安達が原

(あだちがはら)
初演日:0/0 作者:吉野瞬
※登場人物は7人必要ですが、レギュラー人数が少ない場合は主な登場人物は4人とし、あとの3人はエキストラで登場してもらい、黒マントの男の声を加工音声の吹き変えにすれば大丈夫です。

※途中でオリジナルの歌が流れるので曲を作る必要があります。
ただし、宣伝用の下手な歌という設定なので、旋律は一本調子でもかまわないと思います。


「安達が原」

風の音
青年後ろを振り返りながら小走りに登場。
家を見つけ、戸を叩く

青年 「開けてください。お願いです。熊が、熊がすぐそこに、中にいれてください」

戸が開く音
青年転げるように中に入る。急いで戸を閉める。
閉まる音

青年 「はあ、はあ、助かった」

あたりを見回す。

青年「あの、どなたかいませんか」

袖から老婆登場。古びた服の上に色鮮やかな赤いマフラー。

青年 「あ、ああ、お婆さん、俺、怪しいものじゃないです。熊に出くわしたもんで、慌てて逃げてきたんです。まだそこにうろついていると思います。すみませんが、今夜一晩こちらに泊めていただけませんか」
老婆 「それは困りましたね。何しろここには人をもてなすようなものは何もありませんからのう」
青年 「いえ、布団も何もいりません。この扉のこちら側にさえ、いさせてくれればいいんです。」
老婆 「こちら側に、ねえ。向こう側へは戻らないんですね」
青年 「ああ、はい。向こうには熊がいますから」
老婆 「熊と人間、怖いのは、果たしてどちらですかねえ」
青年「そりゃあ熊に決まってますよ。奴らには言葉が通じないんですから」

老婆、囲炉裏のそばに座る。

老婆 「人間も怖いものですよ。何しろ人間は(一呼吸)鬼にもなりますから」

風の音少し大きくなってから小さく。
青年、ザックをおろし、中を開く。

青年「寝袋はあるし、食い物も、あるな」

青年ザックから缶詰を取り出して置く。

青年「おばあさんも何か食べますか?俺明日には下山するんで、よかったら置いていきますよ」
老婆「食べ物なら、たくさんあります。ご心配なく、お若いの。食べ物はいつもあまるほど(青年を見る)やってきますから」
青年「やってくる? 食べ物が? まるで食べ物に足でも生えているような言い方ですね。足?(自分の足を見る)」

老婆、包丁を取り出して研ぎ始める。(音)

青年「あの、あの、何してるんですか? 」
老婆「包丁がさびついてのう。こうして研いでいるんですよ。これから大きな獲物をさばかねばなりませんからのう。さびついていては、苦しがって暴れてしまう」
青年「暴れるって、おばあさん、いったい何を料理するつもりなんですか? 」
老婆「ひっひっひ」

青年あとずさる

青年「こんな光景を、昔、テレビで見たことがある。いや、おばあちゃんが読んでくれた絵本だったかも」

照明やや暗く
研ぐ音消える

朗読「むかーし、むかし、道に迷った一人の僧がおったそうな。そこは深ーい山の中じゃった。やがて一軒家を見つけた僧侶は一夜の宿を乞うと中から怪しげな老婆が出てきた。老婆は温かくもてなし、旅の疲れからか、僧侶は間もなく眠りについた。所が深夜、妙な音に目覚めると、囲炉裏の傍で老婆は大きな包丁をといでいた。ぎーしゃかー、ぎーしゃかー」

老婆、声に合わせて研ぐ仕草。

朗読「ぎーしゃかーぎーしゃかー、こんな夜更けに何をしているのかと僧侶は寝たふりをしながらみていると、やがて老婆は研いだ包丁を眺めてにたりと笑い、こうつぶやいた。ひっひっひ、やせてはいるが、食うには困らんて、さあて、煮て食おうか焼いて食おうか」
老婆「煮て食おうかのう、焼いて食おうかのう」
朗読「そう、それは山に潜んでは通る旅人を食べる鬼婆じゃった」
青年「そういえば、昔、お婆ちゃんが話してくれたことがあった。高校生の頃に、友達が行方不明になったのは、きっと鬼婆にさらわれたんだって」

老婆立ち上がる

青年「やめて、俺は、食べても美味しくないから。ほら、これ、(足をさして)足が臭いってよく言われるんだよ」

老婆、青年に近寄る。

青年「たすけて、お婆ちゃーん」

暗転
(小さく)コーラス
ピンスポ、二人の女学生

結衣子「ねえねえ、聞いた? 今日の校長先生のお話」

女学生、編み物をしている。

女学生「ふーん、なあに結衣子ちゃん」
結衣子「登下校の時は、決して一人にならないようにっていう話よ。ほら、先日、隣町の古本屋の娘が行方不明になったそうじゃない」

女学生、編み物の手を止め、結衣子を見る。

女学生「家出? それとも駆け落ち? だったら素敵、愛する人と手に手をとって」
結衣子「違う違う。その古本屋は私も何度か寄ったことがあるの。私たちと同じくらいの歳の子で、いつも店の奥で一人、本を読んでいるおとなしい子だったわ。とても家出する度胸も、ましてや駆け落ちするって風でもなかったわね」
女学生「じゃあ、なんで?」
結衣子「そこよ、だいたい、なんで校長先生は『決して一人にならないように』って行ったんだと思う?」

女学生、天井を見る。

女学生「うーん」

しばらく沈黙。

結衣子「長い!」
女学生「なによ、人をトロいみたいに。このマフラー結衣子ちゃんのお誕生日プレゼントにと思って急いで編んでいるところなのよ」

女学生、編みかけのマフラーを結衣子の首元に当てる。

女学生「うん、よく似合う。やっぱり結衣子ちゃんには赤が似合うね」
結衣子「え? これ、私なの? 本当? 嬉しい」
女学生「ダメよ引っ張らないで、まだできてないんだから。それより教えて、どうして校長先生がそんなことをおっしゃったの?」
結衣子「そう、それ。ねえ、知ってる? 動物の肝が万病に効くって話」
女学生「肝?」
結衣子「昔から言われていたのよ、肝には不治の病も治してしまう効力があるんですって。中でも人間のは特別に効果があるの、だからそれを狙う者や、商売にしていた者達もいたというわ。その商売は今も続いているのよ。ねえ、おかしいと思わない? 戦後あんなにいっぱいいた戦災孤児達はどこへ行っちゃったの?」
女学生「どこって、遠い親戚が見つかったか、あるいは施設に入ったとか、そういえば最近見かけないわね。あの、結衣子ちゃんによくなついていた男の子。確か、イソロク君、だったかしら。ほら、水兵さんの帽子をかぶった」
結衣子「イソロクは本当の名前じゃないのよ。あの子ったら、家族も、自分の名前を知っている友達も、みんな死んじゃって、だから勝手に新しい名前をつけちゃったのよ」
女学生「そうだったの。前に、橋の下で雨宿りしているのを見かけたわ。ロバ引きのパン屋さんの歌を歌っていたのよ。声をかけたら、今度結衣子ちゃんにメロンパン買ってもらう約束したって嬉しそうに言っていたのを覚えているわ」
結衣子「そうよ、あの子、メロンパンを一度でいいから食べたいって言ってたのよ。やっとお小遣いもらったから買ってあげようと思ったのに、いったいどこほっつき歩いているのかしらね」
女学生「まさか、そのイソロク君がさらわれたっていうの?」
結衣子「わからない」
女学生「警察には言ったの?」
結衣子「言ったわよ。でも、捜索願を出したくてもイソロクの本名は知らないし、家族じゃないから何もできなかったわ。イソロクだけじゃない、身寄りのない子供達がいなくなっても誰も探さない。だから警察も何もしないのよ」

女学生、結衣子の背中をさする。

女学生「大丈夫よ、結衣子ちゃん。今週雨続きだったからどこかへ避難しているんだわ。今日あたりひょっこりと現れるわよ」
結衣子「ならいいけど。もう、また話がそれたじゃないの」
女学生「話があちこち飛ぶのは、いつも結衣子ちゃんなのに」
結衣子「とにかく、身寄りのない子供もいなくなって、次に狙われたのが」
女学生「私達だって言うの?」

結衣子大きく頷く

結衣子「女学生ならいなくなっても家出ですむし、警察もすぐには動かない。そして校長先生はその事をご存知なのよ。だから、一人になるなって」
女学生「その話って、まるで、まるで」

コーラス消える。
ピンスポ、青年

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