おばあちゃんのミクロコスモス

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初演日:0/0 作者:mrorion
陽子 女
  幸俊 男
  はずみ 女
  瑞枝 女
  鷺澤 男
  カーラ 女
  キゼット 女
  クロエ 女
  ケント 男
  コイネ/母 女
  広瀬 男
  その他の人びと 場に出てない人々、性別も問わない
  
  
  0 物語の終わり、あるいは物語の始まり
  
  薄く雰囲気のある明かり。ジャズのような音楽。人々が音楽に合わせて体を揺らしている。退廃的な空気。
  高足二段分くらい段差のある舞台の上の方(2Lv)から、陽子が目を輝かせてそれを見つめている。陽子が見つめているのは、中でもひときわ美しい踊り子。
  女が一人陽子の脇に現れる。
  
  女  おい、ガキ。
  陽子 …。
  女  お前のおっかさんは今晩帰れやしないよ、三人はお客があるんだから。
  陽子 …。
  女  分かったらさっさと出ていきな。店の邪魔なんだよ。
  陽子 …。
  
   女、舌打ちして出ていく。
   いつまでも黙って踊りを見つめ続けている陽子。溶暗。
  
  明るくなると、操り人形たちと幸俊が地面に倒れている。汚れて散らかったラボの中。
   2Lvに落ちている携帯電話。
  
   はずみ、2Lvに出てくる。
  
  はずみ (携帯を取る)はい!
  
   広瀬、2Lvに現れる。
  
  広瀬 中川はずみさんのお電話ですか。
  はずみ …はい。
  広瀬 お忙しいところにすみません。私、東京自衛軍多摩分隊所属の広瀬巽中尉と申します。一つご確認したいのですが、発明家の中川陽子さんはあなたのお祖母さまで間違いないですか?
  はずみ はい、そうですが…
  広瀬 中川さん、残念なことをお伝えしなくてはなりません。
  はずみ え、…おばあちゃんに何かあったんですか?
  広瀬 今朝方、東村山市内の自宅から噴火。
  はずみ 自宅から噴火。
  広瀬 周囲800平方メートルに延焼しました。幸い、周囲に人はいなかったのですが…
  はずみ おばあちゃんたちは?
  広瀬 たち?
  はずみ あ、おばあちゃんは。
  広瀬 未だに発見されていません。中川さんの自宅自体は燃え残っている状態です。…ですからご連絡しました。我々の捜索にご同行願えないでしょうか。発明家の家というのは、こう、部外者が簡単に立ち入ることができないものですから。特に我々とお祖母さんは、友好的ではありませんでしたからね。
  はずみ あたしも、もうずっと離れていたんですけど。
  広瀬 それでも我々よりはご存じのはずだ。
  はずみ …わかりました。ご協力いたします。
  
  2Lvを、広瀬とはずみが降りてくる。二人とも、状況を見て絶句。
  はずみ、倒れている人々を一人一人抱き起し、壊れていることを確認する。
  
  広瀬 この人たちは…
  はずみ からくり人形です。
  広瀬 は?
  はずみ あ、おばあちゃんの使ってたお手伝いロボットみたいなものです。もう壊れちゃってますけど。
  広瀬 これもお祖母さんが発明なさったんですか?
  はずみ まあ、そうです。
  広瀬 お祖母さんは…
  はずみ ここにはいませんね。
  広瀬 困りましたね。他の部屋をあたりましょう。
  はずみ すみません、ちょっとだけ。
  広瀬 はい?
  はずみ …あたし、この人たちに育ててもらったんです。
  広瀬 …そうですか。では隣の部屋を見て参ります。
  
  広瀬退場。
  はずみ、絶望に打ちのめされながら、最後に幸俊に手をかける。怪訝な表情。
  
  はずみ …あの、あの、聞こえますか。わかりますか。
  
  幸俊動き出す。
  
  はずみ きゃあっ
  幸俊 …
  はずみ あの、あなたは、
  幸俊 …おはよう、陽子。
  はずみ …え?
  幸俊 …きみは相変わらず若々しいね。俺なんか変わらないはずなのに、すっかり年老いてしまった。
  はずみ …あの、
  幸俊 これでも、まだ美貌って呼べるのかな?俺はもともと思っちゃいないけど。
  はずみ あの、
  幸俊 くだらないことだね。すまん。
  はずみ あの、誰ですか?
  
  幸俊とはずみ、茫然と見つめ合う。
  
  幸俊 きみ、見た目は若いのに、ぼけちゃったんだ?
  はずみ いや、ほんとに知らないです。あと…陽子じゃないです。
  幸俊 冗談やめろよ。俺は見間違えないよ。
  はずみ ほんとに、似てるけどちがいます。あたし、その孫です。
  幸俊 は?
  はずみ 中川はずみって言います。
  幸俊 陽子の、孫?(笑いだす)
  はずみ あの、おばあちゃんのこと、知ってるんですか?
  幸俊 おばあちゃんねえ。陽子のことなら一番知ってるよ。
  はずみ 今どこにいますか?
  幸俊 (空を見上げる)
  はずみ …往ったんですか。
  幸俊 旅立った。大気圏突破したかな。
  はずみ は?
  幸俊 でも落ちては来ないからな。無事に重力を振り切ったんだと信じてるよ。
  はずみ 旅立ったって、天国にじゃなくて?
  幸俊 宇宙にだよ。
  はずみ …
  幸俊 天国って。だって、ここにいるじゃないか。
  はずみ は?
  幸俊 あの陽子は飛んで行ったよ。でもきみだって陽子だろ。天国に行くにはまだ早い。
  はずみ よくわからないんですが。
  幸俊 よくわからない?俺にもだ。きみはほんとうによくわからない。
  はずみ …ここで、何があったんですか。
  幸俊 ああ、いまわかった。きみ、ぼけたんじゃないんだね。初期化しちゃっだだけな
  んだ。
  はずみ 初期化?
  幸俊 長い話になるけど、それじゃ、ちょっと話してあげよう。いっておくけど、これをやったのは俺じゃない。きみだ。
  はずみ あたし?
  幸俊 というより、飛んで行った方だな。きみがおばあちゃんと呼ぶ陽子だ。
  はずみ …そうですか。
  幸俊 きみ、男と来ていたね。誰だ?
  はずみ あれは
  
   広瀬入ってくる。
  
  広瀬 中川さん。
  はずみ あ。
  広瀬 妙なものを見つけました。(鯖を目の前に掲げる)…生魚ですかね。
  はずみ 魚?
  幸俊 鯖だ。
  広瀬 うわ。誰です、この男は?
  幸俊 鯖だよ!
  広瀬 鯖?!
  幸俊 鯖だ、そうだ、そうだよ、陽子。懐かしいな!
  広瀬 この人は?
  はずみ あたしにも…ただ何か知ってるみたいで…
  広瀬 ちょっと君。
  幸俊 きみたち、これを見て何も思わないのかい?!
  
   陽子、2Lvに現れる。
  
  陽子 思うよ!
  幸俊 陽子。
  陽子 やっぱりあたしたちに作れないものはないんだよ。
  幸俊 わかってる、わかってるよ。(はずみと広瀬に)これは俺の話だし陽子の話だ。何、日は暮れないよ。頼むから今ここで話させてくれ。
  広瀬 だから誰なんだ、君は。
  幸俊 想像するんだよ。五十年前だ。
  広瀬 君はせいぜい四十手前だろう。
  幸俊 若く見えるんだ。東京の北の外れに、東京機械高専がある。技術者になりたい若者が日本中から集まってくる。その分野に関しては、帝大にも負けないような優秀な人材ばっかりだ。
  はずみ 優秀な人材。
  幸俊 そう。彼らは本当に機械が好きだ、工学が好きだ。五十年前だ、戦後が過ぎて、日本の国力がどんどん強くなろうとしていた頃だ。工業機械も兵器も、時代が、国が求めてる。若者たちは目を輝かしてそれらを作ろうとする。その中に、二人だけ、ひたすら鯖を作ってるやつらがいる。
  広瀬 なんでだ。
  幸俊 俺と陽子だ。
  広瀬 なんでだと聞いたんだ。
  幸俊 いいかい、五十年前だ。全てが若くて、貧しくて、輝いていて、俺は…
  
   からくり人形たち立ち上がり、踊るような優雅さで退場していく。陽子は2Lvから降りてくる。タイトルロールなどを入れてもよい。
  
  1 走る鯖の機構考察、あるいは二度と帰らぬ青春の日々
  
  陽子 幸俊!
  幸俊 陽子!
  陽子 ようこそ、東京機械高専へ!
  
   陽子、駆け下りてきて幸俊に飛びつく。抱き合ってくるくる回る二人。
   生徒たちが数人走ってくる。
  
  
  生徒A  逃げろ、また中川と加賀見の作った化け物が来るぞ!
  生徒B 気持ちわりい!
  
   何か気持ちの悪いものがその後を追いかけてくる。そのまま皆退場。
  陽子と幸俊、にたにたとそれを眺めているが、その後に教師たち。
  
  広瀬 そこにいたのか、気違いども!
  陽子 幸俊、逃げろ、先生だ!
  幸俊 お?うわ、うわあ!
  
   幸俊はつかまる。陽子は逃げていく。広瀬、幸俊を殴る。
  
  幸俊 何してくれるんだよ?
  広瀬 ごみ箱だの怪物だのけしかけたのはお前らだろ!
  幸俊 あれはあいつらが陽子を
  広瀬 (殴る)いい加減にしろ!
  幸俊 何を?
  広瀬 その口答えだ!
  はずみ 広瀬先生、そのくらいに…
  広瀬 こういう奴らは言っても分からないんですよ。この役立たず!
  幸俊 役立たずはてめえだろ!
  広瀬 あ?
  幸俊 役立たずって言ったんだよ!工業機械が何だ、兵器が何だ?下らねえことにしか役に立たねえもの作って。
  広瀬 何を言ってるんだ、お前は。
  幸俊 あんたたちは何度も社会のためだなんだって言うけどな、そもそも社会なんてくだらないって言ってるんだよ!
  広瀬 てめえ何なめたこと言ってやがるんだ!(殴る)
  
  陽子、気持ち悪いものと共に駆け込んでくる。陽子の合図とともに教師らに襲い掛かる気持ち悪いもの。
  
  広瀬 てめえ…
  陽子 広瀬先生、兵器学基礎演習の課題を提出いたします。
  広瀬 あ?
  陽子 それです。生物兵器バイオグレムリンです。
  広瀬 この怪物が!?
  陽子 機能すれば何でもいいっておっしゃったじゃないですか。
  広瀬 俺は模型を出せと…
  陽子 模型ですよ。十分の一スケールです。
  広瀬 はあ?
  陽子 期限は守りましたし、よろしくお願いいたします。
  広瀬 おい、この、離せ!おい!
  
   広瀬、バイオグレムリンに押されるようにして退場。はずみも慌てて後を追う。
  
  陽子 幸俊、大丈夫?
  幸俊 あれ、課題制作だったのか。
  陽子 あんたがヒントくれたんでしょ。いくら兵器っつっても、銃作るんじゃつまらないって。
  幸俊 それで…
  陽子 面白いもの作ろうとしてるだけなのに、どうしてわかってくれないんだろうね。
  幸俊 あいつらが箱の中にいるからなんだ。学校も箱、国も箱、社会も箱、地球も箱。全部閉じた箱なんだ。みんな箱の中しか見えない。箱の外に何があるかなんて、考えようともしない。
  陽子 あたしたちは?
  幸俊 俺たちは箱の外だよ。
  陽子 どうしてだろ?
  幸俊 知らねえ。そういう風に生まれたんだろ。
  陽子 そういう風に生まれた。
  幸俊 いいじゃん、別に。一人じゃないんだから。
  陽子 そうだね。次は何を作ろう?
  幸俊 え?
  陽子 だから、次、何作ろう?
  幸俊 (笑って)何作ろう?
  
   幸俊、客席に向き直り。
 
  幸俊  と思っていたのではあるが。
 
  陽子 課題提出しただけなのに何が「この学校の恥」だよ。あの野郎。
  幸俊 気にすんな。
  陽子  気にしてないよ。でも、文化祭参加禁止がなあ。一番目立てる時なのに。
  幸俊  こっそり出せねえかな。
  陽子 ばれたらどかされる。
  幸俊 じゃあ、先公見たら逃げるように作ったら?
  陽子 頭良いね。じゃあロボットだ。
  幸俊 あー。でも、神宮寺たちも兵士型ロボット作るって息巻いてたな。
  陽子 神宮寺!あいつが大したもの作れるわけないのに!
  幸俊 あいつらと同じもの作りたくはねえな。
  陽子 他に何か。向こうが人間で来るなら、こっちも生き物じゃないと勝てないんじゃないかな。
  幸俊 …勝つ?
  陽子 どうせ作るなら一番精密で、すごいものを作りたいじゃない。
  幸俊 違う、それだ!
  陽子 違うそれだ?
  幸俊 俺たちが作った「この学校の恥」が、他の奴らが作った兵器をどんどん倒していったらどうなる?
  陽子 面白い!
  幸俊 これで行こう。
  陽子 何なら勝てるかな?ゾウ?
  幸俊 目立ちすぎると思う。狼は?
  陽子 意外性がないな。チンパンジーは?
  幸俊 俺見たことねえよ。
  陽子 あたしも。
  幸俊 どうしようもねえじゃねえか。
  陽子 あ、鯖。
  幸俊 鯖!?
  陽子 鯖は足が速いって言うじゃない!逃げるロボットにぴったりだ!
  幸俊 確かにな!でもどうやって動かすんだ?
  陽子 足を生やそう。
  幸俊 それもそうか。
  陽子 入手も容易!
  幸俊 悪くねえな!
  陽子 どうせなら大群で。
  幸俊 じゃあ足の仕組み考えないとな。
  陽子 あと防腐処理が必要だね。
  幸俊 その辺はお前に任せた。後は攻撃手段だな。
  陽子 一番簡単なのが、水噴きかけて相手の電気系統を破壊する手だろうな。
  幸俊 でもな。内部に水があると、鯖、腐んねえか。
  陽子 あー。その通りだ。じゃあ火か。
  幸俊 焼き魚か。でも一歩間違えば事故だぞ。
  陽子 確かに、火事は嫌だね。
  幸俊 鯖の塩焼き食いてえな。
  陽子 塩だ。
  幸俊 塩?
  陽子 塩かけたら、たいがいの機械はいかれるよ。
  幸俊 そりゃかなりかけないと駄目じゃないか?
  陽子 そうかな。神宮寺達が作るっつったら、あれでしょ、どうせ去年の八釼博士の二足歩行型ロボットをもとにするんでしょ?あれの欠点は人間っぽさがないことじゃない。可動性を優先したせいで、かなり隙間があることなんだよ。
  幸俊 良く見てんな。
  陽子 あいつらが改善できるとは思えない。たくさんの鯖で襲撃すればいけるよ。
  幸俊 他の機械はどうする?
  陽子 隙間がないのは厳しいな…
  幸俊 鯖を重くしてぶつけたら、直接破壊できないかな?
  陽子 操作が難しそうだな。ある種の金属に引き寄せられる仕組みを作るならありかも。あいつら、どうせ基盤にアルミばっか使ってんだから。
  幸俊 ああ、なるほどな。足どうしよう?
  陽子 ドイツのヘッケル博士が作った義肢については読んだ?
  幸俊 あの、自分の体みたいに動かせる奴?
  陽子 そうそう。ものすごく細かい部品の組み合わせで動いてる。システムだけなら使えると思う。任せて。
  幸俊 何とかなりそうだな。
  陽子 やっぱりあんたがこの学校にいてくれてよかった。
  幸俊 え?
  陽子 二人で組んだら、あたしたちに勝てる奴いないよ。
  幸俊 当たり前だろ。

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