り込む。
        人形、くすぐったいように動く。
        依頼者、それを感じ、人形を見上げる。
        人形、止まる。
        依頼者、もう一度、お腹に潜り込む。
        そこに、娘がやってきて。

娘 あの、人形のここゴロゴロしてるので綿(わた)追加しときましょうか
依頼者 ……
娘 あのー

依頼者、お腹からでて娘をみる。

依頼者 えっと
娘 お腹、追加しときましょうか?
依頼者 電池?
娘 いえ、綿。こっち
依頼者 あ、そっち。こっちは
娘 電池なかったでしょう?
依頼者 いや、よく見えなくて、どこに。
娘 あー、縫い目綺麗ですからね。
依頼者 あー、縫ってる。
娘 うちのお母さん、うまいんですよ。
依頼者 あ、なるほど
娘 もう40年くらいかな
依頼者 始めてから?。このお店。
娘 そうそう、30歳の頃始めたんですって。私を産んだくらいから。
依頼者 なるほど、あ、じゃあ

        依頼者、娘を手で指し、

娘 あー、はいもうすぐ40です。
依頼者 見えないですね。
娘 いえいえ、奥さんのほうこそ
依頼者 え、私? 私はそんな、もうとっくに40過ぎてるし、
娘 見えないですよ。
依頼者 いえいえ、私なんか
娘 ご結婚されてるんですよね。
依頼者 え?
娘 あ、すみません、人形に名前書いてたんで、子供の字で、あかりって。
依頼者 あー。
娘 あ、もしかして、あかりさん?
依頼者 あ、いえ、あってますよ、子供の名前で。あかりです。
娘 良かった。あ、指輪されてますもんね。
依頼者 あ、そうですね。あ、あの

        依頼者、手を娘に向け、何か言いたげ。
        娘は指輪をしていない。

娘 あ、私?私もいますよ。子供。
依頼者 あ、そうなんですね
娘 今、学校
依頼者 そっか、そんな時間か
娘 あ、でももう帰ってくるか。
依頼者 あー、そうですね
娘 あ、大丈夫ですか?時間。まだかかりそうですけど
依頼者 あ、まあ大丈夫です。たのんでますから。
娘 頼んでる…
依頼者 あ、家政婦みたいな
娘 ああ、家政婦。
依頼者 あ、いや、そんな大げさなものじゃないんだけど。ちょっと一時的に。
娘 なるほど、ベビーシッターみたいな。
依頼者 ベビーっていうほどじゃないですけど。小学生だし。
娘 ああ、小学生。そっか、じゃあ、家事とかもしなくていいんですね
依頼者 あー、家事。しなきゃなって思ってるんですけど。いや、むしろしたいとも思ってるんですけど、夫がしなくていいっていうから。
娘 えー、優しい旦那さんなんですね。
依頼者 ええ。まあ。
娘 いいですね、何もしなくてよくて。
依頼者 え、まあ何もってわけじゃないですけど。
娘 ひな祭りですか?
依頼者 え?
娘 ほら雛人形だったから。
依頼者 ああ、そうです。最後のひな祭りですから。
娘 最後?
依頼者 あ、え、いや年齢的に最後かなって。もう小学校卒業しますし。
娘 あー、そうですね。でも、まあ、関係ないと思いますよ
依頼者 …それは
娘 年齢なんて関係ないですよ。大人だって、人形とかぬいぐるみとか部屋に飾ってる人もいるじゃないですか。
依頼者 え、ええ。
娘 だから、いいんじゃないですか、ずっとひな祭りしても。
依頼者 そうですよね。

        依頼者、ちらちら、人形を見るので

娘 ああ、まだ気になってるんですか?
依頼者 ええ、ちょっと
娘 気のせいですよ。
依頼者 うーん
娘 ほら、ここ人形だらけだから、動いてるように見えるんですよ
依頼者 え、それとどう
娘 ほら、なんか、廃墟とか行ったら木を幽霊と見間違えたり、物が動いたように見えたりするでしょ。
依頼者 ええ、まあ、廃墟行かないですけど。

        すると、玄関から男がやってくる。

娘 いらっしゃいませ
男 あ、あれ、用意できました?
娘 え?
男 ほらほら、あ・れ。
娘 あ、あれ。聞いてきます。

        娘、去る。
        沈黙

依頼者 あの、あれって何ですか?
男 え?
依頼者 ごめんなさい、ちょっと気になって。
男 ああ、人形ですよ。
依頼者 あ、まあ、そうだと思いますけど。
男 うん
依頼者 なんかちょっと変わった言い方だったから。あ・れって
男 ああ、まあちょっと特別なんだけど。
依頼者 聞いてもいいですかね。

        男、手で、依頼者を招く
        依頼者、男のそばによる。

男 じつは…ただの人形じゃないんだ。

        依頼者、うなづく。

男 特注品でさ…中に爆弾を仕込んでるんだよ
依頼者 え?
男 いや、ほら、人形に入ってたら普通気付かないだろ。子供とかに渡したら、喜んでどこかに持ってってくれるだろ? そしたら足がつかずに、ドカンって爆発させられる。
依頼者 ほんとですか?
男 はは、まあ、安心しなよ、爆発させるのはここじゃないから。
依頼者 もしかして、ここそういう店なんですか?
男 え?
依頼者 ほら、なんかここ変じゃないですか? くらいし、気味の悪い人形ばっかりだし、店のおばあちゃんは、人形みたいに、表情変わらないし。
男 ああ、まあね、俺も最初は気味が悪かったよ。でも、腕はいいからね
依頼者 ああ、腕。
男 依頼したらなんでも作ってくれる。
依頼者 爆弾も?
男 うん、ほら、だいぶ前、地下鉄で爆弾騒ぎあったじゃない?何人か死んで大ニュースになったやつ。
依頼者 ええ。え、うそ!まさか。あなたも、関わって…る?
男 いや、まあおれは運ぶだけだから。
依頼者 はあ

        と、娘が戻ってくる。
        娘、袋に入った大きな人形を持ってきて

娘 できてましたよ。これちょうど3000円ですね。
男 ああ、3000円。はい。

        男、3000円ぴったり渡す。

依頼者 意外と安いですね。
娘 まあ、穴空いてたの縫っただけですから。
依頼者 それ爆発してるんじゃ…
娘 え?あ、ちょうどですね。はい、どうぞ。
男 ありがとうー!もう、仕事できなくて、超困ってたんだよね。

        突然、口調が変わる男に驚く依頼者

男 あ、ちゃんとできてるー!

        といい、袋から人形を取り出す

男 いや、もう最高

        といい、人形を抱きしめる。

依頼者 あの…
男 うん?
依頼者 いや、それ
男 あ、さっきの全部嘘
依頼者 は?
男 いや、嘘に決まってるじゃん。爆弾なんか、作ってるわけないじゃんこんなところで。もう、冗談だったのにー
依頼者 えー、もう、びっくりしたーだって特別なものっていうから。
娘 ああ、あれ、腹話術の人形なんですよ。
依頼者 腹話術?
男 ほら、これ。こうやって
男(腹話術)こんにちは。びっくりさせてごめんね、あははあはは

        依頼者、男とは、対照的に静かに男を見つめ

依頼者 ばかみたい
男 もう、怒らないでくださいよ。ごめんなさいって。
男(腹話術)ごめんね。ごめんね
娘 この方、こういう人なんです。
男 はい、普段、ショッピングモールとかでイベントやってるんですよ。腹話術の。
依頼者 はあ。まあ、そうですよね、ふつう爆弾なんか作らないですよね。
娘 そんなこと言ったんですか
男 うん、まあ軽いジョークだったんだけどね
娘 普通信じないですよね

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