手とつなぐ

(てとつなぐ)
初演日:2017/9 作者:清野 和也
『手とつなぐ』
   

【キャスト】
・伊達一(だてはじめ)
・こそ泥の二平治(にへいじ)
・閻魔大王
・司命(しみょう)
・熊坂惣兵衛(くまさかそうべえ)
・安場県令
・佐藤基治/武士/地獄の鬼たち ほか


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明治8年ごろ、閻魔大王が裁きを下す閻魔庁にて
舞台中央に閻魔大王が座る椅子と大きな机。机の脇にひとつ椅子。机の上には、閻魔帳、筆、舌を抜くために使うのだろうか、大きなペンチなどもきちんと置かれている。そ机の後ろ、舞台正面にはさらに大きな鏡、「浄玻璃鏡」がある。これは、裁きを受けるものの、生前の行いを映し出す鏡。

そこに、こそ泥の仁平次が、司命(しみょう)に連れられてやってくる


仁平次   「ひやァ! どこに連れてかれるかと思ったら、閻魔大王のお部屋じゃないかよ! 一体何をさせるつもりなんで!」
司命   「今から説明をするから待っておれ」
仁平次   「閻魔さんのお部屋に来るのは二度目だ。なんだ、もう一度判決をやりなおしてくれんのか! そうだよな、あんなちっくら食い物を盗んだだけで地獄行きなんざ…」
司命   「・・・」
仁平次   「おっと、いや、反省はしてんだよ。人様のものを奪っちゃいけない。それはよォく解った、地獄の辛ェ時を過ごしてりゃ、そりゃあもう」
司命   「お前の地獄での行いが、認められてな」
仁平次   「お! ってことは、もしかして、極楽行きかい!? 閻魔大王みずから、お勤めご苦労さんって、賞状を下さるってなわけか」
司命   「べらべらとよく喋る。地獄に行っても、そこだけは直らないもんだ」
仁平次   「しんどい時こそ、言葉にする。これに越したことはないもんだ!」
司命   「ここで待っておれ。閻魔さまを呼んで参る。じっとしておれ」


    司命はける

    仁平次、部屋を見回し、真ん中にある、大きな鏡に姿を映して遊んだり、真ん中の椅子に腰かけてみたりする


仁平次   「…おお、良い椅子使ってんなぁ…! 」


    仁平次、椅子に座り、机の上にある帳面をこっそり見ようとする


仁平次   「(帳面の表紙を見て)伊達一(はじめ)?」


    そこに閻魔大王がやってきて


仁平次   「(慌てて席を離れて)…大王! 温めておきました」
閻魔   「…(座って)温いな」
仁平次   「へえ! 気が利くでしょう!」
閻魔   「その帳面には、その者が生まれてから死ぬまでのことが書いてある」
仁平次   「(思わず手に持ってしまっていた帳面を戻しながら)へえ! それは驚きで」
閻魔   「読んだか?」
仁平次   「いいえ、ちっとも、表紙さえも!」
閻魔   「目を通しておけ。今日、お前と共に裁くのが、この男だ」
仁平次   「へ?」
閻魔   「伊達一。福島県伊達郡湯野村の出。生まれながらにして目が見えず、按摩(あんま)師として生計を立てていた」
仁平次   「ちょっと待ってくださいよ、大王。共に裁くってのは?誰がですか?」
閻魔   「なんだ聞いておらんのか―?」


    そこに司命が戻って来て


司命   「大王! もうお着きでしたか。遅れてしまい…」
閻魔   「良い良い… この者への説明はまだであったか」
司命   「は… 仁平次!!」
仁平次   「へい」
司命   「返事は「はい」だ」
仁平次   「はいはい」
司命   「返事は一回!」
仁平次   「へい」
司命   「お前の地獄での行いが認められ、極楽行きになった! 」
仁平次   「ひゃァー! こいつぁ、ありがてぇ」
司命   「ただし、だ」
仁平次   「でた、ただし。そんなうまい話があるかと思ったんだ。ぬか喜びってやつか。なんでぇ、なんでぇ、銭でも払えっていうのかい。言っとくがな大王! 俺は生前も死んでからも全くの銭なしよ!」
閻魔   「銭が無かったのはなぜだ」
仁平次   「そいつぁ… 稼がなかったからだ」
司命   「どうどうと言うな!」
仁平次   「へい」
司命   「お前が今のまま浄土に行ったとて、生前のように、すぐに、ぐうたらと過ごすのは目に見えている」
仁平次   「おう、極楽ってのはそれも許されるんだろ」
司命   「許されぬ!その怠けた心根をもう一息、どうにかせねばなるまい!そこでだ。閻魔様は、お前に、職場体験をさせることにした!」
仁平次   「職場体験!?」
司命   「閻魔様の見習いとして、働くのだ」
閻魔   「私がやっているこの裁きを、共に考えてみようとな」
仁平次   「へえ… そりゃあ、ちょっと、荷が重いんじゃ…」
閻魔   「他の仕事でもいいぞ」
仁平次   「え?例えば」
閻魔   「鬼たちと一緒に、地獄におちた人々をいじめる仕事だな」
仁平次   「えええ!? そんなのは嫌なこったですよ、俺ァ、あんな鬼たちと一緒になりたかぁない…」
司命   「勿論、断わることもできるが、その場合は、また長い間、地獄にいることになる」
仁平次   「…わかりやした、わかりやしたよ。やりゃあ、良いんでしょ」


    仁平次、閻魔の椅子に座ろうとする


仁平次   「そういうことなら、ほら、その椅子、貸してくれ」
司命   「お前の椅子は、そっちだ」


    鬼が小さな椅子を持ってくる



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