スーパースイーパー

(すーぱーすいーぱー)
初演日:2009/4 作者:あやし
とりにく 番外編公演 やきとり企画


スーパースイーパー


登場人物

青山タカシ  店長   潰れそうな清掃会社の社長兼店長。
緑川さやか  バイト   ゲームと漫画が好きな清掃会社のアルバイト。
桃井はるか  依頼人   新聞の広告を読んで、殺しの依頼をしに来た女性。
紫藤みく  ロリィタ少女 新聞の広告を読んで、自分を殺してもらう為に来た自殺志願者。
浅黄ライラ  シスター  新聞の広告を読んで、考えを改めさせるために来たシスター。
黒田ゆうすけ 殺し屋   新聞の広告を読んで、自分を雇ってもらう為に来た殺し屋
赤坂けいご  警察   新聞の広告を読んで、一応やってきた警察。
桃井ひろし  ターゲット  新聞の広告を読んで、殺しの依頼をしに来た男性。

------


場所   東京のとあるビルの中にはいっている清掃会社。

舞台下手に大きめの事務机と電話、上手にはソファーと適当な箱で作られた

ローテーブル、それと数個のパイプイスがある。

全体的に雑然としている。

その中央に、サボテンダーみたいな格好で倒れている店長。(客入れ時から)

------

[ 暗転 ]

------

明かりがつくと、奥から声。


バイト   「(やる気のない感じで)おはようございまーす。」


バイト登場。

手には荷物と〒物と新聞。


バイト   「てんちょー、なんかガスの請求が…。」


中央で倒れている店長を見つける。

近づき、じっと店長を眺める。

後、おもむろに手に持っていた新聞紙を店長にかけてから、壁のホワイトボードに

勤怠の書き込み。


バイト   「出勤……と。」


ソファーに移動、座って自分が持ってきた漫画を読み始める。(ついでにお菓子も食べる)





店長   「おかしくないぃぃぃぃぃぃぃ?」


突然大きな声と共に起き上がる店長。

(この後の会話、一生懸命に話す店長と漫画を読む片手間に相手をするバイト)


バイト   「あ、おはようございま……。」

店長   「おかしい、おかしいよ緑川く……。」

バイト   「あ、食べます?」

店長   「いや、お菓子じゃなくて……(自分の上にかけられた新聞紙を見て)
     なに、これ。」

バイト   「新聞です。」

店長   「何故に俺の上?」

バイト   「そんな所で寝てたら寒いかな、と思って。優しさです。」

店長   「薄いな優しさ……。じゃなくて、違うじゃん、そうじゃないじゃん。」

バイト   「何がですか?」

店長   「普通さ、バイト先に来てさ、事務所の真ん中に人が倒れてたらさ、もっとこう、なんかあるでしょ。
     驚くとか、とりあえず生死の確認をしてみるとか、警察に電話するとか、病院に電話するとか。」

バイト   「あー、精神。」

店長   「救急!」

バイト   「寝てるのかと思ったので。」

店長   「普通寝ないよ、床にあんな格好で。」

バイト   「新しい健康法かと。」

店長   「ないよっ、そんな健康法!」

バイト   「え、ないんですか?」

店長   「あ、いや、しらないけど。」

バイト   「なんだ。」

店長   「なんだとはなんだ。」

バイト   「……なんでしょう?」

店長   「いや、聞き返されても……。」

バイト   「なんだ。」

店長   「だから、なんだとはっ。」

バイト   「なんでしょう?」

店長   「わぁ……デジャヴュ。」

バイト   「で、今日は何の真似だったんですか?」

店長   「……別に、真似とかじゃないもん。」

バイト   「なるほど、『返事がない、ただの屍のようだ』ごっこですか。」

店長   「違うよ。」

バイト   「じゃぁ、なんなんですか。」

店長   「何って……、(もったいぶって)緊急トラブル対応訓練。」

バイト   「へぇー。」

店長   「ちょ、流さないでっ、流さないでっ。
     もっと『え、それ何ですか?』とか『どういう事ですか?』とか聞いて、興味もって!
     俺、一人でここにずっと寝てたんだよ。(時計をみて)正確に言うと○○分くらい。
     マジデ。すげぇ寂しいの、ここで寝てると。固いし、動けないし。
     そんな俺の気持ちを汲んでよ、それなりの反応をしてよっ!」

バイト   「……『(可愛く)緊急トラブル対応訓練って何ですか?』」

店長   「説明して欲しい? 説明して欲しい?」

バイト   「(めんどくさそうに)はい。」

店長   「(嬉々として)説明しよう。緊急トラブル対応訓練というのは、
     緊急のトラブルが起こったときにする対応の訓練を行うという事だっ。」

バイト   「へぇ。」

店長   「……。」

バイト   (漫画読んでる)

店長   「(バイトに凄く近づいて)おーわーりーにーしーなーいーでーーー。」

バイト   「うわぁ。」

店長   「俺が必死に場を盛り上げようとしてるんじゃんっ。
     代わり映えのしない毎日に、少しでも花を添えようとしてるんじゃんっ。
     室井さん、事件ですねってくらい言ってよ!」

バイト   「ココは湾岸署じゃないし、青島さんは、そんな台詞言いません。
     だいたい古い。
     今なら、最低でもコナンかストレイドッグくらいに……。」

店長   「ツッコミはそこじゃなくない?」

バイト   「私3次元にあんまり興味ないんで。」

店長   「君の生きてる世界だよっ!」

バイト   「何なんですか、さっきから。」

店長   「暇なの。」

バイト   「は?」

店長   「ひーまーなーのっ。」

バイト   「(にこやかに笑って)……そうですか。」


バイト、再び漫画を読む。


店長   「うわぁぁぁぁん、暇なんだってばぁぁぁぁぁー。」(床を転がる)

バイト   「子供ですか。」

店長   「年齢のことは言っちゃイヤ☆」

バイト   「(無視)そんなに暇なら、それ(新聞)でも読んでたらどうですか。」


 店長、新聞を適当に広げて読む。(音読)


店長   「昨日未明……(事件を音読、いじめ、汚職、無差別殺人とか)
     ……何か、いつみても同じような事がのってるよね、こーいうのって。」

バイト   「そうですか?」

店長   「現実なんてこんなもんだー って、言われてる気がするっつうかさー。」

バイト   「はぁ。」

店長   「あー……つまんない。
     なんかさー、もっとさー、パーッとしたこととか起こらない。」

バイト   「例えば?」

店長   「密室殺人とか。」

バイト   「それ……ぱーっとした事なんですか。」

店長   「まぁ、ちょっと例えがあれだったかもしれないけどさ
     スリルとサスペンス! っていうかさ、そういう感じの。」

バイト   「紛争地域にでも行ってきたらどうですか?」

店長   「やだよ、メンドクサイ。」

バイト   「……。」

店長   「俺さー、明日誕生日なんだよねー。」

バイト   「あ、そうなんですか?」

店長   「そうなんだよ。
     信じられる? 三十だよ、三十。 明日で三十っ。
     なっちゃうんだよね、とうとうなっちゃうんだよねー。大台だよ、大台。
     なのにさ、毎日毎日同じ事の繰り返しばっかり。
     世の中不景気だし、面白いことは何も起きないし。
     俺さー、このまま40になって、50になって……年取っていくのかなって思うと
     なんかさー、こう、釈然としないわけよ。やるせないわけよ。
     このままでいいのかなーとかさー、思っちゃうわけよ。
     生きてる意味とか考えちゃうっていうかさー。
     もう、本当、俺、何の為に生きてんのかなぁー、とかさー。」

バイト   「あ、そうだ、ガスの請求書きてましたよ。」

店長   「わお。スルーだ、スルー、俺の話全スルー。割としんみりとした良いこといってたのに。
     全力でスルー! だ。」

バイト   「ルルの真似なら『全力で見逃せ』ですよ。
     それより、いいんですか店長。今日払わないと止められて……。」

店長   「社長。」

バイト   「え?」

店長   「店長じゃなくて、社長。」

バイト   「……どっちでも同じじゃないですか。
     社員一人しかいないんすから。」

店長   「社長。」

バイト   「(ため息)……いいんですか、社長。」

店長   「よくない。」

バイト   「じゃぁ。」

店長   「貸しておいて。」

バイト   「は?」

店長   「今さー、事務所の経営超ピンチなんだよね。
     だからさ、次の仕事入ったら返すからガス代、立て替えておいて☆」

バイト   「どこの世界にバイトから金を借りる社長がいるんですか。」

店長   「店長だもん☆」

バイト   「……リアルマダオだ。」

店長   「とにかくさ、お願いっ。」

バイト   「入ってるんですか?」

店長   「何が?」

バイト   「次の仕事。」

店長   「んー、入ってると言われれば入ってるといえなくもなくも……。」

バイト   「(ホワイトボードを見て)白いです、真っ白です。」

店長   「正しいホワイトボードだよね。」

バイト   「私、今月でここにきて3ヶ月になるんですけど
     バイト代とか貰ったこと……1度もない気が。」

店長   「あれー? そうだったっけ。」

バイト   「……まぁ、仕事も1度もありませんでしたけど。」

店長   「ま、そういう時期もあるよね。」

バイト   「ありませんよ、普通は。」

店長   「(シリアスに)普通ってなんだろうね。」

バイト   「ごまかせてませんよ。」

店長   「あれぇぇ?」

バイト   「まぁ、別にいいんですよ。
     お金が目的でココにいるわけじゃありませんし。
     ただ、私的にはココが潰れてもらったら困るんですよ。」

店長   「え?」

バイト   「私、なんとしてでもココで働いていたいんです。」

店長   「緑川君……君。」

バイト   「だって、条件が超ぴったりなんですもん!!!」

店長   「……条件?」

バイト   「そうです。
     池袋にある清掃会社、社員はマダオが1名だけ、雑居ビルの一室、汚い部屋、
     上下には風俗店と飲食店で隣は公園。
     完璧です、ここまで条件がそろう所なんて中々ないんですよっ。」

店長   「はぁ。」

バイト   「だから、絶対にココは潰れて貰っちゃこm……。」

店長   「あ、あのさ……さっきから一体なんの事を?」

バイト   「何って、ここがいかに条件に当てはまってるかというのを。」

店長   「何の?」

バイト   「何のって、スーパースイーパーに決まってるじゃないですか。」

店長   「すーぱー?」

バイト   「やだな(漫画を出して)これですよ、これっ。」

店長   「……これ?」

バイト   「そうですっ、我が愛しのスーパースイーパー-闇の殺し屋-。
     今週は表紙&センターカラーなんですよっ。」

店長   「……漫画?」

バイト   「漫画じゃありません、スーパースイーパーです。」

店長   「……漫画じゃないの?」

バイト   「漫画です。」

店長   「……。」

バイト   「って、え、もしかして店長、読んだことないんですか?」

店長   「漫画読まないんだよね。」

バイト   「うわっ、信じられない。
     人生の半分は損してますよ。」

店長   「……そうでもないとおもうけど。」

バイト   「そうですっ。」

店長   「はぁ。」

バイト   「あ、なんですかその顔。「漫画なんかで」とかバカにしちゃってます?
     甘い、甘いですよ、人生の全てがソコにあるんです。
     この世の全てをソコに置いて来たんです!
     あ、これワンピースのほうじゃなくてレディプレイヤー1のほうで再生してくださいね。」

店長   「なんのはなし?」

バイト   「とにかく、このスーパースイーパーは、本当に本当に本当に最っ高なんですよ。
     原作は100万部を越えたベストセラー、
     アニメ放送も数回行われてますし、ドラマや実写映画にもなって
     スピンオフの番外編小説だって出てるんですからっ!」

店長   「そう、なの。」

バイト   「あ、よかったら貸してあげますよ、明日持ってきますね。」

店長   「いや、でも。」

バイト   「汚したときの心配とかはしなくていいですよ、布教用の方を貸しますので。
     私、5冊持ってるんですよー、全巻5冊。
     ほら、普通は3冊ずつじゃないですか、でも コレだけは5冊買ってるんですっ。」

店長   「はぁ。」

バイト   「今のところ17巻まで出てるんですけど、本誌の方ではヤバイ事になってるんですよ。
     未来編が始まっちゃって……。

店長   「ちょ、ま、待った、待った。」

バイト   「はい?」

店長   「話がみえないんだけど……、ウチとソレに何の関係が?」

バイト   「わかんないんですか?」

店長   「はぁ。」

バイト   「……スーパースイーパーは凄腕の殺し屋の話なんです。」

店長   「だろうねぇ、タイトル的に。」

バイト   「主人公の金田徹雄は世を忍ぶ謎のヒットマンなんですけど、
     昼間は都内にあるうらびれて今にも潰れそうな清掃会社の社員なんです。
     その事務所の描写が、ここにそぉぉぉぉぉぉぉくりなんですよ。」

店長   「……もしかして。」

バイト   「私、ココを探すまで100以上の清掃会社に面接いったんですよぉ。
     でもどこも綺麗で社員さん沢山いて、で、もう島事務所……あ、島事務所ってのは金田様の働いてる
     清掃会社の名前なんですけど、 そこに似てる所なんて、やっぱないのかなぁ……とか思ってる所
     にココを発見ですよ、いや、ほんと、超運命ですよね。」

店長   「ウチで働いてるのって……漫画の為?」

バイト   「金田様に少しでも近い環境で暮らしたかったんですよ。」

店長   「……。」

バイト   「まぁ、でも、欲を言うなら、もう少し仕事の依頼が多いと良いんですけどね。
     これじゃぁ裏の仕事依頼が来たときのカモフラージュが出来ませんよー。」

店長   「いや、裏も表もウチ清掃会社だから……。」

バイト   「あ、良いこと思いつきましたっ。

 ここも普通の清掃業だけじゃなくて、殺し屋も始めちゃいませんか。」

店長   「そんな気軽に。」

バイト   「いいじゃないですかっ、普通の仕事ぜんっぜんないんですし、
     何より儲かりますよー、ガス代も滞納しなくてすみますし、経営ピンチも脱出ですっ。
     さらには店長が望んだサスペンス的な事だって起こりますよっ、きっと。」

店長   「……起こす側は、ちょっと。」

バイト   「(店長の台詞聞かずに)広告だってスーパースイーパーと同じく新聞に三行広告だして……。」

店長   「広告?」

バイト   「スーパースイーパーが裏の仕事を引き受ける時は、新聞に3行広告出すんですよっ。
     『萬お掃除引き受けます、金一千万から 島清掃社』って。
     あ、でも、広告出すといっても表の清掃業で色々絡んだ人たちの辛い過去とか、
     境遇とか見た後に地方紙にそっと出して、その人の所に置いていくっていう
     決まりがあるんですけど。
     その時の、清掃会社員から殺し屋に変わるときの金田様の格好良さといったら
     あぁ、もう、そこにシビれる憧れるゥっ!!!」

店長   「三行広告……(側にあった新聞をじっと見て)
     ……いいかもしれない。」

バイト   「ですよねっ!ですよねっ!」

店長   「うん、面白いかも。」

バイト   「やったぁ! じゃぁ、明日からココも殺し屋に……。」

店長   「(はっと我に返って)ちょ、ま、違う、違うからね。
     ウチは殺し屋はやらないよ。」

バイト   「でも今。」

店長   「俺が面白いっていったのは、広告だよ。」

バイト   「へ?」

店長   「スーパースイーパーって、流行ってるんでしょ?」

バイト   「もちろんっ。」

店長   「(新聞をだして)新聞の三行広告は場所もすみだし、
     そんな小さい所に広告をだしても普通は印象に残りにくい、
     しかし、そこに流行ってる漫画と同じ文句で広告を出せば……。」

バイト   「インパクトはありますねっ。」

店長   「それが切っ掛けで濡れ手に粟的な展開に……。
     面白広告とかで話題になって、雑誌とかにも取材されちゃったりして。」

バイト   「それは……どうかと。」

店長   「よし、善は急げだ! 緑川君、新聞社に行ってきて。」

バイト   「私がですか?」

店長   「だって俺、その漫画のことよくわかんないもん。
     とにかく漫画と同じ告知、出してきてよっ。
     細かい所は適当にウチの情報に合わせた感じでさっ。」

バイト   「そんな適当なー。」

店長   「いいじゃないか形だけでも。
     あこがれの金田にまた一歩近づけるよっ。」

バイト   「……行ってきます。」


 バイト、すくっと立ち上がってはけ口へ。


バイト   「あ、広告費。」

店長   「貸しておいて、仕事が来たら色つけて返すから。」

バイト   「えぇ。」

店長   「金田金田っ。」

バイト   「……様をつけて下さいっ。」


バイト、出て行く。


店長   「よぉしっ。」


ブル暗。

ウキウキしながらはけていく店長。

素敵な曲。


【タイトル】

タイトルパレード


明転。

誰もいない舞台。


バイト   「おはようございまーす。」


バイト登場、手には新聞。


バイト   「店長、新聞きてまっ……、あれ?」


バイト、周囲を見渡すが店長はいない。

いぶかしんでる間に、店長登場。


店長   「あー、おはよう。」

バイト   「どうしたんですか、その格好。」


店長、室内なのに何故かサングラス。


店長   「殺し屋的なワイルドさを演出してみた。」

バイト   「(店長をじっとみて)薄いな、ワイルド……。」

店長   「で、で、で。」

バイト   「ジャーンっ。」


バイト、開いて店長に見せる。


バイト   「ココです。」

店長   「おぉぉ、これか。
     『萬お仕事引き受けます、金一千万から 青山清掃社』」

バイト   「うーん、完璧っ!」

店長   「……ちょ。」

バイト   「このフォントがもう、完全にスーパースイーパーと同じなんですよねぇ。」

店長   「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょ。」

バイト   「ふふ、私、この広告切り抜いて手帳に貼ろうっと。」

店長   「ちょっと待った!」

バイト   「何ですか?」

店長   「金一千万って。」

バイト   「何か?」

店長   「そ、そのまま載せちゃったのっ!?」

バイト   「はい。」

店長   「な、な、な、なんでっ。」

バイト   「店長が言ったんじゃないですか。」

店長   「社長。 俺は、細かい所は直せって。」

バイト   「なおしましたよ、ほら『青山清掃社』。」

店長   「いやいやいやいや、料金もでしょ、料金もっ!」

バイト   「え?」

店長   「この料金のままじゃダメでしょ、誰も仕事頼まないでしょっ。
     っていうか、これじゃぁ単なるコアなファンだよ。」

バイト   「でも殺しだったらせめてこれくらいは貰わないと。」

店長   「だから、殺しはやんないんだって。」

バイト   「……そうでしたっけ?」

店長   「そうです。」

バイト   「あー、でも、ほら、もう広告だしちゃったし。
     この際だから殺しもついでに……。」

店長   「ついでで殺し屋はじめる会社がどこにあるのさっ。
     っていうか、つかまる、つかまる、普通につかまる。」

バイト   「やってみたら意外に……。」

店長   「だから何、気軽に人殺し薦めてるのっ!
     って……あああ、もう、本当にどうしてくれるんだよっ。」

バイト   「あー、じゃぁ、もう一回出し直して……。」

店長   「インパクト勝負なのに、何度もだしたら効果薄れちゃうじゃんっ!
     っていうか、かっこわるいじゃんっ!!!」

バイト   「ちょ、いきなり、いきり立ちすぎですよ。」

店長   「あぁぁぁぁ、もう、どうしたら。」


ソファにどかっと腰を下ろす店長。


バイト   「店長?」

店長   「社長。」

バイト   「どうしたんですか? いつも驚くくらい楽観的なのに。」

店長   「……買っちゃったんだよね。」

バイト   「何を?」

店長   「オオアリクイの剥製。(ここは役に立たなくて高そうなモノなら何でもOK)」

バイト   「は?」

店長   「○○○○も、○○○○も買っちゃったんだよ。 支払い……どうしたら……。」

バイト   「何でそんなもの。」

店長   「ウハウハになると思ったから。」

バイト   「仕事してもないし、依頼来てもないのに……。
     っていうか、昨日買ったなら広告を出してすらいなかったのに。」

店長   「自信あったんだよね。」

バイト   「しかも、いらなそうなものばっかり。」

店長   「ワイルドさを演出しようかと思って。」

バイト   「全体的に方向性を間違えてますね。」

店長   「こうなったら、君にも責任取って貰うからね。
     出して、半額……いや、八割……ん、いや、やっぱ全額?」

バイト   「何でですか。」

店長   「間違えたの君じゃん。」

バイト   「店長の指示ミスです。」

店長   「社長。」

バイト   「社長なら部下のミスの責任くらい取ってくださよ。」

店長   「君、バイトだもん。」

バイト   「(小声)このドキュンが。」

店長   「とにかく、何とかしないと、マジデこの事務所終わりだよ。
     どーすんのさ、俺、遊んで暮らしていけなくなっちゃうじゃんっ。」

バイト   「知りませんよっ。」

店長   「君だって、ここが潰れたら困るだろっ。」

バイト   「……まぁ、それは。」

店長   「じゃぁさー、なんとかしてよー。」

バイト   「返しに行けばいいんじゃないですか?」

店長   「やだよっ、かっこわるいじゃん。」

バイト   「……事務所の危機なんじゃないんですか?」

店長   「人生スマートにいきたいんだよね。」

バイト   「そこがスマートじゃないですっ。」


バイトと店長、もしゃもしゃ話をしている。

ソコに、ドアを叩く大きな音。


バイト   「店長、誰か来ましたよ。」

店長   「集金ならいないって言って。」

バイト   「(大きな声で)あー、すみませーん、集金だったら今、留守にしてまーす。」

店長   「……それじゃアホの子の応答だよ。」

バイト   「だって、店長が。」


ドアの音。


バイト   「居ないって言ったのにしつこいですね。」

店長   「それは素なの?」

バイト   「あ、そう言えば、鍵。」

女    「入るわよ。」

バイト   「閉めてませんでした。」

店長   「ちょ、後は任せたっ。」


店長、凄い勢いでソファーの後ろへ。

派手な格好をした女、登場。

手には紙袋と新聞。

部屋をぐるっと見渡した後、バイトを見つめる。


バイト   「あー、済みません、集金の方でしたら今店長が不在で……。」

女    「集金? 何の事よ。」

バイト   「……NHKとかガスの人では?」

女    「はぁ?」

バイト   「……何でもないでーす。」


バイト、ジェスチャーで店長に大丈夫のサイン。

店長、ソファーの後ろからにゅーっと顔を出す。


女    「……何あれ。」

バイト   「店長です。」

店長   「社長です。」

女    「いないんじゃなかったの。」

バイト   「あれは言葉のあやで。」

女    「いいけど。」

店長   「えーと、で……。」

女    「ここ、青山清掃社よね?」

店長   「はぁ、そうですが。」

女    「仕事、頼みたいんだけど。」

バ・店   「えっ!?」

女    「……何で驚くの?」

店長   「う、ウチに仕事ですか?」


店長、女の方に出てくる。


女    「そうよ。」

バイト   「ウチ、青山清掃社ですよっ。」

女    「知ってるわよ。」

バイト   「ほ、本気ですか?」

女    「本気よ。」

バイト   「うちは、青山清掃社なんですよっ。」

女    「だから依頼に来たんじゃない。」

バイト   「(ぐりっと店長の方に向き直り、そのまま少し壁まで引き摺って)店長っ。」

店長   「社長。」

バイト   「依頼人ですよっ。」

店長   「依頼人ですね。」

バイト   「店長おぉぉぉぉ!」

店長   「社長。」

バイト   「広告だしたかいがありましたねっ。」

店長   「そう、なの、かな?」

バイト   「そうに決まってるじゃないですかっ。
     あー、私、生まれて初めて依頼人というものを見ましたっ。」

店長   「別にそう言う生き物なわけじゃないよ。」

バイト   「かんどぉです、金田様もこういう気分なんですかねぇ。
     あ、Twitterにあげていいですかね。」

店長   「普通に失礼だから。」

バイト   「でも、店長っ。」

店長   「しゃ……君、直す気ないでしょ。」

バイト   「はいっ。」

店長   「肯定されちゃった。」

女    「ちょっと、いつまで待たせるのよ。」

店長   「あ、はい、今。 緑川君、イスと書類。」

バイト   「あ、はーい。」


バイト、イスを女に勧め、自分も紙とペンを持って近くに座る。


店長   「えーと、では早速、依頼内容の確認をさせていただきたいのですが
     どのような清掃をご希望で?」

女    「スッキリしたいのよ、完全に。」

店長   「(バイトに)完全クリーニング。 期間は?」

女    「永遠。」

店長   「(嬉しそうにバイトに)長期。で、場所は。」

女    「……場所の指定までするの?」

店長   「えぇ、もちろん。」

女    「細かいのね。」

店長   「普通ですよ。」

女    「そういうモノなのかしら。 そうねぇ……じゃぁ、通勤経路が良いわ。」

店長   「(バイトに)通勤経路……(女に向き直って)通勤経路?」

女    「出来れば薄暗い路地裏とか。」

店長   「路上清掃ですか?」

女    「そう言うのかしら。」

店長   「町内会とかのご依頼で?」

女    「個人よ。」

店長   「個人で路上清掃の依頼……、珍しいですね。」

女    「こういうのって、普通個人で頼むものじゃない?」

店長   「いや、普通は団体じゃないですかねぇ。
     もしくは公的機関とか……。」

女    「公的機関? ……殺伐としてるのね、日本も。」

バイト   「個人のモラルはそんなに高くありませんからねぇ。
     料金的な問題もありますし。」

女    「それもそうね。」

店長   「では、いつから始めましょうか。」

女    「今すぐにでも。」

店長   「気が早いですね。」

女    「直ぐに片付けたいのよ。」

バイト   「(店長に)よっぽど汚れてる道なんですかね。」

女    「頼めるかしら?」

店長   「はい、もちろん。(バイトに)がんばって。」

バイト   「え、私一人ですか?」

店長   「もちろん。」

バイト   「えー。」

店長   「金田、金田。」

バイト   「様をつけて下さい。」

店長   「お客様の担当をさせていただきます、緑川です。
     ほら、挨拶。」

バイト   「宜しくお願いします。」

女    「その子が?」

店長   「はい。」

女    「こんな若い子に……出来るの?」

バイト   「まぁ、あまり難しいことでなければ。」

女    「そう。 偉いのね。」

バイト   「(店長に)褒められちゃいました。」

店長   「では、続けて詳細を……。」

女    「そうね。」


女、胸ポケットから写真を数枚取り出して、テーブルに投げる。


女    「ターゲットの詳細は桃井浩史、34歳、自営業。
     ゴキブリ以下、史上最低の男よ。」


しーんとする室内。


店長   「は?」

女    「だから、ターゲットの詳細は、桃井浩史、34歳、じえ……。」

店長   「お、お客様っ。」

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