寸前家族 60分バージョン

(すんぜんかぞく)
初演日:2018/10 作者:八城 悠
「寸前家族」 60分バージョン
                 八城 悠
登場人物
    ・父   ・男1
    ・母   ・男2
    ・娘   ・女
    ・警官  ・強盗1
         ・強盗2

第一章 「邂逅」

          幕が上がると、そこにはリビングの見渡せる家がある。
          ソファーやテーブル、サイドボードといった一般的な調度品。
          舞台下手には玄関と通路、上手にはキッチンやトイレへと続く
          通路、リビング奥には階段等に続くドアが接続している。
          男2、周囲を窺いながら玄関のチャイムを鳴らす。
          応答がないのを確認して再度鳴らし、頷く。
          玄関の鍵を道具でいじる。カシャンという音。

 男2 「おっしゃ」

          きちんと靴を脱ぎ、細心の注意を払って歩を進める男2。
          キッチン方面から、ブタの貯金箱を持った女が近づいてくる。
          男2と女がリビングに入ると同時に、奥の戸から男1も。
          固まる三人。

男12女「あ」
  女 「ここんにちは」
 男12「こんにちは」
 男2 「何度もチャイム鳴らしたんだけどよ、返事がねえから」 
  女 「私も」
 男1 「じゃあ、お客さんですか」
 男2 「そうそう。決して怪しい者じゃねえぞ」
  女 「私も」
 男2 「この家の人、だよな?」
 男1 「そ、そうですけど。どちら様?」
 男2女「え〜と」
  女 「あ、コレ、そこに落ちてましたぁ」

          女、ブタの貯金箱を渡す。

 男1 「あ、ああ、ああ、探してたんですよ」
  女 「それはよかった」
 男2 「ブタ?」
 男1 「ところでええと」
 男2 「う。あ〜っと、さっきから気になってるんだが」
 男1 「はい」
 男2 「なんで2人とも土足なんだ?」
 男1女「…」
 男1 「ウ、ウチはホラ、アメリカンスタイルだから」
 男2 「ああ、アメリカンね。じゃあ、俺もクツ履いた方がいいのか?」
 男1 「いえ、そろそろ日本式に戻そうかなって。よし、脱ぎましょう」
  女 「は〜い」
 男1女「よいしょぉ」
 
          男1と女、靴を脱ぐ。

  女 「え〜と、玄関は何処だっけ」
 男1 「え〜とね」
 男2 「アッチだろ」
 男1 「そうです、アッチですよ」
  女 「や〜ね」
  
          男1女、笑いながら玄関に靴を置くと、外に警官が現れる。
          警官、チャイムを押す。音は出ない。

 警官 「ごめんくださ〜い」

          一同、ビクッとしてストップモーション。 

 警官 「警察で〜す」

          一同、慌ててリビングに戻り、息を殺す。

 男2 「いいのか、出なくて」
 男1 「ば、馬鹿言わんで下さい」
 警官 「おや?」

          警官、聞き耳を立てる。
          息を呑む一同。

 警官 「気のせいか」

          警官、踵を返し退場。
          へたり込む一同。お互い、顔を見合わせる。

 男1 「まさか」
 男2 「ひょっとして」
  女 「もしかして」
男12女「あははははっ」
 男1 「そういう事ですか。あなたも?」
 男2 「お前も?」
  女 「あんたも?」
男12女「泥棒!?」

          男2、道具袋をテーブルに置き、くつろぎだす。

 男2 「な〜んだ、慌てて損したぜ」
  女 「阿呆みたいな偶然ね」
 男1 「あなた達、同じ家に入ってどうするんですか」
 男2 「そりゃコッチの台詞だ。だから土足だったのか」
  女 「じゃ、あなたは玄関から?」
 男2 「おう。鍵をこうカチャカチャと」
  女 「勝手口のドア、開いてたのに」
 男1 「奥の窓、開いてたのに」
 男2 「マジか。なんて不用心な家なんだ」
  女 「もう、家の人に見つかったかと思ってビックリしたよ」
 男1 「やあ失敬失敬」
 男2 「さて」
 男1 「そうですね、そろそろ」
  女 「どこ行くの」
 男1 「同じ家に泥棒が3人もいたって仕方ないでしょう」
 男2 「とんでもねえ家だよな、ここ」
 男1 「私は別な獲物探すから、此処はあげます」
 男2 「姉ちゃん持ってけ」
  女 「マジで。サンキュ〜」
 男12「さてそれじゃ」

          突然、奥からパジャマ姿の娘がリビングに入ってくる。
          泥棒達と娘、目が合う。


第二章 「虚偽」

  娘 「こんにちは」
男12女「こ、こんにちは」
  娘 「誰?」
男12女「え〜と」
  娘 「お母さん達は?」
 男1 「お出掛けのようです」
  娘 「ふ〜ん」

          娘、女が持っているブタの貯金箱に気づく。

  娘 「あ〜っ、それ、ウチの貯金箱っ!」
  女 「これ?」
  娘 「ほら、ここに私が書いた盲腸の傷がある」
  女 「あらホント」
  娘 「分かった。あなた達、泥棒ね!」
男12女「(首振り)ブルブルブルッ」
  娘 「留守だと思ったんだろうけど、そうはいかないわ。この静香様が二階でグ〜
     スカ眠ってた事に気づかないなんて、間抜けもいいとこ」
 男2 「違うぞ」
  女 「全くの誤解」
  娘 「じゃあ、その貯金箱は何なのよ」
  女 「これは」
  娘 「ま、まさか。…手切れ金っ!?」
  女 「え」
  娘 「すると貴女は、愛人っ?」
  女 「……そう、愛人」
  娘 「お父さんの?」
  女 「お父さんの」
  娘 「あの親父〜。でもその愛人がなんで此処に」
  女 「そりゃあ、泊まってたんだもん」
  娘 「泊まってたぁ?」
  女 「そう」
  娘 「同じ部屋に?」
  女 「うん」
  娘 「お母さんもいたのに?」
  女 「こっそりと」
  娘 「あのクソ親父〜。でも或る意味スゴイ」
  女 「これで分かったでしょ」
  娘 「う〜ん。じゃ、貴方は?」
 男2 「俺? 俺はね」
 男1女「(頑張れ!)」
 男2 「愛人」
 男1女「おいっ!」
 男2 「奥さんとフォ〜リンラブ」
  娘 「お、お母さんも!」
 男1 「(男2に)貴方にゃオリジナリティってもんは無いんですか」
  娘 「何、この家は両親揃って浮気してるっていうの」
  女 「あははは、そういう事になるね」
 男2 「参ったな」
  娘 「でも、どうして互いの浮気相手が此処に?」
 男1 「説明しましょう」
  娘 「わっ」
 男1 「私、探偵事務所の者です」
  娘 「探偵さん?」
 男1 「はい。ある時、私の所に2件の浮気調査依頼が舞い込みました」
  他 「ふんふん」
 男1 「依頼主は彼の奥さんと彼女の旦那さんです。私が調査を進めると、驚くべき
     事実が。この2人の相手というのが、あろうことか」
  娘 「ウチの両親だったと」
 男1 「彼を尾行していたら、なんと目的地はこの家。しかも家から顔を出したのは
     彼女でした」
 男2 「頭痛い」
 男1 「まさに悲劇っ、なんとターゲットが私に勘付いてしまった! しかし、逃れ
     ようのない状況証拠! 上がり込んで二人を問い詰めようとしたところで!」
  娘 「私が起きてきた、と」
 男1 「そういう訳です」
  娘 「なるほど」

          娘、深刻な顔をして考え込む。

 男1 「なんとか辻褄は合いましたね」
  女 「ギリギリね」
  娘 「つまり、貴女がお父さんの愛人で、貴方がお母さんの浮気相手。あなた
     がそれぞれを調査していたら、なぜかこの家に集まった」
 男1 「いぐざくとりぃ」
  娘 「とんでもない偶然ね」
 男2 「全くだ」
  娘 「ところで問題のウチの両親は何処へ消えたの?」
男12女「さあ」

         そこへ再び警官が鼻歌まじりに現れる。鳴らないチャイムを押す。

  娘 「どうせパチンコと買い物だろうけど。帰って来たら修羅場ね」
 男1 「そこで提案なんですが、この場は一度」
 警官 「ごめんくださ〜い、警察で〜す」
男12女「!」
  娘 「あれ、ちょっと待ってて。は〜い!」

          娘、玄関へ。慌てる泥棒達。

 男2 「やばい」
  女 「バッドタイミング」

  娘 「(出迎えて)な〜んだ」
 警官 「『なんだ』とはなんだ」
  娘 「はいはい」
 警官 「寝てたのか、その格好は」
  娘 「ちょっと風邪ひいちゃって」
 警官 「平気か」
  娘 「うん。熱もだいぶ下がったし」
 警官 「何とかは風邪ひかないはずだけどな」
  娘 「そういう事いうか」
 警官 「俺、さっきも来たんだぜ」
  娘 「もしかしてこのチャイム押した?」
 警官 「押した」
  娘 「だめだめ。これ壊れてるもん、ほら」

          娘、これ見よがしにチャイムを押すが、音は出ない。
          男2、ガクッとする。

  娘 「ね」
 警官 「本当だ」
  娘 「それで何の用?」
 警官 「うん。この頃空き巣が多発してて、戸締り強化を呼びかけてるんだ」
  娘 「へえ」
 警官 「だからくれぐれもって、おじさん達に伝えておいてくれる?」
  娘 「分かった」

          娘と警官、しばし四方山話にうち興じる。

  女 「ね、今のうちに裏口から逃げたら?」
 男1 「ナイスアイディア」
 男2 「そうだよ、今逃げりゃいいんだ」

          3人、荷物を持って逃げ出そうとする。

 男2 「靴は?」

          ピタリと止まる。

 男1 「しまった、玄関だ!」
  女 「やばいじゃん!」
 男2 「置いていこう!」
 男1 「駄目です。物的証拠ですよ!」
男12女「わぁ〜っ!」

 警官 「じゃ、よろしくね」
  娘 「バイバイ」

 男1 「タイムアップ。次の機会を待ちましょう」
 男2女「了解」

          警官は退場し、娘はリビングに。泥棒達はゼイゼイいっている。

  娘 「お待たせ。どうしたの」
 男2 「ちょっと心乱れる事があって」
  娘 「変なの」
 男1 「誰でした、お客さん」
  娘 「お巡りさん。幼馴染みなんだけどね。空き巣が多いから戸締りをしっかり、
     だってさ」
  女 「近頃は物騒だもんね」
 男12「まったく」
  娘 「でさ、親が帰ってこないうちにちゃんと聞いておきたいんだけど」
  女 「な、なに」
  娘 「これからどうするつもりなの? 私の見る限り、お父さんもお母さんも気付
     いてないみたいだし」
 男2 「そりゃそうだ」
 男1 「しっ」
  娘 「浮気してたなんて頭くるけどさ、やっぱ家族は壊して欲しくないよ…」
  女 「(男2を見る)」
 男2 「(男1を見る)」
 男1 「(合わせろ合わせろのサイン)」
 男2 「分かったよ」
  娘 「え」
  女 「貴女の話を聞いて決心した」
 男2 「そうだな」
  娘 「じゃあ」
 男2女「別れる!」
  娘 「ありがとう!」
 男2女「これにて一件落着ね」
  娘 「うん」
 男1 「安心したところですみません、水を一杯いただけませんか?」
  娘 「あ、ごめんなさい。お茶も出してなかった。ちょっと待ってて」

          娘、キッチンへ。ニヤリとする男1。

 男1 「よし、今のうちに靴を履いて逃げましょう!」
 男2 「あ、その為か」
  女 「アッタマいい」
 男1 「行きますよ」

          そこに景品袋を抱えた父と、買物袋を提げた母が帰ってくる。
          ガラッ。

男12女「!」

  父 「あれ? 開いてるぞ」
  母 「(沢山の靴を見て)お客さんかしら?」

          泥棒達、泣きそうな顔をしてヘタり込む。


第三章 「困惑」

  女 「勘弁して」

          ドタバタと娘が戻ってくる。

  娘 「なに、帰ってきちゃったの」
 男1 「そのようです」
 男2 「2人揃ってる」
  娘 「最悪ね」
  女 「どうしよう」
  娘 「出たとこ勝負。向こうも修羅場を恐れて合わせてくるでしょ」

          父母、リビングに入ってくる。

  父母「ただいま〜」
  娘 「お帰りなさ〜い」
  母 「もう大丈夫なの?」
  娘 「うん。それどころじゃなかったから。お父さんはまたパチンコ?」
  父 「見てくれ、粉々ポテチに飼ってないけど猫の缶詰、くそ不味いマシュマロ、
     二度と剥がれない瞬間接着剤、などなど微妙な物が盛り沢山だ」
  母 「留守番しててって言ったのに」
  父 「ウォホン。ところで、どちら様?」
  娘 「うん。こちら(女)ウチの親戚だそうよ」
 父母女「え」
  娘 「やだな、忘れちゃったの」
  女 「仕方ないよ。私がまだこ〜んなに小さかったころだもん」
  母 「御免なさい。どういった繋がりだったかしら」
  女 「えと、叔父様のお父さんの母方の子供の従兄弟の奥さんの孫にあたります」
  父 「よく分からんけど、随分遠いんだな」
  母 「もう一回言ってくれる?」
  女 「え、え〜と、叔母様の従兄弟の奥さんの兄の娘にあたります」
  父 「さっきと違くないか」
  娘 「気のせい、気のせい」
  女 「おじさんおばさん、久しぶり。わたし夢子ですよ〜」
 父母 「はあ」

  娘 「第1ステージクリア」
  父 「それでコチラは?」
 男1 「警察の者です」
  父 「警察?」

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