君が明日と出会う場所

(きみがあすとであうばしょ)
初演日:2017/9 作者:ウトカ
「君が明日と出会う場所」


登場人物
〇星野 光(ほしの ひかり)
〇ミツキ
〇星野 満月(ほしの みつき)
●海原(かいばら)
〇花江(はなえ)
●草津(くさつ)


◇第一場 カフェ「満月(まんげつ)」(午後)

こぢんまりとしたカフェ。
満月がカフェで光の帰りを待っている。

光   ただいまー。

そのまま奥へ入り、スケッチブックを持って再び出かけようとする光。

光   いってきまーす。
満月  光!ちょっと、待ちなさい。
光   え?
満月  ここ座って。
光   何よ?
満月  何か言うことあるんじゃない?
光   今日も綺麗ね、母さん。
満月  あらそう?
光   いってきまーす。
満月  そうじゃなくて、光!
光   何なの。
満月  あんたどういうつもり?
光   なにが?
満月  これ。

満月の手には、白紙の進路希望表。

光   あっ!
満月  進路希望表!あんたの!
光   母さんどうしてそれを!
満月  学校に呼び出されたの!
光   呼び出し?夏休みだっていうのに?こんな暑い中どうして?
満月  それはこっちのセリフよ!あんたがこれを白紙で提出したってね、母さんはこの暑い中!学校まで!呼び出しくらったの!『ご家庭ではどんな教育をなさってるんですか』なんて言われて。母さん恥ずかしいったらありゃしない。
光   そ、そうなんだあ〜…。
満月  …光。
光   ハイゴメンナサイ、スミマセンお母様!どうもお疲れ様です!暑かったでしょ、アイスコーヒーでも飲む?冷たくておいしいよ〜!
満月  はあ…。もういいわ。で?あんたどうするの?
光   どうするって?
満月  これ。書かなくちゃいけないんでしょう?あんたからそういう話聞いたことなかったじゃない。
光   うん…。
満月  進学するんでしょ?そろそろ考えなくちゃいけない時期じゃない。
光   え、えっと…。
満月  お金のことは気にしなくていいのよ。こう見えても母さんちゃんと貯金してるんだから。
光   うん…。進学ね…。
満月  何?違うの?
光   うーん…。
満月  あんたまさか本当に何も考えてないんじゃないでしょうね?
光   考えてるよ。
満月  じゃあ何よ。考えてるならどうしたいのか、母さんに話してごらん。
光   それはまだ…。
満月  まだ?まだってどういうこと?あんた卒業したらどうするつもり?もう夏休みなのよ。
光   …東京に行きたい。
満月  は?
光   東京に行きたい。
満月  東京?
光   そう。私、卒業したら東京に行こうと思ってる。
満月  どうしてまた急に…。
光   それはまだ言えない。
満月  言えない?
光   でも、急に思いついたとかそういうことじゃないの。
満月  ふーん。
光   いいよね?
満月  ダメよ。
光   ええっ!?
満月  ええっ!?じゃないでしょ!
光   何でダメなの?
満月  いい?光は東京に行きたい。
光   うん。
満月  でも理由は言えない。
光   まあ。
満月  バカ言うんじゃないの!
光   バカってなによ!
満月  急にそんな事言われても『はいそうですか、行ってらっしゃい』なんて認められるわけないでしょ!
光   何よ!母さんいっつもダメダメって言ってばっかり!
満月  そんなことない。
光   もういい、母さんがなんて言ったって、もう決めたんだから。私、絶対に東京に行くから!
満月  あ!こら、待ちなさい、光!
光   私、もう子供じゃないんだからね!

カフェを飛び出す光。

満月  まだまだ子供に決まってんじゃない。喧嘩して家を飛び出すなんて。
草津  あのう…。
満月  え?あ、ごめんなさい。
草津  もしかして定休日ですか?
満月  いえいえいえいえ。やってますよ。
草津  やってるって。
花江  よかった。
満月  どうぞどうぞ。

 入ってくる草津と花江。座る。

満月  ご注文は何にします?(メニューは壁に貼ってある?)
草津  花江さん、何にします?
花江  オススメってありますか?
満月  そうね。アイスロイヤルミルクティーはいかがです?
花江  アイスロイヤルミルクティー!私、それにします。
草津  僕も。
満月  かしこまりました。
花江  すてきなお店。
草津  うん。秘密の隠れ家って感じ。
満月  ありがとう。二人共仕事中?
花江  はい。
満月  今日も暑いもんね。ゆっくりしていってね。
草津  世間は夏休みですもんね。学生が浮かれ気分で遊びに出かけるのを横目で眺めながら、自分は会社へ向かうやるせなさったら。
花江  ほんと、学生時代に戻りたいです。
草津  こんな暑い日は喫茶店に限ります。あー涼しい。
満月  はい。どうぞ。

アイスロイヤルミルクティを出す。

草津  いただきます。あ、美味しい。
花江 ほんとだ。すごく美味しい!
満月  良かった。
花江  これ、茶葉は何ですか?
満月  アッサムよ。
草津  へえー。
花江  アッサムなんですね。
満月  でもCTCっていう仕上げ方をしてるからコクが強いの。
花江  へえーこだわってるんですね。
満月  自己満足よ。
草津  CTCってなに?
花江  ググりなさいよ。
草津  いやこんな美味しいアイスティはじめてです。
花江  ロイヤルミルクティね。
草津  それな。
満月  ありがとうございます。
花江  私たち、前からこのお店が気になってて。
草津  ね。
花江  ええ。で、今日は早く仕事が終わったから、彼と寄ってみようってなって。
満月  そうなの。
花江  入ろうと思ったらいきなりドアがバーンって開いて、高校生くらいの女の子がすごい剣幕で飛び出してきたんでビックリしちゃって。
草津  今日は定休日なのかと。
満月  お見苦しい所を見せちゃったみたいね。ただの親子ゲンカよ。
草津  親子ゲンカ?
花江  じゃああの子って?
満月  私の娘。
草津  そうでしたか。
満月  光っていうんだけどね、昔からとにかく頑固な子で…全く、誰に似たのやら。今日だって、突然「東京で暮らすんだ」だなんて言い出してね。
草津  東京で何かしたいことがあるんですかね。
満月  さあ。
花江  …夢を叶えたいんじゃないですか?
満月  夢?
花江  そう。夢です。
草津  光ちゃんでしたっけ?
満月  ええ。
草津  光ちゃんの夢って何なんですか?
満月  さあ。あの子、将来について喋ってくれたことがないのよ。私も光の夢なんて聞いたことなかったし。
花江  東京かあ。あたしも東京にいたことあるんですよ。
満月  あら。そうなの?
草津  知らなかった。
花江  言ってないもん。私、ファッション系の仕事がやりたくて、少しだけ東京の会社で働いてたんです。結構大きな会社だったんですけど…でもやっぱり大変だったんですよね。人間関係も上手くいかなくて、結局すぐやめちゃったんです。都会で働くのは長年の夢だったけど、いざやってみたら、なんか違ったっていうか。
草津  実は僕も東京にいたんです。
満月  あなたも?
花江  知らなかった。
草津  僕、中学の頃から映画の仕事に就くのが夢だったんです。
花江  そういえば草津くん、映画好きだもんね。
草津  中学二年のころ、「スタンド・バイ・ミー」を観てひどく感動して。それからこんな映画が撮りたいって思うようになっちゃって。
満月  へえー。
草津  東京の大学に合格したはいいんですけど、周りは才能ある奴ばっかりで。ただの映画オタクの僕はだんだんやっていけなくなったっていうか、居場所がなくなっていったっていうか。実際に仕事をするっていうのは、子供の頃思い描いていた夢とは随分違うものだなあなんて、がっかりしたのを覚えてます。
満月  それで、映画監督になるって夢は諦めちゃったんだ?
草津  そうですね。僕は普通に働いて、休みの日には大好きな映画を観て、それで良いかなって。その方が合ってるって思って。
満月  そうなんだ。
花江  夢を追いかけてた、あの頃憧れてた生活とは程遠いけど。今ではそれも案外悪くないって思うようになっちゃったなあ。

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