どくろ(パイロット版)
 舞台は蔵の中に作られた座敷牢。
 そこは村の庄屋が作った蔵で、座敷牢以外には何もない。
 座敷牢の中には女が一人閉じ込められている。貧相な身なりで、うつろな目をして壁にすがって座っている。
 薄暗い蔵の中だが、小さな窓から今が昼であることが分かる。
 外からは子供たちの遊ぶ声が聞こえてくる。
 女、なんとなくわらべ歌を歌い始める。

女「こうべをおくれ、こうべをおくれ、かわいいややこの、こうべをおくれ……」

 座敷牢に、女中が一人、食べ物を乗せた膳を持って入ってくる。
 女中、檻の隙間から膳を滑り込ませる。

女「いつもごちそうさま。大変おいしゅうございました」

 女中、反応しない。
 黙って、牢の外にある膳を回収して出て行ってしまう。
 女、意に介さず、わらべ歌を歌う。

女「こうべをおくれ、こうべをおくれ、かわいいややこの、こうべをおくれ」

 女、不意に歌を止める。
 子供たちの遊び声が収まっている。
 女、立ち上がって窓の方に目をやる。
 間。
 不意に、蔵の扉がゆっくりと開かれる。
 女、そちらの方を眺める。
 しばらく待つが誰も入ってこない。

女「誰ぞ」

 扉の向こうから、子供が一人、恐る恐る入ってくる。
 子供、牢の向こうにいる女を見つめている。
 女、子供、しばらく見つめ合っている。

女「いけない子じゃ。ここには入ってはならぬと教えられておるのではないか?」

 子供、何も言わず、女を見つめている。

女「何をしておる。さっさと出ていかぬか。大人に見つかっては、折檻されてしまうぞ」

 子供、何も言わず、動かない。

女「何ぞ用事でもあるのか」

 子供、何も言わない。

女「用があるなら、はよう言わんか」

 子供、言わない。
 女、思わず笑ってしまう。

女「何も言わぬと、わしとしても手の施しようがないではないか。……分かったぞ。わしに何か用事があるが、大人に『口をきくな』と言われておるものだから、何一つ頼むことすらできぬのだな。しかしそれは困ったことじゃ。わしとしても、おぬしの力になりたくとも、喋らないのではいかんともしがたい」

 子供、何も言わない。

女「あきらめよ。喋ることができぬのであれば、黙ってここから立ち去った方が身のためぞ」
子供「どくろ」
女「何?」
子供「どくろ」
女「どくろ? 頭の骨のことか? どくろがどうした」
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