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怪物がやってくる

「怪物がやってくる」

□登場人物□
　・父（ターク／花巻卓也）
　・子（ジュリー／花巻珠里）

　父（ターク）が机の上でパソコンを使っている。机の上には写真立てが置かれている。

父（声）　街に謎のウイルスが発生して間もなく３ヶ月。かろうじて、私も娘も感染してはいない。周りの人はもう皆、おぞましい怪物と化してしまった。私たちも、もはや時間の問題であろうか。妻のように……。しかし、まだ諦めてはいけない。怯える娘を抱いてやれるのは私だけだから。それが、父としての使命である。それが、妻との約束である。私は――家族を守る。

　子（ジュリー）が入って来る。

子　　　　パパ……。

　振り返る父。

父　　　　お……（パソコンを閉じる）どうした？
子　　　　……ううん、何でも――

　その時、子のお腹が鳴る。

子　　　　あ……ち、違うの！あのね……。
父　　　　ジュリー。

　父、子の頭を撫でる。

父　　　　いいんだよ、何でも言ってみなさい。
子　　　　……何でもないの。
父　　　　何でもなくないって、お腹が言ってるぞ？
子　　　　……。
父　　　　お腹空いたんだな。よし、何か買って来よう。
子　　　　や、やめてよ！パパ！

　父にしがみつく子。

子　　　　やめてよ……ジュリーを、一人にしないでよ……。
父　　　　……。

　父、子と向かい合う。

父　　　　……何、ちょっと買い物に行くだけさ。そうだろ？
子　　　　危ないよ。
父　　　　でも、何か食べなくちゃ。力だって出ない。
子　　　　パパが怪物に食べられちゃうよ！
父　　　　大丈夫さ、パパは自衛官だったんだ。陸上自衛隊員。知ってるだろう？
子　　　　知ってるけど……。
父　　　　俊足のターク。昔はそんな風に呼ばれてたっけなあ。逃げるのだけは速かったんだ。はは、なんてな。
子　　　　……何で。
父　　　　え？
子　　　　何で大丈夫だって分かるの！？パパ、見たでしょ！皆で撃った機関銃も、おっきい戦車も、何にも効かなかったんだよ！？

　間。

子　　　　パパ……行かないでよ……大丈夫な訳、ないよ……。
父　　　　……ジュリー。大丈夫じゃないって思ったら、本当に大丈夫じゃなくなっちゃうよ。こういう時こそ、大丈夫だって思わなきゃ。ね？
子　　　　……。

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