きっと今もある弾性

(きっといまもあるだんせい)
初演日:2018/5 作者:火乃 あたる

きっと今もある弾性

キャスト(全員が大学四年生)

・ススム 男
物理分野の研究室に通う青年。子供の頃から勉学に励んでいる秀才。
そのせいか友人が少なく、本人も人付き合いが悪くつめたい性格。
シオリとは幼馴染で昔から好意を抱いているが、全く進展はない。

・アキラ 男
ススムとは違う研究室に通っている青年。ろくに勉強もしていないが、
勝手にほかの研究室の機材を使っては突飛な発明品を作り出している天才であり変人。
自分のとんでもない理論についてくることが出来るススムが気に入っており、よくちょっかいをかけている。

・シオリ 女
ススムの幼馴染。誰とでも打ち解ける心優しい女性。
ほかの登場人物達とはまた違う研究室ではあるが、よく顔を出している。
ススムとは子供の頃から両思いだが、お互いに一歩踏み出せず周りをイライラさせている。

・ハルカ 女
ススムと同じ研究室に通う大学生で、シオリの大親友。アキラとも知り合い。
ハッキリサッパリした性格で、ススムとシオリの関係にむず痒い思いをしている。

・ニュースキャスター(声のみ) どちらでも

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□本編

1-1 14日 16:30
大学の研究室。
中央には共同の大きなデスクと椅子、
ホワイトボードと、何に使うのかわからない複雑な機材が並ぶ。
ハルカは帰るために自分の荷物をまとめ、ススムはたくさんの資料をデスクに開いて、自分のノートに黙々と書き込みを続けている。

ハルカ じゃ私帰るけど、カギ持った?
ススム ああ。
ハルカ そう。アンタ本当勉強好きね。他にやることないの?
ススム ない。
ハルカ そうですか。…今日、シオリ来るの?
ススム どこに?
ハルカ ここに。
ススム 来る理由がないだろ。
ハルカ 本気で言ってんの?いつも遊びにきてるじゃない。
ススム そうか?
ハルカ はあ…帰る。

ドアにかけた手を離し、振り返るハルカ。

ハルカ 独り言だけどさ。
ススム …。
ハルカ 別に私とか、ここの他のメンバーにそういう態度なのは良いのよ。もう慣れたし。
ハルカ ただ、シオリだけにはもっと…まいいわ。あんまりおせっかい焼くとあの子に怒られるし。じゃあね秀才クン。

改めて部屋を出るハルカ。

ススム 独り言じゃないだろ…。

静かになった研究室。
汚れだらけの白衣を着たアキラが、手に何かを持って飛び込んでくる。

アキラ ススムいるー!?
ススム …。
アキラ いないか。
ススム …。
アキラ いやいるー!いるじゃんススムー!
ススム うるせえ…。
アキラ どう今の!天才の天才による天才のためのノリツッコミ。
ススム 自分で自分を天才って呼ぶやつのこと、何ていうか知ってるか?
アキラ 知らない。
ススム バカだ。
アキラ あ、見てこれ。

アキラ、手に持った湿布を出して見せる。

ススム 聞けよ。…何だこれ。
アキラ 俺が作ったの。
ススム だから、何。これ。
アキラ よくぞ聞いてくれた!
ススム 聞くんじゃなかった。
アキラ これな。名づけてスポーツマン湿布。スポーツマンシップと、湿布を掛けてみたの!面白くない?
ススム ダサいとは思う。
アキラ ひでえな!まいいや、説明しよう!これはな、どうしても体がだるいなーって日とか、大事なイベントがあるのに怪我やら病気やらしてしまった時に使うんだよ!
    体に貼るとな、埋め込んどいたマイクロチップ同士の反応で微細な電気振動を患部に流すんだ。それで代謝を半端なく促進させて、細胞再生も早くなる。
    振動が続く約3時間の間、まるで運動神経バリバリのスポーツマンみたいに体が軽くなる上、怪我やウィルスをあっという間に治療するんだ!

ススム、勉強の手を止める。

ススム 珍しくすげえの作ったな。
アキラ だろ?…いや珍しくねえよ!
ススム 充電式か?
アキラ いや、使い捨て。
ススム コストが高すぎるだろ。
アキラ まあな。あと振動と代謝の影響でアホみたいに発熱する。
ススム 危ねえな。
アキラ あと振動で体に運動効果も与えるから、次の日アホみたいに筋肉痛になる!
ススム ダメじゃん。
アキラ まだ開発中なの!デメリットを一個ずつ潰して完成品が出来たら、そんときゃまた見せにくるから!
ススム 来なくて良いから。
アキラ 優しくないなー!ススム優しくないよ!
ススム 優しかったことがないだろ。
アキラ まーな。ところで…今ヒマ?
ススム …ヒマに見えるか?
アキラ 全然。

ススム、大きいため息。

ススム で、なんだよ。
アキラ お!聞いてくれるのか!優しい!
ススム 違う、今断っても絶対しつこいだろお前。だったら聞くだけ聞いた方が早く済む。
アキラ うーん、まあそれでいいや!聞いて聞いて!ちょっと待ってて。
ススム どっちだよ。

アキラ、研究室の奥から設計図が描かれた紙と、小さな機械を持ってくる。機械は押しボタンが1つついているくらいの特徴のないもの。
設計図をデスクに広げるアキラ。

アキラ ちょい。それ、ジャマ。
ススム …わかったよ。

ススム、資料とノートをまとめる。
綺麗に開かれた設計図。

ススム で、なんだこれ。
アキラ 今作ってる、トンッデモない発明品の設計図!
ススム お前さあ。
アキラ なに?
ススム ウチのメンバーじゃないよな正式には。この研究室の。
アキラ そうだよ?
ススム じゃ勝手に機材使うなよ。なんで設計図まで置いてんだ。
アキラ 固いこというなよー。科学の発展のためですよ。
ススム 先生たちに見つかっても俺は責任とらんぞ。
アキラ わかっとるよ。それより続き聞いて。
ススム …ああ。
アキラ これな、ざっくり言うと…
ススム おう。
アキラ タイム、マシンなんだよ!
ススム …。

ススム、立ち上がり自分の荷物をまとめる。
ズッコケるアキラ。

アキラ あれ、「なにーっ!!」は?「アキラすげーっ!!」は?
ススム 付き合ってられるか。帰って家で続きやる。

帰ろうとするススムの前に回り込むアキラ。

アキラ 待ーった待った!頼むから聞いてよ、聞いてくれるって言ったじゃん!
ススム もう十分聞いたろ。
アキラ まだ足りない!
ススム 俺は足りた。
アキラ スースームー!
ススム うるせえなあ。
シオリ ススムくーん。

研究室の外からシオリの声。続いて本人が入ってくる。

アキラ お、シーちゃんおっす。
シオリ おっすー。やっぱりススムくんだ。二人の声、外まで聞こえてきたよ?
ススム こいつの声だけだろ。
アキラ 聞いてよシーちゃん。ススムがぜんっぜん俺の話聞いてくれないの。この俺の天才的な話を。
ススム お前がくだらないもん作ろうとしてるからだろ。
アキラ いーや、お前は夢がなさすぎる!
シオリ はいはい。ほんと仲良いよね。
アキラ だろー?
ススム よくない。
アキラ そんでシーちゃんはどうしたの?
シオリ 私、今日朝早くから実験してたから早めに終わったの。だから何してるかなーと思って。でも…。

シオリ、研究室を見渡す。

シオリ そっちも終わってた?
ススム ああ、とっくに。
シオリ ススムくんなんで残ってるの?
ススム ああいや、実験結果が気に入らなかったんだ、だから設定を変えてもう一度やろうかと
シオリ 先生もいないのに?
ススム あー…と。
アキラ いけないんだー勝手に機材使っちゃ!
ススム お前がいうな。別に使わねえよ。
アキラ だよなー、だってついさっきまで予習復習してただけやないですかー?別に?家でも?できるのに?
ススム いつの間にノート見たんだよ
アキラ 秘密さ!にしてもそんなに勉強する必要ないっしょー。まさか、誰か待ってた…?
ススム お前!
シオリ もしかして、私が終わるの待ってたの?
ススム あ、いや、そうじゃ、なくて。

照れる二人。

アキラ お、居づらいぞ!
ススム 先生が来るのを待ってただけだよ!もし研究室に戻ってきたら、機材を使わせてもらおうと思って。それだけ
シオリ そ、そっか。
ススム そうだよ。何言ってんだ。
シオリ ごめん。
ススム いや、謝らなくてもいいけど。

微妙な空気の二人。

アキラ いや結果居づらいな!
シオリ ま、まあその。勉強ばっかりしてるから、疲れてないかなーって様子見に来ただけ。じゃあね。

シオリ、研究室を出る。

ススム あっ。
アキラ またねー。

ススム、ため息1つして帰る準備を再開する。

アキラ ススムさーん。先生待つくらいなら職員室まで探しに行った方が早かったんとちゃいますかー?
ススム 何が言いたいんだよ
アキラ ハア、情けない。この大学でお前と知りあってからまだ少しだけど。お前ら2人はもっと昔からだろ?とにかく!もういい加減見てられませんよこっちは!
ススム 何が?
アキラ 何が?じゃないよ、好きなんだろシーちゃんのこと!なーにをウダウダ付かず離れずしてんのよ!
ススム 別にそういうアレじゃ
アキラ じゃどういうアレだよ。それにさっきの反応見てたろ?何度も言うけど、シーちゃんも絶対ススムに気があるって。それをお前は
ススム シオリとは幼馴染なだけだ、だからって俺と何かあるわけじゃ
アキラ もーう中学生かお前は!
ススム ていうか、お前とそういう話するつもりないから。じゃあな。

ススム、足早に帰る。

アキラ あっいつの間に。ちょっと、あ、設計図!いやでも、あーもう。

急いで設計図を片付けようとするが、うまくいかずモタモタするアキラ。

アキラ 待った、待てよ、待ってよススム!ススム先生ー!

●研究室→外

外。学校を出るところのシオリ。
ハルカが声をかける。

ハルカ シオリ。
シオリ あ、ハルカちゃん。待ってたの?
ハルカ うん。
シオリ ごめんね。
ハルカ いや?今日もダメだろうなーと、思ったからさ。
シオリ まあ、ダメだったけど。

歩き出す二人

ハルカ 前から気になってたけど、アンタ達もう今の関係で満足しちゃってない?
シオリ え?今のって?
ハルカ なんていうの、こう、お互い好きだけど、ちゃんとは言わない距離感みたいな。駆け引きみたいな。
シオリ そんなことないよ!
ハルカ まあアンタはそんなタイプじゃないよねえ。ススムの方も違うか。けど、だとしたらもういい加減見てらんないよ。
シオリ ごめん。
ハルカ ああ怒ってるわけじゃないのよ。ただ、このまま大人になっても今の関係のままじゃ、お互いに良くないってか、居心地悪いでしょ?
シオリ ど、どうすればいいかな?
ハルカ どうするって、誰がどう見たって両想いなんだから、あとはどっちが先に一歩踏み出すか!
シオリ 一歩…。
ハルカ そう、一歩。本当はこういうのススムがやることなんじゃないかなーと思うけど、今の今まで何にもないんじゃ頼りにならないから。やっぱここはアンタが一肌脱がないと!
シオリ 脱ぐの?
ハルカ いや本当に脱がなくていいけど!
シオリ ぐ、具体的に…。
ハルカ うーん、じゃあ明日の…
シオリ 明日?ちょ、ちょっと急すぎない?
ハルカ だーかーら!そう思ってるのはアンタ達だけ!いい?なっがい延長戦はもう終わり。ススムとうまく行きたいでしょ?
シオリ うん…。
ハルカ よし。じゃあ明日ね。まず朝あいつに会ったら…

2人の会話は弾む。

●外→研究室

1-2 15日 9:30
次の日の朝、研究室。
ススムが入ってきて、いつも通り荷物を置く。
携帯の着信が鳴る。
ススム、着信相手を確認すると、拒否のボタンを押してポケットにしまう。
直後、アキラが携帯を持って現れる。

アキラ いや出ろよ!
ススム いたんなら来りゃいいだろ。
アキラ それ正論。
ススム 朝から元気だな。
アキラ そりゃな!だって昨日途中で終わっちゃったろ?例の
ススム ガラクタ?
アキラ タイムマシンだよ!ったく

アキラ、部屋の奥へ行く。

ススム 待て、誰も話聞くなんて言ってないぞ!
アキラ 聞こえない聞こえなーい!

アキラ、奥から設計図とマシンを取ってくる。

アキラ これでよし。
ススム よくねえよ
アキラ なあ頼むって!他の人たちが来るまでで良いから、話だけでも聞いてくれ。絶対興味持つから!
ススム わかったわかった。近いよ。

ハルカが入って来る。

ハルカ おはよー。あら、アキラくん。
ススム ほら人が来たぞ、話は終わりだ。
アキラ そんなー!…ハルカちゃん…おはよう…。
ハルカ え、なに。私何かした?
アキラ あっそうだ。こうしよう。三人寄れば文殊の知恵って言葉がある。
ススム 要はハルカにも聞いて欲しいってことか。
アキラ さすが!
ハルカ なになに、何の話?
アキラ 俺の天才的な発明にアドバイスが欲しいんだよー。
ハルカ 面白い、どんな発明?
アキラ これ!

マシンを指差すアキラ。

ハルカ えっと、おもちゃ?
アキラ タイムマシンだよ!
ハルカ タイムマシン?えっマジで?
アキラ マジで!
ススム くだらない。
ハルカ そう?ほんとに動くならすごくない?
ススム …動くならな。
アキラ 動くよ!
ハルカ 原理は?
アキラ そこはシンプルさ。

アキラ、設計図とマシンを二人に見せる。

アキラ まずこの起動ボタンは静電容量方式だ。スマホのタッチパネルとおんなじ。でも、更に使用した人の脳波まで同時に測定する。
ハルカ じゃあ同じようにタッチパネルにしたら?なんで押し込み式のボタン?
アキラ そりゃあ、押した感が欲しいだろ?
ハルカ あー。
ススム ハア…それで?
アキラ それで!起動と同時に…ここが本体なんだけど、ここで
ススム おい、このボタン針がついてるぞ。
アキラ あ、バレた?
ハルカ なんで針?押せないじゃん。
アキラ いや押すんだよ。そしたら指から血が出るだろ?その血液から原子核と電子を分離して、その際に生じるエネルギーを使って本体の中で電子に一定の電荷をかけながら加速させて…
ハルカ 待って待って。ちょっと待ってアキラくん。もしかしてその…これは、加速器なの?あの、CERN(セルン)の建設したハドロン衝突型加速器みたいな。
アキラ そうさ!
ハルカ こんな、小型で?
アキラ そうさ!
ハルカ すごい、すごすぎる…けど…何考えてるの!
アキラ えっ?
ハルカ あんなもの個人で作って起動させることがどれだけ危険かわからないの!
アキラ いや、でも
ススム 危険じゃないだろ。
ハルカ だって!
ススム わかってる。もし加速器が起動すれば、粒子が衝突した時にバカみたいなエネルギーが発生する。ここを中心にブラックホールが出来る可能性だってある。
ハルカ そうよ、それがわかってるならどうして
ススム だって、起動しないんだろ?これは。
ハルカ だからって…え、そうなの?
アキラ そう、なんだ…。何もかも全部設計図通りに作った。計算式も全部あってるはずなんだ、でも…動かない。
ススム だから指に絆創膏してたのか。
アキラ あ、気づいた?
ハルカ 実験したの?ブラックホールが出来るかもしれないって知ってて?
アキラ 知ってるけど!でも、ノーベル賞どころじゃない発明だよ?過去や未来に行けるならこれ以上素晴らしいことないじゃん!考えてみなよ、二人だってあるだろ?あの瞬間に戻れたら〜とか、未来に誰と結婚してるかな〜とか!
ハルカ そのせいで人が死んでも?
アキラ うっ…。
ハルカ 信じらんない。私は関わらないから。

ハルカ、時計を確認する。

ハルカ 先生来るまでまだ時間あるし、コーヒーでも買って来る。それまでにその危ないおもちゃ、壊すか捨てるか閉まっておいて。
アキラ タイムマシンだってば!

ハルカ、研究室を出る。
腑抜けてデスクに突っ伏すアキラ。


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