『師死尊存』

(ししそんそん)
初演日:2017/8 作者:岡野 陽平(四次元STAGE)
『師死尊存』 2017.05      劇団 四次元STAGE



【登場人物】
青年死者=間 新太(はざま しんた)

病の少女=新井 舞(あらい まい)


ヤミ死者
ヤミ妻
間男

N=葬儀屋
博士

市長
職員
市民の皆さん

年寄死者
死者の皆さん

自殺志願者/フードの男



赤子

モグラ
ミミズ




【グループ】
●青年、ヤミ、N、博士、妻
●市長、職員、少女、母、志願者
+●群衆=N、博士、妻、少女、母、志願者、他



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
《《第1幕》》

【第1-1場:冒頭】

■舞台は床に白い布がいくつか敷かれている。舞台美術も白と黒で構成されているのが望ましい。
 生きている者は『白』塗り。死んでいる者は『黒』塗り。アクセントに赤(朱)。
■オープニングムーブ。ゆっくりとした歩みで、バスへ乗っていく人々。
 皆『黒』に塗られている。
 青年もそのバスに乗る。青年はまだ『無色』(=白?)である。
■青年(Dead)がバスに揺られている。
青年死者「僕は今、バスに乗っている。
 僕も、隣に座る人も。バスの人達みーんな、バスに乗ってこれから山へ行く。山の奥へと連れて行かれる」

青年死者「バスが出発する前、僕は思い出していた。
 同級生に会いに病院へ行ったあの日のことを」


■青年が一人、バスから外れて。
青年(alive)「すみません、こんにちは」
母「はい?」
青年「あの、新井さんに、面会に」
少女「ハザマくん!? え?何?」
■少女は、白い服に、胸にだけ黒い汚点がある。
青年「いや、ちょっと、話でもと思って」
少女「え?」 ■怪訝な顔をする少女。
母「あら、あらあら、舞(まい)のボーイフレンドね」
二人「違う」「違います」
母「ほほほ。照れちゃって照れちゃって。どうぞどうぞ。お母さんは席を外すから、あとは若い二人で」
少女「ちょっとやめてよ!」
母「ほほほ。ごゆっくり〜」
■母去る。

青年「こんにちは」
少女「・・・」
■正面を向いてナレーション的に。
青年「そして僕は、緊張してたから、沈黙も気まずくて、何か話さなきゃいけないと思って、
  《期末テスト》のこととか、先日やった《クラスの花火大会》の話とか、《夏期講習》の話とか
  、、、どうでもいい話をした」

少女「ねぇねぇ、誰に話してんの?」
青年「え?」
少女「ん?」
■青年、正面(客席)と少女の間を逡巡する。キョロキョロ
青年「いや、ちょっと、省略」
少女「省略?」
青年「そう。だって、、、」
■俯く。
青年「いきなり聞くのも、なんか怖くてさ」
少女「何を?」
青年「病気、どうなの?」

少女「あと半年の命、だってさ」
青年「・・・本当に?」
少女「本当に」
青年「・・・」
少女「・・・」
青年「生きなきゃ」
少女「なぜ?なんのため?」
青年「わからないよ、僕だって何となく生きてるんだ」
少女「死にたくないから生きている」
青年「生きて、食べて、・・・子孫を残す?」
少女「じゃぁ、子作りしよっか」
青年「えぇ!?」
少女「バカ、余命半年の病人が、産めるわけないじゃん」
青年「・・・」
少女「・・・」
青年「半年か。半年あったら、何でもできるよ」
少女「何でも、ね。べつに、何にもしたくない」
青年「とにかく、精一杯生きるんだよ」
少女「・・・」
青年「・・・」
少女「人間は生まれたとたん死に始めているんだって」
青年「え?」
少女「人が生まれて最初にした一呼吸が、死の始まりなんだって」
青年「そう、かもしれないけど・・・」
少女「・・・。帰って」
青年「え?」
少女「帰って!」
■少女は顔を背ける。
■俯きながら去る、青年。(少女も退場)

■ナレーション的に。
青年「そして、その3ヶ月後、、、僕は死んだ」



【第1-2場:事の始まり】

■ムーブメント『青年の死』。
 青年が周りの人々(死者)によって黒く塗られていく。(顔を墨筆で塗る。体に黒布を巻く。など)
■曲が流れる。
■立ち上がる死者達。


1「事の始まりは!」
2「火葬場だった!」
3「ある一人の男の遺体が燃やされようとするその時に!」
4「悲鳴が聞こえた!」
5「炉の中から」
6「棺桶の中から」
7「悲鳴が聞こえた!」
全「炎の中から悲鳴が聞こえた!」

 「熱い!熱い!熱い!」
 「そんな!」
 「まさか!」
 「生きてるはずがない!」

 「慌てて取り出した棺桶の中で
 「確かに何かが動いている!
 「棺の蓋を開ければそこには!
 「生きた男ではない、
 「確かに死んだ男が、しかしまがいもなく動いていた!

全「どういうことだこれは!」

 「それは始まりにすぎなかった!
 「他の火葬場でも同様の事件が起こり、
 「その日のうちに何十もの死体が動いた!
 「原因も対処もわからぬまま、
 「動く死体の数は日に日に増えていった!

 「彼らは!
 「生きているのではない!
 「確かに死んでいるのだ!

 「人々は恐れた」
 「恐れた人々はまず何をしたか」
■死者や生者の人々がサ〜〜〜〜っと去って行く。
 残る二人の人物。市長と職員。

【第1-3場:行政】

■行政の二人が現れる。市長と職員。慌てている。
市長「どうすんのよ!? どうすんのよ!?
職員「少しは自分で考えて下さいよ」
市長「え? じゃ燃やそ、ね、燃やそ?」
職員「市長!」
市長「も〜無理。どうすんのよ?」
職員「現代医学どころか、人類の知恵を超えた出来事です!」
市長「全く分からない。彼らは確かに死んでいて、血は流れてない、呼吸もしない」
職員「ただ呼吸もどきはします。生理現象の記憶とでもいいましょうか、筋肉は記憶をなぞるようです。医学的には・・・」
市長「今それはいいから!」
職員「確かにまがいもない死体なのですが」
市長「動くし、喋る!」

死者達「こんばんは」

職員「これがもっとも人々を怯えさせた」
市長「彼らは喋る」
職員「生前と同じ記憶を持ち、生前となんら変わる事なく、自らの意思で動き、喋る」
市長「自分が死んでいるという事実を認められない死者もいるわ」
職員「死んだことを黙っていて年金をもらい続けた死者がいたくらいです」
市長「子供が死んだことを認めない親もいるわ」
職員「科学が物事を理解できないまま」
市長「時は進んで行く」
職員「死に関する研究が進められる。死に関する思想が次々に沸き立つ」
市長「・・・」
職員「・・・」

市長「生と死を分かたなくてはいけません!」
職員「え?」
市長「生者と死者がともに暮らすわけにはいきません!
  死が保留されたことで、生と死の区分が曖昧になってしまった。
  だから混乱が起きる」
職員「なるほど!だからまず生と死を明確に分かつ!」
市長「物理的にね」
職員「死体といつまでも同じ家で暮らすなど、不衛生きわまりない!」
市長「死者を隔離しましょう」
職員「では山奥にでも専用の施設を設けて」

市長「成仏園!」
職員「え?」
市長「じょう、ぶつ、えん!」
職員「ネーミングやべぇよ!」
市長「なんですって?」
職員「いや、言い得て妙とはこのことですね。お役所っぽくないネーミングに親しみが湧くことでしょう」
市長「でっしょ!」
職員「奥深い山の中で、塀にグルッと囲まれた死者の里。
市長「大自然の中にあって、風通しがいいわ」
職員「立ち入り禁止の面会謝絶」
市長「医者や科学者が常駐し、保健所の者と、世話人が数十名」
職員「警備員が数十人。で、門番には猟銃を」
市長「熊が出るかもしれませんから?」
職員「彼らが逃げ出すかもしれないから!」
市長「わ〜ぉ」
職員「しかしそんな所に死者達が入ってくれるでしょうか?」
市長「無理にでも入れるわよ」
職員「不満が噴き出しますよ!」
市長「生者の?死者の?」
職員「両方です!」
市長「理解してもらうわよ。私の母(父)にも入ってもらうから」
■転換。退場する二人。
職員「市長、最初燃やそうって言ってませんでした?」
市長「え?いや、あれは、ほら、勢い?」
職員「勢いでも燃やしちゃダメでしょ燃やしちゃぁ」

【第1−4場:成仏バス】

■黒電話を持って現れる青年死者。行政の二人の間を割って入ってくる。行政二人は去る。
青年死者「もしもし?葬儀屋さんですか?」 (後ろで泣いている青年母)
N「はい、葬儀屋です」
■白い手袋の男Nが現れる。
青年死者「あの死んでしまったので、葬儀をお願いしたいのですが」
N「この度は御愁傷様でございます。どなたがお亡くなりですか?」
青年死者「僕です」
N「え!! (電話先で遠いはずなのに青年を見る)
 私も長年葬儀屋をしておりますが、ご本人様からお電話いただくのは身の毛がよだちますねえ」
青年死者「すいません」 (青年もNを見る。受話器を持ちながらもいつしか目の前で会話に)
N「まぁ最近は多いので慣れましたよ」
■と言うと、Nは帽子を取り出して頭に。バスの運転手になる。
N「さぁ、乗って乗って」

青年死者「という感じで僕の旅は始まった。これが『死出の旅』というやつだろうか」
N「はい皆さん、バスに乗って下さいね〜。つめて、つめて。本日は満員が予想されま〜す」
■ゾロゾロと死者がバスに乗っていく。
青年「葬儀屋さんは、死者を燃やすに燃やせないから商売上がったり。
  と思いきや行政の指示で成仏園行きのバスの窓口をしている」

自殺志願者「あの、僕も乗せて下さい」
N「え?」
■自殺志願者はバスに乗ろうとするが。
N「ダメダメ。あんた生きてるだろ!生きてる人間はダメだよ。死んでから来て下さい」
自殺志願者「死にたいんです」
N「あっそ」
自殺志願者「死にたいんです」
N「好きにして」
自殺志願者「お願いします。」
N「このバスはね、死んだ人だけが乗るバスなの。天国行きのバス、とかファンタジーじゃないよ、
本当に山の奥の施設に行くだけ。
自殺志願者「あなたも生きてるじゃないですか」
N「運転手だからね!」

自殺志願者「ずるい!」
N「ズルとかじゃないよ!」
自殺志願者「僕も載せて下さい」
N「ほらほら、どっか行って行って! 死にたいとか、生きるのが辛いとか、
生きてる人間の悩みだよ。まったく、私は葬儀屋なんだから。専門外」
■自殺志願者は去る。

N「さぁ、それじゃ出発しますよ〜〜〜急いで急いで」
■さらに数名が乗り込む中、運転手のガイダンスが始まる。
N「はい皆さん、本日は私どもの成仏バスをご利用いただきありがとうございます。成仏園行きの成仏バス。
 このバス、ふわ〜〜〜っと上に天国へ、は残念ながら行きません。その代わり、山道をゆっくりゆっくり登って、少しだけ天国に近い、山の上へと向かいま〜す」

■バスの中。ゆられながら。

■青年の独白。
「ゾンビって、腐ってて、動きが遅くて、
 あ〜、う〜、とか、うなって噛み付いたり、そんなモノだとみんな思ってる。
 でも、そんな訳ない。そんだけな訳ないよ。
 この死者一人一人に、家族があった、人生があった、夢があった、過去があった、
 喜びがあり、悲しみがあり、挫折があり、
 死んでしまった理由があり、生きた理由があった。

 母さん、泣いてたな。父さん、怒ってたな。怒りながら泣いてた。
 弟は、驚いてたな。信じられないだろうな。
 あの日は雨が降ってたから。急いでたから。滑って。。。
 ちょっとぶつかっただけなのに。
 ・・・何やってんだろ。バカだな。急ぐ必要なんてなかったのに。

 父さん、母さん、先立つ不幸をお許し下さい。
 って、自分で言えたのは良かったかも。
 いや、良くない? 良く分からないや。・・・どうでもいいか。

 あったかもしれない未来。
 夢とかあったわけじゃないけど、
 少なくとも普通の人生は有ると思ってた。
 恋愛の葛藤も、仕事の情熱も、挫折も成長も、
 みーんな、思い描くだけで辿り着けなかった。

 これからどこへ行くんだろう?
 どう過ごせばいいんだろう?
 あの子に会いに行こうかな。
 いや・・・惨めになるだけかな。


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