真夏の夜のしょうもない夢

A Midsummer Night Foolish Dream

(まなつのよのしょうもないゆめ)
初演日:0/0 作者:高見 宙

真夏の夜のしょうもない夢



<登場人物>
アセンズに住む人間
 ライサンダー(♂)   ハーミアと駆け落ちを試みる。ハーミアに比べると少し身分が低い。
 ハーミア(♀)    ライサンダーの恋人。父によってデメトリアスのいいなずけとなる。
 デメトリアス(♂)   諸事情によりライサンダーにゾッコン。幼い頃には、ヘレナに愛を誓い合った。
 ヘレナ(♀)     ハーミアの幼馴染。背が低いのがコンプレックス。
 ボトム(♂)     森に迷いこんだ自称アセンズ一の機織り。
 シーシアス(♂)    アセンズの領主。

森の妖精
 パック(♂)     イタズラな風の妖精。
 オーベロン(♂)    森の妖精の王。女好きだけど一番はやっぱりタイターニア。
 タイターニア(♀)   オーベロンの妻だが絶賛倦怠期中。





#1 アセンズ 宮殿の廊下(昼間)


    ●明転
    佇むシーシアス。
    声と共にハーミア、ライサンダー、デメトリアス登場。


ハーミア  「もう、私達に付いてこないでっ」
シーシアス  「騒々しいぞ」
ライサンダー 「シ、シーシアス閣下っ。これは、失礼を……」
シーシアス  「で、もめ事の原因は何だ?」
ハーミア  「……デメトリアスが、私とライサンダーの結婚を邪魔するのです」
シーシアス  「邪魔するも何も、デメトリアスはお前のいいなずけであろう?」
ハーミア  「確かにそうなのですが……」
デメトリアス 「俺が愛しているのはライサンダーただ一人。俺の心臓と魂と貞操はすっかり彼に捧げる準備はできております」
ライサンダー 「僕に近寄るな、気色悪いっ」


    デメトリアス、ライサンダーにすがりつく。振り払うライサンダー。
    見ろ、と言わんばかりにデメトリアスを指さすハーミア。


シーシアス  「……なるほど、これは困り果てるだろうな」
ハーミア  「シーシアス様、どうかお助けを。こんな男と結婚する恥を忍ぶくらいなら、いっそカエルと口づけした方がましですわっ」
シーシアス  「だがお前の父は彼を婿に選んだ。このアセンズでは、父の意に背けば死刑に処されるのだぞ。デメトリアスは立派な男であろう」
ハーミア  「ええ。ライサンダーに言い寄るところを除けば」
シーシアス  「まあ、そうだな……。新月の晩まで、三人で考える時間をやろう。複雑な問題だ。ゆっくりと考えなさい」
ライサンダー 「シーシアス様。確かに私は、権力も財産も態度のでかさもデメトリアスには到底敵いません。しかし、ハーミアを愛する気持ちだけは誰にも負けはしません。しかもこの男は、レダーの娘ヘレナにたぶらかし、その心を得ています。かわいそうに彼女は、今もこの男に真心を注いでいるのです」
デメトリアス 「そうやきもちを焼くな。俺の真心は余すことなくあなたの手の中にあるのだから」
ライサンダー 「近寄るな」
シーシアス  「実は私も、その話は耳にしていた。それについてはお前と話し合おうと思っていたのだ。デメトリアス。お前だけに話したい事がある、来てくれ」


    シーシアス、デメトリアス、上手へはける。
    二人になったライサンダーとハーミアが舞台中央で抱き合う。


ハーミア  「こんなの耐えられない。あなたに会えないくらいなら死んだ方がましですわ」
ライサンダー 「……ハーミア。僕に考えがある。僕には遠くに住んでいるおばがいるんだ。そこへ行けば、厳しいアセンズの法も手が届かない。一緒に来てくれるかい?」
ハーミア  「ええ、もちろん」
ライサンダー 「なら早速今夜出発だ。深夜の鐘が二つ鳴る時、町の門の外、二人でよく語り合ったあの場所へ来てくれ」
ハーミア  「約束するわ。必ず行きます」


    上手から、ヘレナ登場。


ライサンダー 「やあ、美しいヘレナ」
ヘレナ       「その言い方はやめて。デメトリアスはあなたにぞっこんなんだから」
ライサンダー 「その言い方はやめてくれないかな……」
ヘレナ       「ねえ、教えて。どうやって彼の心を振り向かせるこのができるの?」
ライサンダー 「近付いてきたら、思い切り腹を蹴とばすと良い。だが奴はとても喜ぶ」
ヘレナ       「彼は近付いてもくれない……」
ライサンダー 「さんざ罵倒してやるんだ。それでも奴は僕に付きまとう」
ヘレナ       「慕えば慕うほど嫌われる……」
ライサンダー 「奴の言葉はまともに聞かず、問答無用で打ち返せ」
ヘレナ       「打ち返されるのは私の方……」
ライサンダー 「ヘレナ、あいつの気違いざたは僕のせいじゃないよ。……でももう心配ない。今夜、僕達はこの町を抜け出すんだ」
ハーミア  「さようなら、ヘレナ。あなたの幸せを祈ってるわ」
ライサンダー 「じゃあ今夜、待ってるよ」


    ハーミアは上手へ、ライサンダーは下手へはける。


ヘレナ       「世の中って何でこうも皮肉なの? アセンズ一の器量良しで語学堪能、学園のマドンナにしてファッションリーダーと言われている私。でもデメトリアスは私の事など眼中にない……。そうだ、この事を彼に教えてあげよう。そうすれば、彼はきっと二人を追うでしょう。でも、行き帰りに彼の顔を見ることができる。私は、それだけで十分幸せ」


    ヘレナ、上手へはける。
    ●暗転





#2 森(真夜中)
   

    ●明転
    パック、登場。


パック       「いよいよ真夜中だ。フクロウがささやき、オオカミは月に吠える。もうすぐ新月。月の女神様は、明日地球の裏側にいる兄上の太陽に会いに行くのが待ちきれず、いそいそ旅支度を始めている。取り残された小さな星明かりだけでは、広い大地を照らしきれはしない。新月、真っ暗闇、一月に一度、おいらたちが最高にバカ騒ぎができる夜! さあ! 夜はおいらたちの世界だ。どんぐりの中で眠っている妖精たちよ出てこい。明日は新月だ、騒ぎ回るぞ!」
ボトム       「(声のみ)おーい、みんなー、どこ行ったー?」
パック       「お、早速カモ発見。人間においらたちの姿は見えない。ちょっとからかってやろう」


    ボトム、登場。パックには気付かない。


ボトム       「なんて奴らだ。事もあろうに、このボトム様を置いて帰るなんて。だから言ったんだ。夜の森で稽古なんかするもんじゃないって。大体、俺たちみたいな下々の労働者が寄せ集まった芝居なんか、シーシアス様が見てくれるはずがなかろうに」
パック       「迷子だ、こりゃいい。今こそパック様の出番だ。(声変えて)おいボトム、こっちだぞー」
ボトム       「お、その声は大工のクインスか? どこにいる?」
パック       「(声変えて)こっち、こっち。置いてくぞ」
ボトム       「おいきた、すぐ行くぞ。まったくしょうがない奴らだ。暗いから俺から離れるなと言ったじゃないか。あいつらときたら、俺がいないと全然ダメなんだからなあ。わはは」


    ボトム、上手へはける。


パック       「奴の脳みそはカラカラに干からびてやがるな。まんまと森の奥へ入って行った。こりゃ、今晩は面白くなるぞ」
オーベロン  「(声だけ)待たんか、タイターニア。話を聞け」
パック       「おっと、妖精の王様のお出ましだ。盗み聞きしなくちゃ」


    パック、舞台の隅っこに隠れる。
    タイターニア、登場。次いでオーベロンも。


オーベロン  「タイターニア、待てと言っているのが聞こえないのか」
タイターニア 「いいえ、聞こえてないわ」
オーベロン  「たわむれが過ぎるぞ、タイターニア」
タイターニア 「聞こえないわ。眼中にない人の声は聞こえないの」
オーベロン  「止まれと言っているのだ。まったく、これだから話を聞かん女は」
タイターニア 「いいえ、あなたこそ人の話をお聞きなさい。私に、あなたの声は、聞こえてないの。お分かりしら?」
オーベロン  「……面と向かって人を指さしておきながら、よくそんなことが言えるな」
タイターニア 「だって、あなたの話は長くてクソの役にも立たないんですもの」
オーベロン  「わしは妖精の王にしてお前の夫であろう」
タイターニア 「それでは私はあなたの奥方という訳? あら嫌だ。吐き気がする。でも私、知っていますわよ。あなたはこの妖精の国をそっと抜け出して、羊飼いに化けて一日中麦笛を吹き鳴らしたり、恋歌を歌ったり。それが妖精の王様のすることかしら」
オーベロン  「そこまで言うならわしも言わせてもらうが、インドの王から子どもをさらってくるのは、妖精の女王のすることなのか?」
タイターニア 「さらったなんて人聞きの悪い。あんまりかわいいから『坊や、お菓子をあげるから私の馬車に乗らない?』って言っただけよ」
オーベロン  「それを誘拐と呼ぶのだ」
タイターニア 「本当はあの子が欲しいくせに」
オーベロン  「分からん奴だな。わしはお前に元通りなってほしいだけだ。今のお前は子どもに取りつかれて、妖精の女王からただの女になってしまっている」
タイターニア 「まあ未練たらしい。ハッキリ言ったらどう?『空に輝く星よりも更にきらびやかに夜を照らし飾るタイターニア様。あなたなしでは生きていけない。子どもじゃなく、この卑屈で根暗で土臭いわしを見ておくれ〜』」
オーベロン  「お前、そんなにわしのことが嫌いか?」
タイターニア 「そんなことないわ。興味がないだけよ」
オーベロン  「タイターニア」
タイターニア 「軽々しく私の名を呼ばないで」
オーベロン  「何でもする」
タイターニア 「近づかないでって言ってるのよ。私はこれからかわいいあの子のところへ行くの。だから、これ以上女々しい男に付き合っている暇はなくってよ。失礼」


    タイターニア、上手へはける。

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