- Cendrillon - 失われたおとぎ話

(さんどりよん うしなわれたおとぎばなし)
初演日:0/0 作者:三月

- Cendrillon - 失われたおとぎ話


◆登場人物◆

(現実)
 フレデリコ・ヴァンシュタイン … フレッド。口は悪いが一応学者。
 リア・グレイス        … 学者を志し修行中の学生。非常に好奇心旺盛。

(おとぎ話)
 レティシア … 幼い頃は純朴だったが、育った環境のせいで少々すれた性格に。
 カール   … 女好きな優男。どことなく高貴な雰囲気をまとっている。
 魔人    … 我こそは血の盟約により召還されし魔人イフリート。
 グレン   … レティシアの実父。甲斐性無しのくせにリゼルと不倫をする弱い人間。
 バジル   … ノースパークの農場主。年齢は60〜70歳くらい。基本的に良い人。
 ドリス   … リゼルの長女。気が強い。マリエラを潔癖症だと馬鹿にしているが、本当に潔癖症なのはむしろドリスの方。
 マリエラ  … リゼルの次女。姉のドリスと比べて穏やかな性格。前の父親から性的虐待を受けたトラウマを抱えている。
 リゼル   … ドリスとマリエラの実母。未亡人だったがグレンと再婚。徐々にその本性を現していく。


◆配役表◆

♂フレッド:
♀リア&リゼル:
♀レティシア:
♂カール:
♂魔人&グレン&バジル:
♀ドリス:
♀マリエラ:




リア 「先生、フレデリコ先生。リアですー」


扉を叩いてしばし待ってみたが、返事が返ってくる様子はない。
ノブを回してみるが、鍵がかかっている。


リア 「先生ー! 寝てるんですかー? 先生ーーっ!」


カチャリと鍵の外れる音。光を拒む瞼を開けるように、ゆっくりと扉が開かれた。
中から寝癖でぼさぼさの頭をした男が出てくる。


フレッド 「リア、お前ねえ……。ふあぁ……今日は休みだと言ったはずだが……?」

リア 「先生、おはようございます。お邪魔します」

フレッド 「ちょっと待てい。人の話を聞いてるのか? 今日は休みだ。また明日来い」

リア 「私は別に構いませんが?」

フレッド 「おい、会話が成り立ってないぞ。たまの休みくらいゆっくり寝たいんだ俺は」

リア 「だから構いませんってば。先生は寝てらしてください。私は勝手に自習していますから」

フレッド 「俺が構うんだ。自習なら家でやりゃいいだろう」

リア 「だって、家だと緊張感がなくって集中できないっていうか。ここなら資料もたくさんあるし……」

フレッド 「ウチは図書館じゃないぞ。まったく……」

リア 「へへ、お邪魔しまーっす」

フレッド 「ほんとに俺は寝るからな」

リア 「わかってますって」


かりかりかり……。
大量に本が積み上げられた机。
その机上のわずかなスペースで、リアが右手でノートにペンを走らせ、左手では本のページをめくっている。


リア 「この世界には、正と負のエネルギーが存在し、白と黒、光と闇のように分類されるものである。ふんふん……」

フレッド 「だまってやれ」

リア 「あ、先生起きたんですか?」

フレッド 「お前がいちいち声に出して読むから、耳障りで眠れないんだよ!」

リア 「ごめんなさい」

フレッド 「ったくもう」


布団を頭からかぶって寝入るフレデリコ。
しばらくして――。


リア 「せんせ、せんせー?」

フレッド 「……」

リア 「ここ、教えてほしいんですけど……先生?」

フレッド 「Zzz……(わざとらしくイビキ)」

リア 「……」


コンコンコン、玄関のドアをノックする音が聞こえる。


リア 「(鼻をつまんで)すいませーーん! お届けものでーす!」

フレッド 「っ……なんだあ? はいはい、ちょっと待って」


ガチャ。ドアを開く。


リア 「うそつき」

フレッド 「!!?」

リア 「タヌキ寝入り」

フレッド 「この……! ふざけた真似しやがって」

リア 「先生が質問に答えてくれないからです」

フレッド 「ここにある資料の山は何のためのものだろうなあぁ? リアグレイスくんん?」

リア 「うわぁ眉間にシワ寄りまくりです先生……凶悪」

フレッド 「ガルル! いっぺん殺すかこのアマ」

リア 「やっ、きょうあくじゃなくて、きょ、教育者としてどうなのかなーって思っただけで、はい」

フレッド 「ちっ。(ため息)……質問はなんだ?」

リア 「わ、聞いてくれるんですね!」

フレッド 「ヘッ、聞かなきゃ寝かせてくれねーんだろ」

リア 「へへー。えっとですね、この世界には大きく分けて正と負、ふたつの異なるエネルギーが存在してるんですよね」

フレッド 「ああ」

リア 「正のエネルギーは善、清きもの。負のエネルギーは悪、穢(けが)れたもの」

フレッド 「そうだ」

リア 「どうして負のエネルギーなんかあるんですかね?」

フレッド 「……は?」

リア 「この世が清く正しい力で満たされれば、争いも起こらないし、誰かを憎むこともない……。
    正のエネルギーばんざーい! ね、負のエネルギーなんて要らないですよね」

フレッド 「どちらか一方の力を失くすなんて、無理だぞ」

リア 「そうなんですか……?」

フレッド 「二つの力がせめぎ合って、バランスを保っているからこそ、この世界が成り立ってるんだ。
      光あるところに影あり。表裏一体だ。
      ま、もしどうしてもこの世に嫌気がさして、どちらかの力に偏った世界に行ってみたいって言うんなら……
      いっぺん死んでみるんだな」


どちらかの力に偏った世界。
人はそれを天国、または地獄と呼ぶ。


リア 「それは、遠慮させていただきます……」

フレッド 「はーーあ。すっかり目が覚めちまったよ。メシでも食うか……」

リア 「あ、私つくりますよ! 実は食材も持ってきてます。ぶい!」

フレッド 「当然だな。こっちは休みなのに働かされたんだ。あー、あとついでに掃除も頼むぞ」

リア 「働かされたって……ちょっと質問に答えただけじゃないですか」

フレッド 「それでも働いたことには違いない。
      あとな、掃除ってのは部屋が片付くだけじゃなくて、負のエネルギーを浄化する作用もあるんだ。
      お前、そのほうがいいんだろ?」

リア 「う……わかりました……」

フレッド 「なんだなんだ? そんな嫌々じゃあ浄化するどころか負のエネルギーが増えてしまうぞ。
      楽しくやるんだ! 楽しく! いーーやっほーゥ!!」

リア 「い、いーやっほぉ〜!」


右手を突き出して無理くりにテンションをあげる。
その右手が本棚からはみ出ていた本に当たった。
本はバサリと床に落ち、ホコリが舞う。


リア 「あ! すみません」

フレッド 「すごいホコリだな……。(手で払う)お? こいつは……”サンドリヨン”じゃないか。
      こんなとこにあったのか」

リア 「サンドリヨン?」

フレッド 「知らないのか? シンデレラ」

リア 「いえ、シンデレラは知ってますけど……」

フレッド 「サンドリヨンってのはシンデレラの別名だ。灰かぶり姫とも言うな」

リア 「へえぇ……」

フレッド 「お前も嫌々掃除やってたら、サンドリヨンみたいに魔人を喚(よ)んでしまうかもしれないぞ? 気をつけろ」

リア 「は、はい……。って、あれ? シンデレラに魔人なんか出てきましたっけ? 魔法使いなら出てましたけど」

フレッド 「む、そうか。再販された本には修正が入ったんだったな……。
      オリジナルのサンドリヨンには魔法使いもカボチャの馬車も登場しない」

リア 「ええ? それで代わりに魔人が?」

フレッド 「そう。継母や義理の姉たちから奴隷のような扱いを受けていたサンドリヨンは、
      憎しみのあまり、負のエネルギーを生み出していってしまうんだ」

リア 「……」

フレッド 「床板を一枚磨くごとに憎み、壁をひと拭きするごとに憎み……
      蓄積された負のエネルギーはやがて、サンドリヨン自身をも飲み込んでしまった。
      そして、姉たちが城の舞踏会に呼ばれた夜のこと」

リア 「ついに、禍々しい魔人を喚び出してしまう」

-----------------------------------------------------------------------------------------

バケツの水が勢いよくぶちまけられ、せっかく磨いた床が水浸しになってしまう。
バケツを倒したのは掃除をした張本人だった。

今日の努力が文字通り水の泡となったことを悔いているのか、俯き、小刻みに震えている。


(かすれた声で)
レティシア 「…………もう嫌。もう、もう、もう、もう……耐えられないッ……」


雑巾を床に叩きつけようと手を振り上げる。
が、力なく腕を降ろし水浸しの床をのろのろと拭きはじめる。


レティシア 「……ううぅ」


床を拭き、バケツの上で雑巾を絞る。
それを何度か繰り返し、ようやく床の水分を拭き取ることができた。


レティシア 「痛っ」


雑巾を絞るときに力を入れた所為だろうか。
ひび割れた指先から血が滴る。
それはバケツの水面に落ち、赤色の煙のようなもやをつくった。

カタカタ、カタ……
急にバケツが小刻みに震えだした。


レティシア 「なに……? きゃっ!?」


バケツから噴水のように水が噴きあがったかと思うと、それは紅蓮の火柱となり、人とも獣ともつかぬ姿に変わった。


魔人 「汝が血の盟約、ここに結ばれん」

レティシア 「ひ! ば、化け物!!」

魔人 「我こそは魔人イフリート。虐げられし者よ、汝の願いを三つだけ叶えてやろう」

レティシア 「ま、魔人……?」

魔人 「さあ、願いを言え」


灰とホコリにまみれた少女は、かすれきった声で問いかけた。


レティシア 「願い……ですって? ……なんでも叶えてくれるの……? 本当に……?」

魔人 「汝ごとき人間の願いを叶えるなど、たやすいこと。ただし、相応の対価を捧げよ」

レティシア 「命でも差し出せって言うの」

魔人 「汝の魂はすでに穢れきっている。そのようなものでは対価たりえない」

レティシア 「……ああそう。なら何を御所望かしら? ここには何も無いわ。私には、何も……」 

魔人 「まずは願いを言え。対価はその願いに比例する」

レティシア 「……わかったわ。本当になんでも叶えてくれるのね?」

魔人 「無論だ。魔人に二言はない」

レテイシア 「では……まずは声を。この喉をどんな歌でも歌える素晴らしい名器にして頂戴」

魔人 「よかろう」


魔人がレティシアに向けて手をかざした。
一瞬、喉を揺さぶられたかと思い驚いて出た声は、よく通りよく響く美しい声だった。


レティシア 「あーー……。あ〜〜〜〜。
       すごい……本当に変わってるわ」


魔人 「気に入ったようだな。さあ、次の願いを言え」

レティシア 「次は……美貌ね。この世で一番の美貌を私に」

魔人 「よかろう」


また魔人がレティシアに向けて手をかざした。
栄養不足で骨ばった胸はふくよかに、肌は生まれたばかりの赤ん坊のように白く柔らかに、
パサパサの髪は水に浸されたように潤い、あかぎれた手は絹のような肌触りとなった。
気付くと絶世の美女が、そこにいた。


レティシア 「これが……私? いいセンスしてるわね、魔人さん」

魔人 「これならば、かのクレオパトラも真っ青であろう。さあ、最後の願いを言え」

レティシア 「じゃあ最後は……服ね。お城の舞踏会で一番輝く、煌びやかなドレスを頂戴」

魔人 「よかろう」


三度目、魔人がレティシアに向けて手をかざした。
ボロきれのようだった服は、雪のように白く、宝石が散りばめられたシルクのドレスになった。


魔人 「サービスでガラスの靴もつけておいた」

レティシア 「あら、ありがと」

魔人 「願いは叶えた。さらばだ」

レティシア 「えっ、対価はいいの?」

魔人 「汝の真の願いが叶う時、われふたたび現れん」


そう言うと魔人は煙のように消えてしまった。


レティシア 「真の、願い……?」


ふと時計を見ると、針は午後10時を示していた。


レティシア 「もうこんな時間! 急いでお城に行かなくちゃ」

-----------------------------------------------------------------------------------------

リア 「かなり違いますね……っていうか原型留めてないんですけど」

フレッド 「まあな。しかしこっちの方がオリジナルだ。ここからもっと話は変わってくるぞ」

リア 「うーん」

フレッド 「いくら見た目が良くても、招待状のないサンドリヨンは城に入れてもらえなかった。
      だから仕方なく門番を殺して城に入ったんだ」

リア 「えーーーーーーーっ!!?」

フレッド 「ちょっと誘惑すりゃイチコロだったろうな。なんせこの世で一番の美貌を持った女だ。
      門番のほうも、殺されたって本望だったかもな」

リア 「ヒロインが人殺しかぁ……」

フレッド 「で、城に入って最初に見つけたのが継母だ。サンドリヨンは背後から音もなく近づき、手に持ったナイフで――ブスッ!!」

リア 「ぎゃ! あううぅ……」

フレッド 「で、偶然それを見てしまった上の姉も、ザクッ!!」

リア 「はうぅ!」

-----------------------------------------------------------------------------------------

目立たない場所に死体を隠すという大仕事をやり終えたレティシア。
壁によりかかって息を整えている。


レティシア 「はあっ、はあっ……!
       やった……やってやった!」

カール 「君!」

レティシア 「ッ!?」

カール 「ひどい出血じゃないか! こっちに!!」

レティシア 「えっ……? ちょっ、ちょっと!!」


なんとか死体は隠せたものの、返り血を浴びたドレスまではどうしようもなかった。
青年に腕を引っ張られ、衣裳部屋に連れ込まれる。二人のほかに人影はない。


レティシア 「は、離して! 人を呼びますよ!!」


青年は焦る様子もなく、口元に笑みを浮かべながら言った。


カール 「人を呼ばれたら困るのは、君のほうじゃないのかい?」

レティシア 「!」

カール 「脱いで」

レティシア 「な……!?」


面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh
E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。


ホーム