不思議の国の王子様

(ふしぎのくにのおうじさま)
初演日:2018/7 作者:はないちらいち
不思議の国の王子様

はないち らいち

登場人物

森花子   ザ・アトミックキッドの広報担当
飛行士   飛行士
王子様   子供であることを強制された少年
羊1    病気の羊
羊2    雄(オス)の羊
羊3    老いた羊
田中    ザ・アトミックキッドの研究員(存在を消した男)
木村    一年生。級長。鈴木の友達/看護婦
岩井    一年生。鈴木の友達/原水爆廃絶協会会員
小島    一年生。鈴木の友達/原水爆廃絶協会会員
佐々木   教師/被爆者の調査をする男



  Chapter1.オープニング

    開場中、目の前のスクリーンには?潟U・アトミックキッドの広告が流れている。開演時間になると観客の前に一人の女が現れ、前説をし始める。

森    どうもみなさんこんにちは。わたくし、ザ・アトミックキッドの広報を担当しております、森花子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。本日は(雨天の場合は「足元の悪い中」と添えて)本会場にお集まりいただきまして誠にありがとうございます。こんな何もない秘境まで足をお運びいただき、感謝の限りでございます。さて、皆様はこれから目撃者となるわけですが、その前に、皆様にはあらかじめ諸注意がございます。

    スクリーンの映像とともに諸注意を行う。

森    まず、本会場内での飲食はご遠慮いただきますようよろしくお願いします。
    また、本会場は禁煙となっておりますのでおタバコはお吸いになられないようお願いします。
    携帯電話、カメラ等、音の鳴る電子機器の電源は必ずお切りいただきますようお願いします。
    カメラ、携帯電話による写真撮影、映像の撮影、音声の録音、通話等はされませんようお願いします。
    非常時の際は係りの者の指示に従って行動していただきますようよろしくお願いします。
    さて、皆さん、携帯電話の電源は切れましたか?切ってくださいね。理由はいわずともがなです。
    長々と失礼いたしました。それでは早速、本題に参りましょう。
    さて、昨今、我々の生活はいつ核に脅(おびや)かされてもおかしくない状況となってきました。周りの国を見渡せばどこの国も核兵器を所持し、もはやすぐお隣と言ってもいい国までもが核兵器の開発を完了し、所持しています。核の脅威は国外だけではありません。国内でも多くの原子力発電所が稼働しています。そんな中、私たちは廃絶を訴えるだけでよいのでしょうか?いいえ、いざというときのために身を守らねばなりません。そのために必要な備えは何でしょう?
    核シェルターの普及率において日本は大きく遅れをとっています。アメリカでは82%スイスやイスラエルは100%韓国のソウル市に限ってみれば300%に達しています。それに対し日本の普及率は0.02%と非常に低いです。核を廃絶することしか考えず、身を守ることには無関心で、能天気としか言いようがありません。しかし、核シェルターを数(かず)持っていればいいわけではありません。一家に一台、一人に一台あったとしてもいざ入ったときにさみしく、冷たく、孤独を感じてしまうような核シェルターに誰が逃げましょうか。それでいいのならインディージョーンズのように冷蔵庫の中にでも入っておけばいいじゃない。ねえ。
    これからの時代、求められるのは快適なご近所づきあい。いわばコミュニティーです。核家族から脱(だっ)し、多くの人と生活を共にしながら豊かな生活を営むのです。そこで我々が提案するのは、多世帯シェア型シェルター「雷池(らいち)」です。
    この度皆さんにお集まりいただいたのはほかでもありません。この「雷池」のプロトタイプのデモンストレーションを行いたくお集まりいただきました。デモの方法は簡単です。実は皆さんが本日お集まりいただいたこの建物。のこの部屋。がプロトタイプの「雷池β(ベータ)」となっております。要はこの近くに実際に核を落としまして、皆さんにこの安全性を体感していただければと思います。…ご心配なく。安全面はわが社が保証いたします。…あ、神様っていると思いますか?…万が一ということもあるかもしれません。各々お好きな神に祈りをささげておいてください。神を信じないって人は、私に祈りをささげておいてください。

    そう言いながら、森は核発射の最終確認を行う。

森    それではまいりましょう。3、2、1、…

    森が発射のスイッチを押す。
    サイレンの音が会場中に響き渡る。爆発音とともに会場は暗闇に包まれる。

  Chapter2.誘拐

    やがて舞台の幕が上がるが、そこには墜落(ついらく)したと思われる飛行機の一部と飛行士の姿が見える。
    飛行士は飛行機の部品を拾い集めながら破損部分の修理をしている。しばらくすると、そこへ王子様が現れる。

飛行士   (飛行機の修理に集中している)
王子   ねえ、何してるの?
飛行士   …
王子   ねえ、ねえってば。
飛行士   …
王子   ねえ。
飛行士   …
王子   ねえ、ねえ。
飛行士   …ちょっと静かにして。(そういって機体のレバーを引く。が、反応しない)もう!
王子   大丈夫?
飛行士   …うるさいな。どこかに行っててくれないか。
王子   直らないんじゃない?それ。
飛行士   …(再び修理を始める)
王子   ねえ、羊の絵を描いてほしんだ。
飛行士   ボアに飲みこまれた象しか描けないよ。
王子   僕が欲しいのは羊なんだ。羊の絵を描いてよ。
飛行士   君は一体何なんだ!
王子   ……
飛行士   (修理に戻る)
王子   おねがい…羊を描いて
飛行士   …これが終わるまで待ってくれないか。
王子   いつ終わるの
飛行士   分らない
王子   そんなに待てないよ。だって終わらないんだもん。直らないものを直そうとしてなんになるの。
飛行士   …わかった。描けばいいんだな。
王子   うん。
飛行士   羊ね。
王子   うん。

     そう言うと飛行士は弱々しい羊を描いてみせた。すると舞台上には弱々しい羊が現れる。

王子   違う!僕が欲しいのはこんな病気の羊じゃない!

     飛行士は改めて羊を描いてみせた。先ほどとは違い、角が生え、強そうな羊である。すると舞台上には角の生えた羊が現れる。

王子   違う!僕が欲しいのはオスの羊じゃない!違うんだ。

     続いて飛行士は角の無い羊を描いてみせた。すると舞台上には年老いた羊が現れる。

王子   年老いてるじゃないか!もっと若くて元気な羊だよ。
飛行士   どれだけ羊を描かせれば気が済むんだ。馬鹿にするのもいい加減にしろ。

     そう言って飛行士は箱を描いてみせた。すると舞台上には箱が現れる。

飛行士   この中に羊が入ってる。それでいいでしょ。
王子   これだよ!僕が欲しかったのはこの羊なんだ!

     そういって王子は箱へと近づく。すると羊はピストルを取り出し王子を射殺する。それを見ていた飛行士は背後から羊に抑えられ、箱の中へ拉致(らち)される。

     暗転


  Chapter3.試み

     暗転明けると、とある部屋。飛行士は椅子に縛られ、口にはさるぐつわをされている。

飛行士   ン…ンン……

    飛行士、拘束を解こうと力を入れるが解けない。
     そこへ、ヘッドギアのような装置を付けた田中が鼻歌交(ま)じりに入ってくる。

飛行士   んん…
田中   待て。何も言うな!
飛行士   んんん
田中   わかってる!わかってるから。
飛行士   んー。んんーー。mmンン。
田中   何も言うな!何も言うんじゃない!(叩く)
飛行士   んっ!……
田中   喋るな!喋らなくても分かることは分かる。分からないことは分からない。ことわざにもあるだろ、百聞は一見に如かずだ。見るんだ…
    …見ればわかる。
飛行士   ……
田中   よーし。いいぞ。良い目じゃないか。
    …そうだ。そうだ…そのままだ。

    男は自分の頭につけていた装置を飛行士の頭に取り付け始める。男は飛行士を見つめるが、飛行士は目をそらす。

田中   見ろ!しっかり見ろ!私の目をしっかり見るんだ。見ろ!
    私が何を考えてるか考えるんだ。目は口ほどにものを言う。目を見るんだ。口でどんな出まかせを言っていたとしても目を見れば真実が見える。
飛行士   …
田中   君はその目で真実を見ているか?五感の中でも目は多くの情報を与える。どれだけのものを見てきた?どれだけのことを知っている?それはとても大事なことだ。

    田中は飛行士に装置を付け終え、VRゴーグルを飛行士につける。
    田中、鼻歌交じりにさるぐつわを解く。

田中   目も口も奪ってしまったらあまりにもひどい。口は解こう。(さるぐつわを取る)
飛行士   んっぁ!おい!はぁ。おい!やめろ。やめてくれ。解いてくれ!

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