キドアイラク

(きどあいらく)
初演日:0/0 作者:マリー
キドアイラク

板野  女。駆け出し役者。
伴   男。感情を操る力を持つ。
城之内 男。通称ジョーさん。座長。
菊池  女。副座長。脚本演出。
中村  女。役者。
田久保 男。役者。
野澤  男。宅配便の従業員。
望月  女。研究員。

第一幕
物が散乱した稽古場。中村・田久保が演技をしている。

田久保「俺さ……1つ決めたことがあるんだ」
中村 「何?」
田久保「惚れた女は死ぬまで守る。自分のこの手で。だから……俺に守られてください!」
中村 「……ごめんなさい、あなたとは付き合えないの、田中くん」
田久保「どうして!」
中村 「私たち、実は……幼いころに生き別れた兄妹だったの!」
田久保「そ、そんな!」

 城之内が現れる。

城之内「はっはっは、そういうことだ。この子は諦めてくれたまえ、チミ」
田久保「誰だ!」
中村 「あなた……」
田久保「えっ」
城之内「すまないねぇ、私の妻がチミを弄んだようで」
田久保「そんな……こんなことって」

 板野が現れる。

板野 「(棒読みで)お父様!私、その人が新しい母親だなんて絶対に認めないわ!」
城之内「か、かなこ!どうしてここに」
中村 「あなた、子供がいたなんて、私きいてない!」
板野 「この泥棒猫!私の、私の……えーっと、」
菊池声「はいストップストップー!」

 菊池現れる。

菊池 「板野ちゃん、まだ台詞覚えてなかったの?」
板野 「すみません、菊池さん……」
菊池 「それと田久保、もっとテンションあげて!」
田久保「いやテンションあがんないですよ!なんですかこのドロッドロの展開!」
中村 「『愛してる〜愛憎渦巻く魔の48角関係〜』……」
田久保「もうタイトルからして昼ドラじゃないすか!」
菊池 「いいじゃない」
田久保「よくないでしょ!何、48角関係って。何、キャスト48人って。明らかに人数足りないじゃないすか!うちの劇団、役者4人しかいないんですよ」
菊池 「1人12役やれば……うん、いける」
田久保「殺す気か!」
城之内「はっはっはっは」
田久保「ジョーさん、笑ってないでなんとか言ってくださいよ」
城之内「いいじゃないの、楽しそうで」
中村 「楽しそうって言っても、人数足りないのは致命的ですよ。1人は戦力外だし」
板野 「すみません……」
城之内「仕方ないだろ、板野くんはまだ入りたての新人、わが劇団期待のルーキーだ!」
中村 「期待の?台詞も覚えられない上にめちゃくちゃ棒読みじゃないですか」
城之内「もー、中村くんは板野くんに厳しいなー」
中村 「城之内さんが甘すぎるんです。座長が甘やかしてどうするんですか」
城之内「だからジョーさんって呼んでって言ってるじゃ〜ん」
中村 「それで菊池さん、本気で私たちに1人12役やらせる気ですか?」
菊池 「ダメ?」
田久保「ダメっていうか……無理でしょ」
菊池 「わかったわよ、書き直せばいいんでしょ!もう。人数不足は深刻な問題ねぇ」
田久保「こんな小さい劇団で、48人もキャスト必要な脚本書く菊池さんも問題じゃ……」
菊池 「とりあえず、休憩しましょ。もうすぐお昼の時間だし」
城之内「そうだ!みんな、今日は良い知らせがあるから、昼飯買ったら戻ってきてくれ!」
田久保「はーい」

 城之内・菊池・田久保はけていく。

中村 「板野。……あんまり足引っ張らないでね」
板野 「……はい」

 中村はける。

板野 「……もうっ!あーっ、もう!バカバカ!ムカつくけど本当のことだから
言い返せないいぃー!はぁ。とりあえず、棒読みを直そう!
    ……(棒読みで)お父様!私、その人が新しい母親だなんて絶対に認めないわ!
    この泥棒猫!私の、私のお父様を返してよぉ……。なんだかさっきより、
私上手くなってない?この調子ならすぐにでも中村さんを見返すことが!」
伴声 「はははっ」
板野 「え?」

 伴が現れる。

伴  「いやー、いいなお前。役者?」
板野 「そうですけど」
伴  「今の台詞、いい感じだよ。滑稽で笑える」
板野 「……ほっといて下さい。関係ないでしょ、あなたには」
伴  「関係ない奴に批判されるのは嫌か?それはどうなのかなぁ。
    芝居を見るのは、全く関係ない奴らが殆どなんだろ」
板野 「そうだけど……。あ、そもそも、劇団に関係ない人がここに入っちゃだめですよ!
    ここは座長のジョーさんが個人で持ってる稽古場で……」
城之内声「おぉ、もう来てたのか、伴くん!」
板野 「え?」

 城之内・菊池・田久保・中村が戻ってくる。

伴  「どうも、城之内さん。お世話になります」
城之内「他人行儀だなぁ。今日から仲間なんだから、ジョーさんと呼んでくれ!」
中村 「城之内さん、こちらの方は?」
城之内「中村くん、話の流れを汲みたまえ。こちらは判くん。今日から新しく劇団に
入ってくれるんだ。板野くんと同い年だったかな」
板野 「えぇ!」
菊池 「もしかしてさっき言ってた良い知らせって、これのこと?」
城之内「あぁ。私も我が劇団の人数不足には頭を抱えていたからな。
    ミクシィで募集をかけたら彼が応募してくれたんだ」
田久保「ジョーさんミクシィやってたんですか」
城之内「改めて紹介しよう。彼の名前は伴敬一くん。役者志望で入ってくれたんだ。
    演劇の方も経験はあるんだよな?」
伴  「はい、かじった程度ですが」
菊池 「それは頼もしいわね」
城之内「よし、じゃあ改めて伴くん、劇団【】にようこそ!メンバーを紹介しなくてはな」
菊池 「私は菊池。この劇団の副座長で、脚本と演出担当よ。よろしくね」
伴  「よろしくお願いします。この間の公演、『大嫌い〜あなたの子供に恋をする〜』、
    とても感動しました」
菊池 「あら、見てくれたの!ありがと〜あれは私の中でも最高傑作なのよ〜」
田久保「本当ドロドロした話好きですね……。俺は田久保。役者だよ。よろしくな」
伴  「よろしくお願いします。田久保さんの演技、とても憧れていました」
田久保「いやそんな、俺の演技なんてまだまだだから!いやぁ照れるなぁ……」
中村 「役者の中村。よろしくね」
城之内「中村くんは厳しいからな、気をつけろよ」
伴  「はは、ぜひ厳しく指導してもらいたいです」
城之内「最後は、伴くんと同い年で最近入った板野くん」
板野 「……よろしくお願いします」
伴  「同い年だし、お互い頑張ろう。よろしく」
板野 「……ねぇ、さっきとキャラ違うよね?」
伴  「キャラ?あぁ、演劇をやる上で役のキャラを把握するのは大事だよな」
板野 「そうじゃなくて!」
田久保「さすが同い年だけあるなー。もう仲良しか」
板野 「違います!ねぇジョーさん、この人猫被ってますよ!」
伴  「ははは、おかしなことを言う人だ」
板野 「ちょっと……!」
中村 「板野、人にケチつける前に自分の演技力どうにかしな」
板野 「ぐっ……これでも私、皆さんがお昼買いにいってる間に、練習してましたよ!」
城之内「へぇ、感心感心」
菊池 「それじゃ、早速見せてもらいましょ!板野ちゃんの練習の成果」
板野 「えっ、今ですか?」
田久保「みんなお前には期待してるからな!」
菊池 「それじゃあ、さっきの脚本から適当に台詞言ってみて」
板野 「い、今はお昼休みじゃないですか〜」
城之内「稽古に休みなどない!一分一秒も無駄にできないのだ!」
板野 「えぇ!」
田久保「がんばれよー板野ー」
板野 「う、うぅ……わかりましたよ!いきますよ……!」

 伴、城之内たちにばれないように板野に手をかざす。

板野 「お父様!私、その人が新しい母親だなんて絶対に認めないわ!……あ、あれ?」
城之内「ちょっと、続けてくれ」
板野 「この泥棒猫!私の、私のお父様を返してよぉ……!」

 中村除く3人、拍手喝采。伴、手を戻す。

菊池 「どうしたの板野ちゃん!さっきと大違いじゃない!」
田久保「すげぇな!この短時間にどんな練習したんだよ!」
城之内「私はいつかやってくれると信じていたぞ!」
板野 「今私、なんで……」
城之内「これなら中村くんも、文句ないんじゃないか?」
中村 「……まぁまぁですね」
城之内「素直じゃないなー!そうだ、板野ちゃんまだお昼食べてないんじゃないか?
    頑張ったご褒美に買ってきてやろう!みんな行くぞ!」
菊池・田久保「おーっ!」
城之内「中村くんも!」

 城之内・菊池・田久保・中村はける。

伴  「よかったなぁ、大絶賛だったじゃねーか」
板野 「……ねぇ伴、今何かした?」
伴  「何のことかな」
板野 「とぼけないで。いくらなんでもおかしいよ。突然あんなに良くなるわけない」
伴  「なんだ、自分の力量はわかってるのか」
板野 「いいから答えてよ!」

 伴、板野に手をかざす。

板野 「(泣き崩れて)お願いだから答えてよぉ……気になるよぉ」
伴  「つまり、こういうことだよ」
板野 「……へ?」
伴  「俺には、感情をコントロールする力があるんだ」

 暗転。
 第二幕
 稽古場。板野が考え込んでいる。

板野 「うーん、あれって本当なのかな。信じられない……漫画やドラマじゃあるまいし」

 伴が現れる。

伴  「おはようございまーす。なんだ、お前だけか」
板野 「伴」
伴  「何警戒してるんだよ。あーそうだ、この前のこと、言いふらしたりするなよ」
板野 「やっぱりあれ、本当なの?」
伴  「この期に及んでまだ疑ってんのか?2回もお前で試しただろ」
板野 「だって、そんな漫画みたいな話……」
伴  「はぁ……仕方ねぇな、じゃあもう一度」
板野 「待って!今度は私じゃなくて、別の人にやってみてよ」
伴  「別にいいけど、今俺とお前以外誰もいないじゃん」
板野 「えーっと」

 宅配の荷物を持った野澤が現れる。

野澤 「おはようございまーす!」
板野 「あ、野澤さん!いいところに」
野澤 「おー板野、今日も元気そうだね!そちらは?」
伴  「伴です。先日ここに入団しました。よろしくお願いします。あなたは?」
野澤 「俺は野澤!宅配便の仕事してます!今日は城之内さんが頼んだウィッグを
    持ってきたんだ!あ、宅配便っていうのはな、荷物を届けるだけじゃないんだ。
    夢と希望も、届けてるんだ」
伴  「(うざそうな顔で板野に目を向ける)」
板野 「この人、ちょっと暑苦しいだけなの。気にしないで」
野澤 「新入りが来るなんて、この劇団も成長したな!俺もこの稽古場に荷物を届けて
    早……何年か経つけど、なんだか嬉しいよ!この調子で頑張れよ!」
板野 「伴」
伴  「あぁ、そういうこと」
野澤 「しかし2人とも朝早くから来て偉いな!これが若さのほとばしりってやつか!
    羨ましいねー!俺が若いころっていうのは、」

 伴、野澤にばれないように手をかざす。

野澤 「(泣き出し)俺が若いころっていうのはぁ、輝いててぇ……あぁ、もうあの頃には
    戻れないのか。う、うぅぅぅ」
板野 「の、野澤さん?」
野澤 「いいかぁ板野!伴!若さってのは大事だ!俺が教えられるのはそれだけだ……。
    悔いのない時間をぉ、過ごすんだぞぉ!うわああ!」

 野澤、泣きながら走ってはける。

伴  「これで信じてくれたか?」
板野 「本当だったんだ……野澤さん、泣きながらも暑苦しい人だったな」
伴  「で、言いふらしたりしないよな?」
板野 「どうして?バラされて困ることがあるの?」
伴  「色々あるんだよ、俺にも」
板野 「つまり弱みってこと?ふふん、じゃあこれから先私にもみんなと同じ態度で……」
伴  「別に言いふらしてもいいぜ。その代わり、この力で……」
板野 「ど、どうするつもり?」
伴  「哀しい気持ちにさせてやるよ。自ら死を選びたくなるくらいにな」
板野 「……誰にも言いません」
伴  「ならよし」
板野 「でも、なんで私にはバラしたの?」
伴  「……お前の為だよ」
板野 「え?」

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