死が二人を分かつまで
「死が二人を分かつまで」

登場人物
絵里奈 白のパンツルック。スニーカー。
一場・五場、高校の制服。
三場のみ白いミニのワンピースに素足にサンダル。
鈴   迷彩戦闘服。
高彦  陸上自衛隊常装制服。褐色のジャケットにスラックス。
一場・三場高校の制服。
五場、高校制服とジャージ。
康一郎 紺のスーツ。
民兵A 黒の作業服のような、戦闘服のようなものを着用。
喫茶店のマスター 白ワイシャツ、スラックス、蝶ネクタイ。
ウェートレス 店の制服。
操縦士 声のみ。



開幕

第一場
 中央のみスポットライトが当たる。絵里奈、テーブルについて座っている。胸にカナリアの死骸を抱いている。しばらくの間。
 上手から高彦登場。スポットが当たる。パントマイムでノックをする。絵里奈、無反応。
高彦、もう一度ノックをする。絵里奈やはり無反応。高彦、パントマイムでゆっくりとドアを開けて下手に進む。丁寧にドアを閉める。
高彦 「会長…」
絵里奈、無言。無反応。
高彦 「会長!」
絵里奈「うるさい!」
高彦 「失礼しました…。しかし副会長たちが言っています。『生徒会室にカナリアの死骸を持ち込むのはやめてほしい』と…」
絵里奈「気持ち悪いって言ってるの? この子が? それともあたし?」
高彦 「会長…」
絵里奈「だいたいなんで自分で言いに来ないの? なんであたしが一年坊主に説教されなきゃならないのよ!」
高彦 「おれは、説教なんか…」
絵里奈「だったらメッセンジャーボーイ?」
高彦 「(ややムッとして)違います」
絵里奈「ならなんで自分が言えばあたしが言うことを聞くと思ったの? だいたいこの子は死んでなんかいないの! 眠ってるだけなのよ!」
 高彦、何も言わない。
絵里奈「あんたわからないの! さわってみなさいよ! ほら!」
高彦、下手に進む。ライトの明かりが一つになる。絵里奈からカナリアの死骸を受け取り、赤ん坊のように大切に抱える。
絵里奈「わかった?」
高彦 「はい」
絵里奈「だけどこの部屋は寒すぎる。このままじゃ冷たくなってしまう。高彦! ペットショップに行って『ひよこ電球』を買って来い! 一時間以内にもどれ!」
 高彦、カナリアを絵里奈に返し、にっこりと笑う。
高彦 「わかった。三十分以内にもどる。待ってろよ…、絵里奈!」
高彦、ドアを乱暴に開けて(パントマイム)上手に走る。退場。
絵里奈「(カナリアの死骸に頬ずりして)今までありがとう…。あたしはもう大丈夫よ。だって…、あいつがいるから」
絵里奈、カナリアの死骸を抱いたまま上手に向かって歩く。退場。
ライトが消える。
ナレーション「(絵里奈の声)あれから数年の月日が流れた。私は日本から一万五千キロ以上離れた遠い異国にいた。この国は三十年以上続いた内戦がようやく終結し、現在は停戦監視のために数カ国の軍隊が駐留している。そしてこの土地の復興を支援するために日本の自衛隊も派遣されていた。しかし内戦こそ終わったとはいえ、多くの人々が飢えに苦しみ、人心は荒廃し、国中に武器があふれ、政府に力はなく、治安は最悪だった。そしてわたしはある日、ついにこの国で最も危険な存在、『グレアナ民兵』に捕らえられてしまった」
 パッと照明がつく。
第二場
 屋内。舞台中央に民兵、上手側に絵里奈が向かい合って立っている。上手側にテーブル。その前で康一郎が正座している。
民兵A「この国には、日本に帰ったら滅多に見られないものがたくさんある。本物の鉄砲、本物の殺人、そして本物の死体!」
絵里奈「わたしはもともと日本に帰るつもりなんかないわ」
民兵A「なるほど。あんたが日本を捨てたのは悪くない判断だ」
絵里奈「おあいにく様。たとえ日本を捨てたとしても、この国を拾ったりしないわよ」
民兵A「……(康一郎を見て)そちらのお兄さんはどうだ?」
康一郎「何でも捨てるから命だけは助けて下さい…」
民兵A「おれはあんたの命がほしい」
康一郎「ひっ…」
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