或る雨の日の話

(あるあめのひのはなし)
初演日:2019/2 作者:木野 意多
「或る雨の日の話」
木野 意多

序幕 開演前

  会場には、バーカウンターの対称の位置に、二人分の予約席が設けてある。場内は通常通り運営されており、観客は好きにバーを楽しみながら、自分の席に座っていく。

男性が一人入ってくる。男性はルールに則り、自分のドリンクを手に取ると、案内され、予約席に付く。
一人でドリンクを飲む男。
暫くして、女性が一人入ってくる。
女性も男性と同様にドリンクを持つと、先に待っていた男性の元へ行き簡単な世間話
を始める。
バーの雰囲気や、来店の頻度。直前の思い出などについて話す二人。
二人は恋人同士のように見える。
開演5分前、二人にお通しが運ばれてくる。
  
  マスターがカウンターから出てきて、客席に注意事項を述べる。

 マスター 本日は、○○にお越しいただきありがとうございます。
      開演に先立ちまして、ご来場の皆様にいくつかお願いがございます。
      本公演は非常に特殊な体系を取っております。公演中も柳苑そのものは営業しております。新しい飲み物などをお求めのお客様はご自由にバーカウンターの方へお申し付けください。
      また、途中の入退場も自由となっております。
      しかし、演劇を楽しみに来られているお客様もいらっしゃいます。
      入退場などの際は、他のお客様のご迷惑とならないよう、ご配慮をお願いいたします。
      同様に、上演中の私語や、携帯電話の着信音なども、他のお客様のご迷惑となる可能性がございます。私語は慎んでいただき、携帯電話などは音の出ない設定にしていただければ幸いです。
      公演中の写真撮影は自由となっております。しかし、先述した理由により、音、フラッシュなどは発生しない設定に変更してください。
      それでは間もなく開演いたします。今しばらくお待ちください。

  そして、開演。徐々に客席の照明が落ち、元に戻る。?
1幕 来店

  入り口から、雨に濡れた様子の男が入ってくる。

 男    全く、参ったよ。なんで傘が折れるかな!直前になって!!
      今日はついてない、全くついてないよ。ホントに。
      あー、もう、嫌になる。

  この辺りで、客席の方に目を向ける。

 男    おっと…。大きな声で失礼しました。

  男はバーカウンターに座っている他の客に挨拶をしながら、カウンターの一番奥の席
に座る。そして、マスターに話しかける。

 男    今日は、えらく人が多いね…。
      どうしたの?イベント?
 マスター まぁ、そんなところだよ。
      今日は何にするの。
 男    …うーん。なんでもいいや。今日のお通しに合いそうなもので。
 マスター はいよ。
 男    しかし…。本当に多いね。
      なんか、配置も変わってるし。
 マスター なんの?
 男    客席。
 マスター ああ。今度のイベント用だよ。演劇をやるんだって。
 男    演劇?ここで?
 マスター ああ。
 男    なんでまた。
 マスター さあね、沙耶の友達みたいだ。
 男    沙耶ちゃんもよりによってこんなところでやらなくても…。
 マスター まぁ、その日は通常営業ってわけにもいかないだろう。
      従業員も日雇いを使うよ。
 男    それが良い。マスターに初見さんの相手なんかできっこない。
 マスター これでも、このバーのマスターだぞ?客の応対くらい出来る。
 男    止めとけ、止めとけ。恥かくだけだ。
 マスター 今日だって、これだけ初見さんいるだろ。
 男    あ、やっぱり初見さんも多いのか、今日は。
      俺が偶々見たことない人ばっかりなのかと思ったよ。
 マスター よく言うよ、毎晩のように入り浸ってて。
 男    最近常連になった人かなと。
 マスター そういえば、ここ1週間来なかったな。
      あの仕事の具合はどうなんだよ。
 男    まぁ、何とかなったよ。
      あの仕事が面倒なことになったから、その後始末みたいなものだ。
 マスター へえ、後始末。
 男    クライアントがごねたからな…。
      こっちは「ちゃんと仕事はやった」って言うのに。
 マスター 納得しなかったのか。
 男    ああ…。面倒臭いったらありゃしない。
 マスター ほーう。それで最近顔を出さず…か。
      はい(酒とお通しを出す)
 男    サンキュー。ありがてぇ。

  間

 男    しかし、あれかな?
 マスター ん?
 男    客が多いのは、雨の所為かね。
 マスター 降られたのか。
 男    ものの見事に降られたよ。
      傘は持ち歩いてたから、しばらくは何とかなったんだが、この店の直前で折れちゃって。
      んで、この有様よ。
 マスター 今日は雨の予報じゃなかったんだがな。
…ってことは、客は長居するな。
 男    どうだろうね。通り雨かもしれないし。
 マスター 今日は仕方ないな。
 男    ちょっと休みも欲しいし、次は水曜日に来るよ。
 マスター ああ、そうしてくれ。
 男    どうしてこの世の中には一定数、面倒な客がいるのかね!
 マスター おい、静かにしろ。
 男    っと、悪い。いつもの調子で。
      申し訳ない。みなさん。どうか、お気になさらず。
 マスター 初見さんが逃げちまうだろ。
 男    これぐらいで逃げる客なら、普段は来ないよ。
      それも、こんな寂れたバーに。
 マスター 俺は客が居ない半分はお前にあるって思ってるけどな。
 男    もう半分は?
 マスター 残りの常連客。
 男    違いない!
      でも、一つ訂正させてくれ。客が来ない理由は、常連客全員で折半だろ。
      俺が半分も請け負ってるのはおかしい。
 マスター お前が酔っ払って、割ったグラスの数を教えてやっても良いんだぞ?
 男    …。
 マスター …今日もあんまり呑ませないからな。
 男    いいよ、別に。
      持ってきてるのもあるから。
 マスター ちょっとまて、それはズルだろ!
 男    いいだろ、店員が酒を出さないなら、自分で用意するしかないだろ。
      だっておかしいだろ!キープしてるはずの酒すら出さないなんて!
 マスター お前は酒そのものじゃなくて、飲酒量をキープしろ。
 男    …上手いこと言ったつもりか。
 マスター 止めろ、恥ずかしい。
 男    語彙力もないのに上手いこと言おうとするんじゃないよ。
      上手いことって言うのは、俺みたいな語彙力のある奴が言うものだ。
 マスター …。
 男    …おい!そこはツッコミを入れるところだろ!?
      「お前には語彙力何てねぇよ!お前にあるのは恋力だけだ!」
      って。
      …っておい!なんだよ恋の力って!誰がナンパ野郎だ!俺に恋の力なんてないよ!
 マスター …。
 男    おいー、無視すんなよ。
      寂しくなっちゃうだろ。
      …心がどんどん暗くなる♪
      どんどん…暗い…どんどん…暗い
      心が寂しくて泣く…ドントクライ…ドントクライ…。
      僕の涙は?外の雨へと変わっていく…(笑う)
 マスター なんだよ
 男    ちょっと、自分で何をやってるのか分からなくなってきた。
 マスター もう、止めとけ。ちょっとは飲め、な?
 男    おう。

  男は煙草を取り出し、カウンターの机の上に用意する。

 男    あれ?灰皿は?

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