ヒーローなんていなかった

(ひーろーなんていなかった)
初演日:2016/10 作者:ならで
井上誠(いのうえまこと)……男子高校生。文芸部員。
   高坂彩音(こうさかあやね)…女子高校生。
   シシモト…男子高校生。文芸部部長。
   川端恭子(かわばたきょうこ)…先生。男にしてもいい。
   相沢翔(あいざわかける)…男子高校生。女装趣味。
   女A ……女子高生。シシモトのクラスメイト。兼任可能。
   女B ……女子高生。シシモトのクラスメイト。兼任可能。
  
    歌が流れ、幕があがる。
    寝っ転がってテレビを見ている井上。
    テレビを消すと音響もとまる。
  
   井上「……退屈だ退屈だ退屈だ! この人生、おもしろいことなんてこれっぽちもあ
     りゃしない! 学校、家、学校、家、学校、家……ただただその繰り返し! つ
     まらないつまらないつまらない! もっとこう、刺激的ななにか……そうたとえ
     ば、アニメみたいにある日突然美少女が降ってくるとか! 異世界に召還され
     ちゃって、ドラマティックでファンタスティックな冒険を繰り広げたりとか!
     ……そんななにかがほしいよ。俺をこんな退屈な日常から救いだしてくれる、そ
     んななにかが」
   シシ「俺……かな?」
   井上「えっ!? 誰!?」
   シシ「俺? 俺は」
  
       場面転換。
  
   井上「ここは文芸部室! いつもは他のやつらも呼んで麻雀したりトランプしたりしてい
      る、夢と希望にあふれた秘密の楽園だ! そんな文芸部室が、今日は珍しくもシシ
      モトとこの俺、井上誠の二人っきり。なんだけど……」
   シシ「うひょー! やっぱりゲームのBGMってテンションあがるよなぁ!」
   井上「……ちょっとシシモトがうざい、そんな日だった」
   シシ「あー、ここはあのシーンだわ。ボス戦前のさ」
   井上「なあ、シシモトー、お前、まじで医学部受験やめるの?」
   シシ「え〜。ああ、うん、まじ」
   井上「へ〜。小説を書く片手間に医者をやるなんて頭おかしいこと、言ってたのに?」
   シシ「もともと医者にそこまでなりたかったわけじゃないしさ」
   井上「へえ、家は? 誰が継ぐの?」
   シシ「妹か弟かな」
   井上「よく親が許したな」
   シシ「まあ、もともと、数学壊滅してたし、ちょうどよかったんだよ」
   井上「へ〜」
   シシ「……でも、もっと大変なのはここからなんだよ」
   井上「え?」
   シシ「母親が結婚しなかったら家から追い出すって! 俺、長男だよ!? それなの
      にぃ!? ひどくね?」
   井上「あらら〜。お前言い返さなかったの?」
   シシ「もちろん言い返したとも! 俺はもう、スズランちゃんと結婚してるーーー! 
     だから三次元の女なんかに興味はねぇええええええ! ってさ」
   井上「そしたら?」
   シシ「殴られたよ」
   井上「あらら」
   シシ「だから俺は言ったのさ。殴ったね! 親父にもぶたれたことないのにって!」
   井上「そしたら?」
   シシ「親父に殴られた」
   井上「ふっ、ざまぁねぇな」
   シシ「な、ロマンがないよな。俺の親、そういうのわかってないんだよ」
   井上「まあ、なかなか難しいわな。……で、医学部受験やめて、どうするの?」
   シシ「ん〜。法学部にでも行こうかなって」
   井上「法学部? なに? 弁護士にでもなるの?」
   シシ「ああ〜。いいよなぁ〜弁護士。同窓会でさ、今なにやってんの? ってきかれた
      ら、これって言って、バッチ見せびらかせるしな〜」
   井上「そんな理由でなろうとしてるの?」
   シシ「そんなもんだよ。……まあ、弁護士を目指してるわけじゃないんだけどさ」
   井上「じゃあなんで法学部?」
   シシ「俺、そういうの好きだし。それに、小説を書くヒントが手に入りそうじゃん?」
   井上「お前ほんとに作家になりたいんだ」
   シシ「そうだよ」
   井上「投稿とかしてないのか?」
   シシ「……お前、投稿して大賞とっちゃったらどうするんだよ? 作家活動しながらっ
      て、この学校ゆるしてくれなさそうじゃん」
   井上「お前、どこからその自信来てるの?」
   シシ「俺は天才型だから。塾の先生にも言われた」
   井上「そいつ、目腐ってるんじゃねぇの?」
   シシ「……で、お前はどうすんの?」
   井上「え?」
   シシ「えって、井上、お前は大学どうするの?」
   井上「う〜ん……興味ないかな」
   シシ「ええ! 高3だろうが。好きなこととかねぇのかよ」
   井上「ないよ」
   シシ「お前さぁ……」
   井上「やめようぜ。夢の話すると、なんか心臓の辺りがキュゥってするんだよ。……あ、
      ほら、時間時間! お前今日、川T(カワティー)部だろ」
   シシ「うわぁ、その名前を出すな!」
   井上「え、そんなに?」
   シシ「ああ、おそろしや、おそろしや……」
   井上「説明しよう! 川T部というのは、川端ティーチャー、略して川Tの居残り教室の
      ことであーる! そこでは厚化粧の川端先生が教卓でふんぞり返って座っており、
      逃げ出そうとしたやつには……」
   川端「は? ちょっとあんた、なに帰ろうとしてるの? まだ終わってないでしょ! い
      いわ。もう今日、あんたのお母さんに電話しとくから!」
   井上「と、そのマスカラで真っ黒の目をこれでもかっ! と見開いて脅すのだ……。そん
      な目でにらまれたら、心臓だって凍り付く! ああ、そこは地獄。この牢獄のよう
      な高校の、最も恐れられる場所であーる!」
   シシ「だがしかし! 俺は、それに屈しない!」
   井上「ああ! シシモト! われらがヒーロー! ただしおばか!」
   シシ「川T! こんなのおかしいだろ!」
   川端「川Tじゃないでしょ! 川端先生!」
   シシ「そんなことどうでもいいでしょ。これ、締め切り来週の月曜日じゃないですか!
      なのに、どうして残されなきゃいけないんです!」
   川端「だから、確認したらあんた少しもやってなかったじゃないの!」
   シシ「俺は多忙なんです! だから今週末の土日でやろうとしてたのに! 確認でペナル
      ティがあるっておかしいでしょう!」
   川端「あーもう、うるさいうるさい。いいからやりなさい」
   シシ「ねえ、おかしいでしょう! 俺はやりませんよ」
   川端「親に電話するわよ」
   シシ「したいならすればいいでしょ。電話線抜いておくんで問題ないです」
  
      シシモト、座りこむ。
  
   井上「お前……」
   シシ「なんだよ」
   井上「ばかじゃね」
   シシ「……俺が正しいのに、なんで屈しなきゃいけないんだよ」
   井上「な、川T部活行ったし帰ろうぜ!」
   シシ「……おう」
   井上「無論、次の日シシモトは川Tにぶん殴られていたが、僕は気づかなかったふりをし
      た」
   シシ「暴力反対! 先生、暴力反対! ぎゃぁああああああ」
   井上「……気づかなかったふりをした」
   シシ「そうだよ。お前が助言したから帰ったのに、俺だけ怒られてさ〜」
   井上「最終的に判断したのはお前じゃん。俺は知らないよ」
   シシ「冷たいなぁ」
   井上「でも、そんなのへっちゃらだっただろ。なんで今日になってそんなに怖がってる
     んだよ」
   シシ「実はさぁ、川T、おかんの携帯に電話かけやがって、おかん、カンカンに怒っ
      ちゃって、次なんかやったら、俺のパソコンデータ全部消すっていうんだよ」
   井上「ああ、お前のパソコンには愛しのスズランちゃんのデータが入ってるもんなぁ」
   シシ「それだけじゃねぇよ。俺がためにためこんだ、数千枚のエロ画像が……」
   井上「……そういや、修学旅行に持ち込んで反省文書かされてたな」
   シシ「そう! 俺が最終日のレストランでそれを眺めてたら」
  
   川端「私、川端恭子! 年齢は……ヒ・ミ・ツ。うふふ、今日は待ちに待った修学旅行
      の日よ。もちろん、生徒の皆には楽しんでもらうけど、だからと言ってハメをは
      ずしすぎないように監督するのが私達教師の役目。さて、悪さをしてる生徒はい
      ないかしらー?」
   シシ「おぅふ! でゅふ、でゅふふふふふ」
   川端「ちょっと、なにエロ画像なんて持ち込んでるのよ! 頭おかしいんじゃない
      のーーー!」
  
   シシ「……って。きっと俺の嫌がること熟知してるんだろうなぁ……」
   井上「レストランって、そりゃお前が悪いだろ」
   シシ「俺がどこで嫁を眺めようと勝手だろ?」
   井上「公共マナーは守れよ」
   シシ「はぁ……。さーて行くか」
   井上「あ、ちゃんと従うんだ」
   シシ「……ヒーローは人質を取られると弱いのさ」
   井上「……二次元だけどな」
   シシ「じゃ! 俺はちょいと行ってくるよ! スズランちゃんを守るためにも!」
   井上「いってら〜」
  
       シシモトはける。
  
   井上「はぁ、暇なんだよなぁ。シシモトがいないと。あーあ、トランプも、麻雀も相手
     いないとできないし。……あ、部誌(好きな本の名前でOK)のバックナンバーでも
     読むかぁ」
  
      高坂、やってきて、ノック。
  
   高坂「あの〜、シシモトいますか?」
   井上「ひぃえっ!」
   高坂「えっ! どうしましたっ!?」
   井上「え、いや、ちょっと心臓が飛び出て」
   高坂「へ?」
   井上「あ、いや、こっちの話。……で、なに?」
   高坂「えっと、シシモトいますか?」
   井上「あ、ああ……いや、いないけど」
   高坂「どこいったかわかりますか?」
   井上「川T部かな……」
   高坂「あ〜、なるほど〜。ありがとうございます」
   井上「いや、こちらこそ……へへへ」
  
      井上、高坂を気持ち悪く見送る。
      高坂、若干引きながらはける。
  
   井上「は? シシモト、女友だちなんていたわけ? ないわー、ないわー。なに、あい
     つ授業中に『俺は新世界の神になる!』とか叫んでたのに? 暑い日に塩分補給っ

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