陽を描く。
?○役名
 一広・・・十九歳。男。
 四華・・・女。
 赤里・・・女。大学一年生。
 一広の母
 医者

○舞台
 舞台の上手側→妄想の中の教室・一広の部屋
    下手側→一広の部屋の扉前
 その他場合により舞台前部分や客席を使用






    暗闇から一広以外の役者の唸る声。

医者 暗闇。

母  暗闇。

赤里 暗闇。

    三人が繰り返し何度も言う。

四華 ねえ、私は誰?

四人 暗闇にいる私は、

    明かりが点くと、上手側に机と椅子が一つずつ置いてある。そこに高校の制服を着た一広が座っている。

一広 一限、数学、二限、物理、三に体育、四、公民。嫌いな教科ばっかりだな。月曜日ってこれだから嫌なんだよ。こうも偶然に俺の心を抉るような時間割を作れるなんてなあ。そう思うだろ? ああ、お前体育得意だもんな。中学の頃、マラソン大会一位だったし。良いねえ、スポーツと無縁な人生の俺とは大違いだよ。嫌味じゃねえよ、本音。まあ、得意不得意はあるもんだ。別に僻むことじゃないよ。そうだな、今日もなんとか乗り越えるとするか。

    チャイムが鳴る。一広、眠り出す。

一広 ん、何だよ。しょうがないだろ、好きじゃないんだからさ。大丈夫だよ。いざとなったら、お前からノート借りるからさ。痛っ。何も叩くこと、あ、先生見てるぞ。勉強してるフリ。

    ノートに落書きを始める。

一広 なんだよ、まだ途中までしか描いてないんだから。見せねえよ。ほら、また睨まれるぞ。前向け。ん、やっぱり想像だけじゃちょっと限界あるな。また見に行かないとな。え? お前はいいだろ。殆ど完成してんだから後は想像だけで描けよ。それに朝まで起きてるの辛いんだよ。勘弁してくれ。いや俺は一人でもいいんだからさ。分かったから静かにしろ。

    チャイムが鳴る。一広、弁当を取り出す。

一広 何だよ、ここで食べるのかよ。お前友達いないのか。いや、人の事は言えないな。何笑ってんだ。やっぱり一人で食べようかな。

    一広、立ち上がる。

一広 分かったから袖引っ張るなよ。ここで食べればいいんだろ。

    もう一度椅子に座る。

一広 昼休み短いよなあ。もう少しあれば飯食べ終わってから屋上行けるのに。でも屋上(小声になる)、確かに眺めは良いけどさ、鍵開けてるのばれたら絶対怒られるよな。お前は呑気だな。近所にどっか無いかなあ、高くて景色が良いところ。

    チャイムが鳴る。

一広 ようやく学校終わりかー。今日も一日長かったなあ。お前本当に元気そうだな。え、今から? 新しい絵に入る時間ねえよ。俺は夜になるまで学校で待つ。だって、ああは言ったけどやっぱりあそこがスケッチするには一番の場所なんだよ。え? そんなところがあるのか? そうか、でも今は(スケッチブックを取り出す)こっちの絵を完成させるんだ。分かったよ、今度な、今度。じゃ、また明日な。

    一広、机に突っ伏して眠る。夜になる。母と医者が話している声がぼんやりと響く。翌日の朝になる。また一広が椅子に座っている。
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